(新型コロナ)ワクチン開発、今どんな状況? 130超す研究 10種類は臨床段階に
ウイルス使わないタイプに期待
新型コロナウイルスの感染や重症化を「免疫」の働きで防ぐため、世界各国でさまざまなワクチンの開発が進んでいる。
どのようなワクチンが研究されているのか。
実用化が待ち望まれているのに、時間がかかるのはなぜなのか。
世界保健機関(WHO)によると、新型コロナウイルスのワクチンは130種類を超す研究が進み、すでに10種類がヒトで安全性や効果を調べる臨床研究の段階に入っている。
たとえば、ウイルスの毒性を弱めて体内に入れる「生ワクチン」や、感染性
をなくしたウイルスやその一部を使う「不活化ワクチン」がある。
生ワクチンは麻疹(はしか)など、不活化ワクチンはインフルエンザなどで実績があるワクチンだ。
ただ、こうした従来型ワクチンには課題もある。
ウイルスそのものをワクチンの材料に使うため、ウイルスを培養して増やすのに長い時間がかかり、感染を防ぐため厳重に管理された設備も必要だ。
そこで、開発時間やコストを抑えられると期待されるのが、ウイルスそのものを材料に使わないタイプのワクチンだ。
遺伝子操作技術を使ってウイルスのたんぱく質を作り、ワクチンの材料に使う「遺伝子組み換えたんぱくワクチン」や、ウイルスの外見そっくりな「VLPワクチン」がある。
さらに新しいタイプのワクチンとして「遺伝子ワクチン」が開発されている。ウイルスの遺伝情報の一部だけを体内に入れることで、免疫反応を起こす。
遺伝子ワクチンは、日本では製薬企業アンジェスと大阪大学が動物実験を進めている。
米バイオ企業のモデルナ社は、開発中の遺伝子ワクチンについて7月にも3万人規模の最終臨床試験を始めると発表した。
ワクチンに混ぜる「アジュバント(免疫補助剤)」という成分も注目される。アジュバントには免疫反応を強めたり、複雑な免疫反応を調整したりする働きがある。
アジュバントなど成分の組み合わせで、ワクチンの効果は大きく変わる可能性がある。
アジュバント研究はワクチン開発に欠かせない。
米国は、ワクチン開発を加速させるため、「ワープ・スピード作戦」と名付けた計画に約1兆700億円をつぎこむ。
きわめて異例だが、開発が成功するかわからないうちに、大量生産の準備を始める。
年末までに1億回分のワクチンを用意したい、と関係者は語る。
ワクチンを開発した国は、自国で優先的に使うと予想され、各国が取り組み
を加速させている。
日本も2020年度補正予算にワクチン開発や生産ライン整備支援なども含め約2千億円を盛り込んだ。
重症化の恐れある「ADE」課題
新たなワクチン開発には通常10年かかるとも言われる。
安全性を慎重に確認する必要があるためで、その中でも研究者が心配する大
さな課題が「ADE(抗体依存性感染増強)」だ。
通常、ワクチンを接種すると、体内にウイルスを無力化する「抗体」ができ、発病や重症化を防ぐ。
だが、抗体がウイルスを無力化できないと、抗体がウイルスと免疫細胞をつなぐ架け橋のようになり、ウイルスが免疫剤胞に入って増え、感染を強めることがある。
これがADEだ。
蚊が運ぶデングウイルスがひきおこす「デング熱」のワクチンとADEの関係
が疑われたことがある。
フランスの製薬大手サノフィがデング熱ワクチンを開発。
フィリピン政府が接種を大規模に進めたが、2017年に中止した。
中止されたのは、それまでデングウイルスに感染したことがない人が、ワクチン接種後に感染すると、重症化リスクがあると報告されたからだ。
ワクチン後の重症化の原因はADEの可能性がある。
コロナウイルスには様々な種類があり、ADEと関係するウイルスもある。
ネコに感染するコロナウイルスでADEが起こることが知られている。
パンデミック(世界的大流行)となった新型コロナウイルスがADEをひきお
こすかどうかは、まだわかっていない。
ただ、中国で開発された新型コロナウイルスの不活化ワクチンでは、サルの実験でADEはなかったと報告された。
ワクチンとADEについては慎重に安全性を検証していく必要がある。
参考・引用一部改変
朝日新聞・朝刊 2020.6.16
<関連サイト>
新型コロナウイルス ワクチンの主な候補