精度ならPCR 早さは抗原検査
精度ならPCR 早さは抗原検査
① 精度の高いPCR検査
新型コロナウイルスに感染したかどうかを調べるには、おもにPCR検査、抗原検査、抗体検査の三つの方法がある。
それぞれの検査には一長一短があり、特微にもとづき使い分けていく必要がある。
「PCR検査」は、ウイルスの遺伝子を専用の装置で増やして検出する。
そのため、検査結果が出るまでには数時間かかる。
医療者が、鼻の奥からウイルスが含まれる粘液を綿棒で採る必要があるため、患者にせきやくしゃみをされると感染する危険がある。
しかし6月上旬から、検体として「唾液」が使えるようになった。
発症から9日までの人が対象で、公的医療保険も使える。
唾液は自分で容器に入れるため危険が少なく、一般の病院や診療所でもPCR検査が可能になる。
感染防護具も、鼻の奥の粘液ではフェースシールドや長袖ガウンが必要だったが、唾液では医療用マスクと手袋で済む。
厚労省の研究班が発症14日以内に採取された88症例の鼻の粘液と唾液を調べたところ、9日以内の検体では、判定の結果がほぼ一致するなど精度に問題がないことがわかった。
もう一つ、診断に使えるのが「抗原検査」だ。
5月中旬に厚労省が検査キットを承認した。
PCR検査と同じように、鼻の奥の粘液を採り、ウイルスに特有のたんぱく質「抗原」があるかを調べる。
インフルエンザの診断にもよく使われている検査法だ。
手のひらサイズのキットを使って約30分で結果が出る。
抗原検査で「陽性」とわかれば、手間がかかるPCR検査をする必要がなくなるため、医療現場の負担を減らせる。
院内感染などが起きたとき、いち早く感染者を見つけて感染拡大を防ぐことにも役立つ。
ただウイルスの量が多くないと抗原を検出できず、感染を見逃す恐れがある。
一方で症状が出て2~9日目ならば、抗原検査とPCR検査の結果が一致する率が高いことが研究でわかってきた。
このため発症2~9日の患者については、抗原検査だけで診断を確定できるようになった。
② 抗体検査 広がりを知る目安
診断には使えないが、新型コロナウイルスの流行がどこまで広がっているのかを把握できるのが、「抗体検査」だ。
新型コロナウイルスは鼻やのどなどの粘膜に感染して増える。
ウイルスを排除しようと、免疫反応が起こる際に作られる蛋白質が抗体だ。
感染から2~3週間後に、ウイルスの表面にくっつきやすい形のものが大量につくられ、簡易キットを使えば採血から15分で結果が出る。
日本はPCR検査を症状の重い人に優先して実施してきたため、検査を受けていない無症状や軽症の感染者が多いとみられる。
そこで、抗体検査を広く実施し、実態をつかもうとする動きが始まっている。
厚労省は東京と大阪、宮城を対象に、20歳以上の計7,950人を無作為に選び、6月初旬から抗体検査をした。
比較的精度の高い二つのメーカーの測定法で検査し、いずれも陽性と判定された人は東京は1,971人のうち2人(0.10%)、大阪は2,970人のうち5人(0.17%)、宮城は3,009人のうち1人(0.03%)だった。
コメント
集団免疫という観点からはきわめて低い数値です。
抗体検査を、個人が免疫を持っている証明に使おうという動きもある。
麻疹(はしか)は一度感染して発症すれば、生涯免疫が続く。
新型コロナでも、一度感染すればしばらくは再感染しないという期待があり、英国では抗体のある人に証明書を出して、外出を認める「免疫パスポート」の構想もある。
だが今のところ、抗体があれば再感染しないという根拠はない。
一般的に、人口の60~70%が免疫を持てば「集団免疫」を獲得し、感染は終息に向かうとされる。
陽性者の割合が数%程度では、行動の自粛緩和といった政策を変える根拠には使えない。
抗体検査が陽性の人の割合は、感染の広がりを知るための一つの目安に過ぎない。
無症状のまま回復した人でも抗体がみつかるのかなど、まだまだ新型コロナの抗体についてはわかっていない部分が多く、検査の結果の評価は難しい。
③ 下水道調査 感染拡大を早期覚知
第2波の兆候を捉える方法の一つとして海外で注目されているのが、感染者の排泄物に由来するウイルスの量を調べる「下水道のモニタリング」だ。
専門家は「早く感染拡大の傾向をとらえられることが利点」という。
下水道モニタリングは、下水を採取し、ウイルスのサイズよりも小さい穴のあいた膜を使うなどしてウイルスを濃縮。
その後、PCRで1リットルあたりにどれだけウイルスの遺伝子があるかを調べて数値の変化を追う。
PCRの検査数を大幅に増やすことは難しく、抗体検査はリアルタイムの感染状況はつかみづらい。
この方法なら、急に値が大きくなった場合に素早く気付ける。
米国やフランス、オランダなどでは下水の中から感染者の排泄物に由来するとみられる新型コロナウイルスが検出されている。
下水道から傾向がつかめれば、外出自粛の呼びかけやPCR 検査の態勢を強化するといった準備が前もってできる。
第2波の覚知だけでなく、収束に向かっているかどうかの判断にも役立つ可能性がある。
国内でも5月から、日本水環境学会のメンバーと自治体が連携し、東京都や横浜市などでモニタリングが始まった。
フランスではロックダウン後に下水中のウイルス濃度が下がったという報告も出ており、こうした施策の有効性を見るのにも使える。
参考・引用一部改変
朝日新聞・朝刊 2020.6.21
<関連サイト>
PCR検査・抗原検査・抗体検査の相違点
https://aobazuku.wordpress.com/2020/08/28/pcr検査・抗原検査・抗体検査の相違点/