ワクチン、いつできる? 新型コロナ、新技術で開発期間を短縮 「時期は見通しにくい」
新型コロナウイルスの対策として、治療に使う薬とともに期待が集まるのが、予防用のワクチンだ。
新たな技術も使い、国内外の製薬会社や研究機関が開発に乗り出している。だが、有効性と安全性の両方を備えたワクチンをつくるのは簡単ではなく、接種できる時期は見通せないのが現状だ。
「オリンピックを成功させるためにも治療薬、ワクチンの開発。日本も中心になって進めていきたい」
6日のネット番組で、安倍晋三首相はこう話し、来年夏に延期された東京五輪に強い意欲を示した。
一方、同番組で京大iPS細胞研究所の山中伸弥教授は「(五輪開催を)可能にするワクチン量をあと1年で準備できるかというと、かなり幸運が重ならない限り難しい」と述べた。
世界保健機関(WHO)によると、5日時点で米中などのバイオ企業や研究機関のワクチン候補八つで臨床試験が始まっている。
ほかに世界中で100の候補があげられている。
一般的なワクチンは、鶏の卵の中や培養した細胞でウイルスを増やしてつくる。
つくる過程でウイルスそのものを使うため、人で試す前に、増殖しないかの確認などに時間を要する。
一方、新型コロナ向けに開発中の多くは、ウイルスの「遺伝情報」や、遺伝子組み換え技術を使う新しいタイプだ。
新型コロナウイルスそのものを使わずに済み、開発期間を大幅に短縮できると期待されている。
米国内で臨床試験を始めたのが米国立保健研究所(NIH)で、米バイオ企業と共同開発する。
遺伝情報を伝える物質を使う。
今秋には医療従事者らから使っていく可能性がある。
英オックスフォード大も遺伝子組み換え技術を使い、臨床試験を始めた。
国内でも、阪大と阪大発の創薬ベンチャー「アンジェス」が、ウイルスの遺伝情報を使った「DNAワクチン」の開発に着手した。
ウイルスそのものを使うと、臨床試験を始めるまでに1~2年かかるが、この方法だと半年にできるという。
塩野義製薬(大阪市)も国立感染症研究所と共同開発に取り組む。
従来のコロナウイルスで実用化されたワクチンは、まだ存在しない。
2002~03年にコロナウイルスが原因の重症急性呼吸器症候群(SARDS)が流行し、世界各国でワクチン開発が始まった。
しかし実現には至らず、流行は収束した。
どんな方法ならば新型コロナウイルスに有効なワクチンをつくれるか分かっておらず、できる時期は見通しにくい。
ワクチンが使えるようになるには、臨床試験を通し、有効性と安全性を証明することが不可欠だ。
第一段階で主に安全性、第二段階で主に有効性を確認。
第三段階で人数を増やして有効性と安全性を確かめる。
パンデミック(世界的大流行)の状況下にあって、ほかの医薬品より審査が優先されて審査期間が短くなる可能性はある。
ただし、ワクチンは健康な人に使う。重大な副作用が出ると大変なことになる。
通常は数千人規模の臨床試験が必要で、一般の人が使えるようになるには「2年以上はかかる」とみる。
■海外でできても供給は疑問 「日本は日本で開発必要」
日本で開発されなくても、海外で承認されたワクチンを緊急輸入する「特例承認」という道もある。
7日には新型コロナの治療薬としてレムデシビルがこのしくみで承認された。
ただ、ワクチンは国民の健康を守る「安全保障」として考えるべきだとの意見もある。
ドイツの地元紙ウェルトは3月、米国がワクチン製造を手がける独バイオテック企業に対し、資金提供する代わりにワクチンを独占できるようにしてほしいと申し出た、と報じた。
企業も米側も報道を否定したが、AFP通信によると、ドイツ政府は国内企業が欧州外から乗っ取られないように規制する法案をつくった。
アルトマイヤー経済相は「ワクチンのようなきわめて重要な物資の供給などは、ドイツの国家安全保障に不可欠だ」と述べた。
海外でワクチンができたとしても、日本に供給されるのか危惧される。
日本は日本でワクチン候補を持っておくことが必要と思われる。
参考・引用一部改変
朝日新聞・朝刊 2020.5.11
<関連サイト>
新型コロナワクチンの開発の流れ