がんのステージ別の5年生存率

ステージ別の5年生存率公表

がん治療の「通信簿」が5年生存率だ。
乳がんや肝臓がんは診断から5年以降も再発することが珍しくないが、多くのがんは5年以降の死亡はまれなため、これが治癒率の目安となる。
国立がん研究センターは9月、全国約50万人のがん患者の5年生存率を公表した。
2016年1月から「がん登録推進法」に従い、日本でがんと診断されたすべての人のデータは国が一元的に管理している。
今回のデータは、がん治療の中核病院として国が指定する「がん診療連携拠点両院」の院内がん登録データを集計したものだ。
 
今回特に注目されるのは拠点病院などの230施設について主要な5つの臓器(胃、大腸、肺、肝臓、乳房)の1~4期のステージごとに5年生存率を公表したことだ。
 
これまでも拠点病院別の臓器別の5年生存率は公表されてきた。
しかし全ステージを含む全体の数字であって、ステージ別の生存率は今回が初めてだ。
臓器別の数字とはいえ、全体の5年生存率では病院間の実力差を評価することはできない。
転移があり完治が難しい4期の患者を多く診ている施設ほど低くなり、最も早期の1期の患者ばかりが多い施設で高くなるのは当然だからだ。
 
もっとも公表されたのは治療から5年後に生存している単純な割合だから、患者に高齢者やがん以外の病気を持つ人が多ければ数字は低くなる。
実際、国立がん研究センターも「単純生存率を比較して、その施設の治療の善しあしを論ずることはできない」とクギを刺している。
 
例えば大腸がんについて、全体の5年生存率では国立がん研究センター中央病院はがん研有明病院をわずかに上回る。
しかし、ステージ別では、1~4期でがん研有明病院が勝っている。
 
全体の5年生存率の差は4期の患者割合の差によるところが大となる。
各ステージの差も年齢の影響を受けており、2つの病院で実力差はほとんどないといってよい。
 
このように、現時点では単純な比較は困難だが、がん登録のデータが病院側の切磋琢磨を促し、患者側にとっては病院を適切に選ぶ目安として活用されていくことを望みたい。
   
執筆・東京大学病院 中川恵一 准教授
参考・引用一部改変 日経新聞・夕刊 2018.10.31