人類 vs 感染症 続く闘い

人類 vs  感染症 ウイルス・細菌  続く闘い

すべて動物から・「黒死病」1億人死亡・天然痘 1980年に「撲滅」

新型コロナウイルスによる肺炎が各国に広がり、終息する気配が見えない。

振り返れば、人類の歴史は感染症との闘いの歴史でもある。

マスクやガウンで感染を防ぐしかなかった時代から、人類は「敵」であるウイルスや細菌をつきとめ、ワクチンや治療薬作りに力を入れた。

制圧に成功したものもある一方で、いまもたびたび、未知の病原体による新興感染症の流行が繰り返されている。

 

人間の体内にいるウイルスは、元はすべて動物から来ており、歴史的にみれば、遺伝子の変異によって人に感染する能力を獲得した動物由来のウイルスの出現は繰り返されてきた。

 

今回の病原体であるコロナウイルスは、2002年から03年にかけて香港を中心に流行した重症急性呼吸器症候群SARS)や、その後に中東地域や韓国で感染が拡大した中東呼吸器症候群(MERS)の原因となったウイルスと共通。

どれも動物由来の「人獣共通感染症」と考えられている。

 

世界保健機関(WHO)によると、SARSの際には、9ヵ月の間

に29の国・地域で約8千人が感染、約800人が死亡した。

一方、今回の新型コロナウイルスの感染者数は、2019年末に中国・武漢での流行が認められてからわずか2ヵ月でSARSの10倍を突破した。

爆発的な広がりは、ウイルスの性質だけでなく、国境を越えた人やモノの移動が地球規模で加速する「グローバル化」も背景にあると考えられる。

 

アフリカで流行したエボラ出血熱の原因となったエボラウイルスも、動物由来とされている。

エボラ出血熱は1970年代に最初の患者が発見され、その後アフリカで繰り返し流行、これまでに約3万人が感染、1万人以上が死亡した。

死亡率は今回のコロナウイルスよりはるかに高い。

人獣共通感染症が後を絶たないのは、人やモノの移動が激しくなるにつれ、人と野生動物の接触の機会が増えたことが一因とみられる。

 

人類史上、大流行した感染症として最もよく知られるのがペストだ。

東ローマ帝国などでの流行の記録が残り、14世紀の流行では世界で1億人が死亡したとされる。

黒死病」と呼ばれて恐れられた。 

17世紀のイタリアでは「悪性の空気」が感染源と考えられていて、医師は全身をガウンで覆い、空気の浄化作用を期待して香辛料を入れたくちばし状のマスクをして治療にあたった。

ペスト菌の発見は19世紀末の北里柴三郎らによる業績まで待たねばならず、当時は病原体に間する正確な知識はないに等しかった。

 

人間が感染するペストの中で最も多い「腺ペスト」は、菌を保有するネズミなどからノミを介して感染し、高熱が続いたりリンパ節が腫れて痛んだりなどの症状が出る。

多くの医学知識が蓄積された現代でも、地域的ではあるが散発的に流行を繰り返している。

 

感染症の世界的な大流行としては、1918年から19年にかけて2千万~5千万人の死者を出したインフルエンザ「スペインかぜ」もよく知られる。

第1次世界大戦の最中で、最初に米軍の兵士の間で流行したものが、船で欧州に派遣された兵士を介して、戦場で各国の軍隊へ広がったと考えられている。

 

日本でも38万人の死者が出た。

当時の内務省衛生局がまとめた報告書「流行性感冒」には、「病人やせきをする人に近寄らない」「人ごみを避ける」「手ぬぐいなどで鼻や口を覆う」といった、現在とほぼ同じ対策内容が盛り込まれた。

当時は薬などはなく医学的な対処には限りがあり、流行を食い止められなかった。

 

グローバル化か進む社会では、感染症はいったん流行すると世界で猛威を振るいかねない。

だが、近年はさまざまな病原体の発見とワクチン開発が相次ぎ、対策は急速に発展している。

例えば、全身にみられる発疹と致死率の高さで知られる天然痘

は、WHOによる撲滅計画が進み、1980年に撲滅が宣言された。

新興感染症と人類の闘いは続く。

 

参考・引用一部改変

朝日新聞・朝刊 2020.3.12 別刷り