不眠症、寝酒に頼ると逆効果

不眠症治療、寝酒に頼ると逆効果 疲れ取れず

日本人の5人に1人が悩みを抱える不眠。
生活習慣の改善で好転することもあるが、悪化した場合は薬を使う治療も有力な選択肢となる。
寝酒に頼ると、かえって症状を悪化させがちだ。
薬は正しく使えば症状改善が期待できる。
ただ副作用が出る場合もあり、医師の指導に従う必要がある。

都内に勤務する男性Aさんは寝つきがよかった。
ところが昨秋、仕事でトラブルが続いたうえに勤め先のリストラ計画も浮上。
寝つきが悪くなり、夜中に目覚めると眠れなくなった。
3週間ほどたつと、昼間も眠く生活や仕事にも支障が出始めた。
床につく前にワインを飲むと眠れたが、効果は長くは続かなかった。
1カ月たって近所の病院に行くと、不眠症と診断された。

日本人の3割が飲酒に頼る
不眠になったとき、日本人はアルコールに走る傾向が強い。
医療機関を受診するのは1割に満たず、飲酒に頼る人は3割という国際的な調査もある。
実はアルコールは不眠の解消には効果が薄い。
脳は覚醒に近い状態だが身体は休息している「レム睡眠」を妨げるため、筋肉が休まらず、翌日にだるさが残りやすい。
昼間の生活に支障が出るようなら、積極的に治療した方がよい。
これは専門家の共通する見方だ。
Aさんは睡眠導入剤などを処方されて症状が好転した。「睡眠薬なんて大げさなと思ったが、ウソのように眠れ、疲れもとれるようになった」と振り返る。

睡眠薬というと危険というイメージがあるが、最近の薬は命に関わったり障害を残したりする副作用が出ることはまずない。
ただ、使用法などに気をつけないと生活の質(QOL)をかえって下げてしまう。
例えば、医師が処方する睡眠薬は脳を鎮静させ、不安を和らげる効果がある。
効く人だと、翌日も眠気が続いたり、起きたときに頭がぼんやりしたりすることがある。
飲んだ後に車を運転するのは危険だ。ふらついたりすることもあり、注意する必要がある。
誤った使い方をしてしまう場合も多い。
寝る直前に飲む」と指示されていても、1~2時間前に飲む人が多いという。
眠たくなくても前夜に起きたことや約束を翌朝にはきれいに忘れてしまう場合もある。
副作用を強めるため、お酒を飲むことは避けたい。

高齢者には効きすぎることも
高齢者の場合には特に注意が必要だ。
ふらつきやつまずきで転倒して骨折したのがきっかけで寝たきりになる人もいる。
特に鎮静効果のある睡眠薬を飲むと、思考や記憶、意欲などの司令塔となる脳の前頭葉の働きが低下する。会話が成り立たなかったり、冷蔵庫を開けて食べ物をあさったり、場所がわからなくなったりするといった異常が出ることもある。
高齢者は睡眠薬が効きすぎたり、副作用が出たりしやすい。

こうした副作用が起きにくい新しいタイプの薬も出ている。
睡眠を促すホルモンのメラトニンに似た物質で、体内時計に働きかけて脳を鎮静することなく眠りに導く。既存薬のような即効性は期待できないが、次第にリズムを整えて眠りやすくしてくれる。
不眠症を治療する場合、睡眠薬を使えば眠れるという自信を持つことが最初の目標となる。
眠る習慣がついたら、数カ月かけて少しずつ量を減らしていく。
このとき自己判断で、薬を減らしたり急にやめたりすると、副作用が出やすく危険だ。

薬の量を減らすときは併せて、食事や生活習慣の見直しにも取り組むようにする。
夜にメラトニンを出すために、その原料となるアミノ酸トリプトファンを多く含む食品を朝から食べる。カツオ節や大豆、バナナのほか、脳内に取り込みやすくする炭水化物などが適している。
寝る前にメールをしたりテレビを見たりすることはなるべく控える。
寝室は暖かくするなどし、体を支えるマットレスや布団などは寝返りのしやすさを考えて選んだ方がよいと。

参考・引用一部改変
日経新聞・朝刊 2013.2.3