広がる遺伝子検査

広がる遺伝子検査 予防や治療に役立つけど・・・

私たちの体をつくる細胞の中にある遺伝子を調べる「遺伝子検査」が、どんどん身近になっている。
2019年6月からは、がん細胞にかかわる100種類以上の遺伝子を一度に調べ、どの遺伝子に変異があるかを解析できる遺伝子検査システムが、公的医療保険の適用対象となった。
患者ごとに最適な治療法を探れるようになるとの期待が高まる一方で、自分の親族に発症する恐れがある遺伝性の病気まで分かる可能性もあり、新たな課題も出てきている。
 
ヒトの細胞にある核の中には、23対の染色体が入っている。
染色体は、二重らせんの構造をしたDNAからできている。
4種類の塩基と糖、リン酸で構成されるDNAのうち、たんぱく質を作る指令が書かれた部分が遺伝子だ。
特定の遺伝子が変異することで、様々な病気が引き起こされることが分かってきている。
 
このため、遺伝子変異が原因となる難病では、遺伝子検査が診断の確定に用いられるようになっている。
おなかの赤ちゃんが染色体の異常でなるダウン症であるかなどを調べられる新型出生前診断を受ける人も増えている。

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さらに近年は、遺伝子検査の対象が一気に拡大している。
解析技術が急速に進むとともに、特にがんの分野で遺伝子の変異に対応した治療薬の開発が進んだためだ。
 
例えば乳がんでは、HER2、BRCA1、BRCA2といった遺伝子に変異があった場合に効果がある薬が分かっている。
このため、適切な薬を選ぶために遺伝子検査を行う。
 
このうちBRCAは、遺伝性乳がん卵巣がん症候群の原因となる遺伝子でもある。
2013年に米国のある女優俳優が、予防のために乳腺を切除する手術を受けるきっかけとなった遺伝子だ。
 
すでに発症した患者にとっては、治療薬選びや再発予防に役立つ一方で、親族にも発症の可能性があることが分かり、心理的な負担につながりかねない。
 
これまでは一つまたは少数の遺伝子を調べる検査だったが、これからは一度に多数のがん細胞の遺伝子を調べる検査が少しずつ本格化しそうだ。
検査の主目的ではない遺伝子変異である「二次的所見」が判明する可能性も、一層高まる。
 
このため、日本医療研究開発機構の委託研究で京都大のK教授らが3月、「ゲノム医療における情報伝達プロセスに関する提言」をまとめた。
▽ 多数の遺伝子を調べる検査では、
▽ 患者とともに家族も事前説明を受けること
▽ 二次的所見が分かった場合の開示希望の有無を同意書に記載しておくこと
▽ 知らないでいる権利があること
を説明することなどを推奨しています。

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患者や家族の不安や揺れる心にじっくりと寄り添う職種の一つとして期待されるのが、認定遺伝カウンセラーだ。
日本遺伝カウンセリング学会と日本人類遺伝学会が共同で認定する資格で、現在は17大学院の養成課程の修了後に試験に合格する必要がある。
18年12月現在で243人いる。
 
認定遺伝カウンセラー制度委員会のM委員長(お茶の水女子大教授)は「患者や家族が、今後の方針について納得のいく自己決定ができることが大切だ」と話す。
そのためにも、医師や看護師ら様々な医療職とも連携し、正しい遺伝学の知識に基づいた説明や、個々の事情に応じた遺伝カウンセリングを十分に受けられる体制づくりが急務となっている。

これから
人間の全遺伝情報(ヒトゲノム)が容易に解析できるようになり、様々な病気と遺伝子の関係が判明している。
その一部には、遺伝性があるものがある。
その場合、家族にどう伝えていくのか。
遺伝情報は究極の個人情報でもある。
一人ひとりが向き合い方を考えていく必要がありそうだ。

参考・引用一部改変
朝日新聞・朝刊 2019.7.27

<関連サイト>
遺伝子とは
https://wordpress.com/post/aobazuku.wordpress.com/514