爪の水虫、のみ薬で根治を

爪の水虫、のみ薬で根治を 白癬菌で変色や変形、21年ぶり新薬

梅雨になり、気温と湿度が高い日が続く。
水虫の原因である白癬菌は、じめじめとした環境が大好きだ。
特に注意したいのが爪に感染する水虫だ。
治しきらないと、足の水虫を繰り返す原因になる。
昨年、21年ぶりに新しいのみ薬が出て、より治療しやすくなった。

東京都内に住む70代男性は足の水虫が気になり、今年1月、埼玉医大病院の皮膚科を受診した。
靴を脱ぎ、T 教授に足を見せた。
爪は濁っていて、形も崩れていた。
削り取った部分からは白癬菌が見つかった。

「足と爪の水虫ですね」。
男性は「爪も水虫になるんですか」と驚いた。
さらにT 教授は「爪の水虫を治さないと、足の水虫を治しても爪から菌が移って再発します。爪の水虫も治しましょう」と続けた。

水虫の原因はカビの一種の白癬菌だ。
白癬菌は皮膚の角質に含まれているケラチンというたんぱく質を食べている。
高温多湿を好み、梅雨から夏にかけて症状がひどくなりやすい。

水虫は2種類に分けられる。
足の水虫は、足の裏や指の間などの皮膚が白く濁り、かゆみを伴い、ひび割れを起こす水虫だ。
5、6人に1人がなっていると言われている。

もう一つは爪の水虫。
爪や、爪と皮膚の間に菌が潜んで白っぽくなったり、表面に縦じまができたりする。
爪が変形して歩くと痛みが出ることもある。
10人に1人とされる。
爪の水虫では、ぬり薬よりものみ薬が主な治療になる。
ただし、妊娠中などで使えない場合はぬり薬を使う。

これまでは「テルビナフィン」と「イトラコナゾール」という二つののみ薬が使われてきた。
テルビナフィンは1日1錠(125ミリグラム)を半年ほどのみ続ける。
イトラコナゾールは1日400ミリグラムを1週間のみ続け、その後3週間は空ける。
それを3サイクル続ける。

昨年7月、「ホスラブコナゾール」という新たな薬が加わった。
1日1錠(100ミリグラム)を3カ月のみ続ける。
両方のよい所を合わせたような薬で、のみ方がわかりやすく短期間で済む。
ただ、肝機能障害がでることもある。
男性はこれをのみ続け、5月に再受診。
根元からは新しいきれいな爪が生えていた。

注意したいのは自己流の治療だ。
爪の水虫は見た目ではわかりにくく、皮膚科医でも判断に迷うことがあるという。
水虫が原因ではない場合に誤って市販薬をぬるとかえって悪化することもある。
T 教授は「医師の診断を受けて治療するのが大切だ」と話す。

足の皮膚から感染、素足共有の場に注意
爪の水虫を予防するには、まず足の水虫にならないようにするのが肝心だ。

白癬菌は水虫の人の足からはがれ落ちた角質に触れることで感染する。
高温多湿の状況で、足に傷口があると感染しやすくなる。
温泉やプール、自宅の風呂など、素足の状態を共有する場所に注意する。
だが、感染力は弱く、半日以内に足を洗えば防げるという。

海外から入ってきた強力な白癬菌が国内で猛威をふるったこともある。
白癬菌の一種「トリコフィトン・トンスランス」による「トンスランス感染症」だ。
国内では2000年ごろ、柔道や格闘技の選手の間で目立つようになった。

感染すると、首回りや頭皮の一部が円形にただれ、毛が抜けることもある。
真菌にくわしい、お茶の水真菌アレルギー研究所(東京都文京区)のH 所長は「感染力が強く、なかなか治らない」と話す。

H 所長らは大学の柔道部を中心に、選手約1千人を検査し、啓発活動に取り組んできた。
当初は調査対象者の10~15%が感染していたが、現在は数%にまで減ったという。

ぬり薬で治療するが、頭皮に菌がいる場合はのみ薬で治す。
H 所長は「症状がおさまっても菌が消えたかわかりにくく、自覚なく感染源になっているおそれがある。完全に治しきることが大切だ」と話す。

朝日新聞・朝刊 2019.6.26


トンズランス感染症
http://www.jocd.org/disease/disease_14.html
・ここ数年、日本各地でトリコフィトン・トンズランスという新しい水虫菌が外国から持ち込まれ、柔道をはじめとする格闘技選手の間で流行していることが問題になっている。

・この病気は特殊な病気ではなく、格闘技選手のみならず、家族内感染により主婦の方にも感染がみられるので、格闘技をしないからといっても他人事ではない。
正しく理解すればこわい病気ではないが、治療を怠ると保菌者となって感染源となってしまう。

・この新しい水虫菌は体・頭に寄生しやすいため、タムシ・シラクモという症状をおこす。
タムシは少しかさかさした、リング状の紅い発疹というのが典型的だが、この水虫菌による場合には症状が軽く、擦り傷やかぶれと思われることも少なくない。
塗り薬ではなかなか菌陰性化は難しく、可能であれば飲み薬による治療が勧められる。
また、格闘技選手においては予防策として、トレーニング後のシャワー励行と共に、抗真菌剤含有シャンプーの使用も勧められている。