増えていく薬、副作用に注意

増えていく薬、副作用に注意

高齢になると、複数の病気にかかることが多くなり、薬の種類や量が増えがちだ。
一方、若いころに比べ、薬を分解、排泄する体の機能は衰え、転倒や物忘れなどの副作用が出やすくなる。医師や薬剤師によく相談することが大切だ。

6種以上で リスク増
80代の認知症の女性は、ときおり気を失うようになった。
ある日、手が震えていることに家族が気付いた。
診察した医師は、薬の副作用を疑った。
 
認知症に加え、不整脈や高血圧の薬など10種類を使っていた。
手の震えは不整脈の薬によって、気を失うのは降圧薬の効きすぎで低血圧になったことで、起こされた可能性があった。
 
そこで家族と相談。
2年かけて4種類に減らした。
気を失うことは少なくなり、手の震えはおさまった。
 
複数の薬を使っている高齢者は多い。
全国の薬局調査では75歳以上の4割で5種類以上の薬が出されていた。
 
薬が6種類以上になると、副作用が増えるという報告もある。
だが、薬の副作用として、ふらつきや転倒、物忘れ、うつ、食欲低下、便秘などがあっても、これらは高齢者によくみられる症状のため、見過ごされがちだ。
ふらふらして転びやすい人のなかには、睡眠薬や降圧薬、抗うつ薬などの副作用が疑われることがある。
 
痛み止めの薬で高血圧やむくみが起きているのに、降圧薬や利尿薬が出される。
降圧薬が効きすぎてめまいや転倒を招いているのに、めまいの薬が出される。
薬の副作用と気付かれずに、その症状に対して薬で対応され続け、薬が増えていく「悪循環」・・・。
こうしたケースはしばしばある。

処方する医師はもちろん治療を受ける側も薬の副作用を疑ってみる視点が大切だ。
薬の減量や中止で症状が改善することもある。

必ず医師に相談、「お薬手帳」活用
薬の多剤併用で害があるものを「ポリファーマシー」と呼ぶ。
薬の数が多いことだけが問題ではなく、副作用のリスクが高まる。
数が多くなれば服用のタイミングや量などを間違ったり、副作用を恐れて飲まなくなったりする問題にもつながる。
 
薬をむやみに増やさず、適正に使うために、患者はどうしたらいいのか。
 
勝手に自分で判断して、薬をやめるのもよくない。
多すぎる薬を減らすことに意味はあるが、まずは医師と相談することが必要だ。
勝手にやめれば、病状が悪化することもある。
薬を飲まなかったときは、医師に報告する必要がある。
 
それには「お薬手帳」を有効に使うことが大切だ。
手帳は複数ではなく一冊にまとめ、市販薬やサプリメントを使った場合はそれも記録する。
体調の変化や、「食欲不振」「ぼーっとなる」など気になることも書き込む。

私的コメント
しかし、「お薬手帳」にはそういったスペースはありません。
付箋の有効活用がよいかも知れません。

忙しそうな医師に遠慮して質問しづらいと感じる人は、あらかじめ聞きたいことをメモにし、手帳と一緒に見せることもできる。

私的コメント; 
院外処方を行っている先生は、「お薬手帳」をチェックしていないのが実情ではないでしょうか。
実態は調剤薬局の薬剤師が処方後のチェクに活用されていることが多いのです。
処方後に薬剤師がチェックするのでは遅すぎます。
処方の際での、他の医療機関の薬剤との重複や併用禁忌のチェックをまさしく処方する医師がチェックするのが「お薬手帳」の正しいあり方です。
当院では、「お薬手帳」を持参していただくように患者さんに促しています。
これは処方する際に大いに役立ちます。

適切な処方へ厚労省が指針
厚生労働省は昨年、「高齢者の医薬品適正使用の指針」をまとめ、医療関係者向けにポリファーマシーについての基本的な考え方を示した。
 
薬の処方の見直しは、患者に副作用が疑われる症状が出たときだけでなく、受診、入院、施設入所など、さまざまな機会にできる、とした。
 
患者の病状、認知機能、栄養状態、生活環境などを評価したうえで、「薬以外の方法はないのか」「薬の重複や副作用はないのか」など、問題点を調べる。
 
薬の効果を確認することも重要だ。
効果がない場合は代替薬への変更や減量、中止を検討する。
患者に生活習慣の改善も促し、減らす場合は慎重に様子をみながら進める。
 
指針では、かかりつけ医が患者への薬の処方全体を把握することや、患者がかかりつけ薬局をもつなど「薬局の一元化」が、ポリファーマシーの解消につながる、とした。
 
いま副作用がない場合でも、薬の数が増えていけば、(将来、副作用を引き起こすかもしれない)「潜在的なリスク」を増やしていることにも注意する必要がある。
薬を減らすと、介護者の負担減や医療費の節約にもつながる。
 
ただし、薬の処方を見直すのは、単に薬を減らすことではなく、患者ごとに適切な処方を探ることが目的だ。
 
高齢者が副作用を起こしやすい薬はできるだけ避けるが、患者によっては必要な場合もある。
治療の優先順位を考え、本当に必要な薬を選ぶ。
複数の病気を治療する際、どの病気を優先するかは、医学的な判断と患者の希望で決まる。

朝日新聞・朝刊 2019.2.6


<関連サイト>
高齢者のポリファーマシー
https://wsnoopy.wixsite.com/mysite/blog/高齢者のポリファーマシー

高齢者の医薬品適正使用指針(総論編)について
(平成30年5月29日付通知)
https://www.jshp.or.jp/cont/18/0531-4.pdf
https://www.mhlw.go.jp/content/11120000/000343469.pdf