最先行ワクチン 一時中断

最先行ワクチン 一時中断

新型コロナウイルス感染症の予防用のワクチンについて、英製薬大手アストラゼネカは8日、最終段階に入っていた臨床試験(治験)の一時中断を明らかにした。

副反応(副作用)かどうかなど詳細は明らかになっていないが、国内外で急ピッチ開発が進む中、慎重さを求める声が強まっている。

 

日本1.2億回分の供給合意

アストラゼネカの報道担当者はメディア向けの声明で「安全性データの検証のため、ワクチン接種を自主的に停止した」と明らかにした。

 

・「原因不明の病気が起きている可能性がある」としている。

ニューヨーク・タイムズは関係者の話として、英国で治験の参加者が、痛みやしびれを起こす横断性脊髄炎と診断されたと報じた。

ワクチン接種との関連はわからないという。

 

・治験は一般的に100人以下で安全性をみる1相、数百人で効果や安全性をみる2相、数千人で発症や重症化を防ぐ効果をみる最終段階の3相というステップが必要になる。

同社の日本法人は、国内で8月下旬から始めた1、2相(被験者約250人)の治験を中断したと明らかにした。

 

世界保健機関(WHO)によると、世界では34種のワクチン候補が治験段階にある。

同社がオックスフオード大と協力して進めるワクチンは別のウイルスを遺伝子改変してつくる新しいタイプで、最も先行しているうちの一つだ。

 

・日本政府は来年前半までに全国民に提供できる量のワクチンを確保することをめざしている。

同社が開発に成功した場合、1億2千万回分の供給を受けることで基本合意。

ほかに、米製薬大手ファイザーなどが手がける、ウイルスの遺伝情報を使った「RNAワクチンについても、6千万人分の供給を受けることで同社と基本合意している。

 

・政府は詳細について調査するまでの間、日本国内を含めた新たな投与を一時的に中段する方針だ。

 

・ワクチン開発は通常10~15年かかり、過去最短とされるおたふくかぜでも実用化には4年かかっている。

ワクチンは健康な人にも接種するため、薬以上に安全性を慎重に見極める必要がある。

 

・3相の治験までこぎ着けても、安全性や効果が証明できず、断念するケースは珍しくない。

 

厚労省は「最終段階の中断は決して珍しいことではない。原因の解明や手続きが整えば再開されると考えている」と話す。

 

・(最終段階は)接種する人が大幅に増えるので、副反応が見つかる可能性は高まる。

接種した人が感染してはじめて出てくる副反応もあり、それは3相でしか見つからない。

 

・一方、中断してまで調べることはよくあることではない。それだけの有害事象が起き

た可能性があるが、それが副反応なのかどうかをこれから調べることになるのだ

ろう。

 

9社「安全性が最優先」前のめり各国へ懸念

・治験中断について、アストラゼネカは声明で「治験での標準的行動」と位置づけ、安全性を優先すると強調した。

 

・中断が明らかになる数時間前には、同社を含む欧米の製薬・バイオ企業9社が「団結して科学を支持する」と異例の声明を発表。

「接種を受けた人の安全と健康が最優先だ」と、拙速な承認申請はしないと宣言した。

 

・声明の背景には、各国政府がワクチン開発で前のめりになり、安全性や効果がないがしろにされているとの懸念を打ち消す意図が見える。

 

・新型コロナによる感染者数・死者数が世界最悪の米国では、トランプ大統領は11月の大統領選を控え、ワクチンの早期実用化に期待をかける。

選挙広告では「ワクチン競争のゴールラインは近づいている」と主張し、トランプ氏も「大統領選前に接種可能になる」と繰り返し示唆。

米食品医薬品局にはツイッターで「ワクチンや治療法を試すのを難しくしている」と圧

力もかけた。

 

・新型コロナの対策で不手際が続いた英国政府にとっても、ワクチン開発は「起死回生」のチャンス。

これまで、アストラゼネカのワクチン開発に 6650万ポンド(約90億円)を投資し、通

常2ヵ月ほどかける治験開始の審査をわずか7営業日で許可した。

 

・ロシアのプーチン大統領は8月、最終治験も始まらないうちに、ワクチンの「世界初承認」を発表。

ワクチンは世界初の人工衛星にちなみ「スプートニクV」と名付けられ、国威発揚の意図がにじむ。

 

習近平国家主席が3月、「一日も早い臨床試験と実用化を勝ち取れ」と指示した中国では国有製薬会社「中国医薬集団」(シノファーム)が2ヵ所にワクチン生産の拠点を建設し、失敗すれば廃棄覚悟で7月末までに400万回分を生産。

同理事長は8月、中国メディアの取材に「12月末には商品化の見通しだ」と胸を張り、今月4日から北京で始まった展示会でワクチンを初披露した。

 

朝日新聞・朝刊 2020.9.10

 

 

<関連サイト>

海外で開発中の主な新型コロナワクチン

https://aobazuku.wordpress.com/2020/09/11/海外で開発中の主な新型コロナワクチン/

 

 

コメント

・治験は来週前半にも再開されるという報道もある。(STAT 2020.9.10 6時現在)

 

・STATによると、症状が出たのは英国で治験に参加していた女性で、「横断性脊髄炎」という神経疾患が見られた。改善傾向にあり、早ければ9日に退院する見込みだという。

 

・7月にも治験参加者に神経症状が出たために一度中断したが、さらに調べた結果、ワクチンとは無関係だった。

https://www.jiji.com/jc/article?k=2020091000228&g=int