コロナワクチンで全身のアレルギー

コロナワクチンで全身のアレルギー 早め処置で回復

新型コロナウイルスのワクチンを接種した後、ごくまれに「アナフィラキシー」という急性のアレルギーを発症する人がいる。

ワクチンが原因とみられる副作用で、意識を失うこともある。

早めに処置すれば回復するとされる。接種では事前の準備をしっかりすることが大切だ。

 

アナフィラキシーは全身に激しい症状が表れる。

発症した人のうち、じんましんやかゆみなど皮膚に症状が出る人が8割、ぜいぜいしたり息苦しさを感じたりする呼吸器系の症状が約半数の人に出る。

血圧が低下し意識を失う人も2~3割いるとされる。

嘔吐や強い腹痛が起こることもある。

花粉症や食物アレルギーも同じアレルギー反応だが、アナフィラキシーは体の2つ以上の臓器で異変が表れる。

 

疾病対策センター(CDC)によると、およそ20万~35万人に1人がワクチンを接種した後にアナフィラキシーを発症している。

2020年12月14日から21年1月18日までに、アナフィラキシーを起こしたのは米大手製薬会社ファイザーのワクチンで100万回あたり5回、米モデルナ製で同2.8回だった。

ファイザー製は約994万人、モデルナ製は約758万人が接種を受けた。

 

英国の医薬品・医療製品規制庁(MHRA)は、ファイザー製のワクチンでアナフィラキシーなど重度のアレルギー反応を起こすのは10万回に1~2回の割合だったとの報告をまとめた。

CDCによると、インフルエンザワクチンではアナフィラキシーは100万回に1.3回の頻度で発生する。

 

そもそもアレルギーは、体を外敵から守る免疫反応で起こる。

口に入れた食べ物などを敵と勘違いして盛んに攻撃し自分を傷つけてしまう。

原因物質が体内に入ると、これをやっつけようと「IgE」という抗体ができる。

抗体は肥満細胞という免疫細胞の表面にくっつく。再び原因物質(アレルゲン)が体内に入って抗体とつながると、肥満細胞のスイッチが入りアレルギーを起こす化学物質が出る。

抗体を介さず直接アレルゲンが肥満細胞を刺激してアレルギーを起こす場合もある。

 

アナフィラキシーはさまざまな物質が引き金となる。

ワクチンだけではない。

抗生物質や鎮痛剤、造影剤のほか、ハチ、食物でも起こりうる。

アレルギー反応が起きる理由には遺伝や生活環境も関係していると考えられている。

 

CDCは新型コロナのワクチンでアナフィラキシーを発症した人のうち、8割が過去に何らかのアレルギーの経験があったと報告している。

ワクチンや注射でアレルギー反応が出た経験のある人、過去にアナフィラキシーを発症したことのある人は、ワクチン接種後30分間は気をつけるよう勧めている。

 

米サイエンス誌によると、米国立衛生研究所(NIH)は接種後にアナフィラキシーが起きるのは、ポリエチレングリコール(PEG)というワクチンに含まれる成分である可能性が高いとみている。

 

ファイザーが製造するワクチンはmRNAという遺伝情報を記録する物質を使う。

mRNAは分解されやすく、油(脂質)の膜にくるまれている。

PEGは油の膜を安定化させるために入っている。

PEGをワクチンに使うのは初めてだが、これまでも医薬品や化粧品に広く利用される。

すでに体に触れている可能性はある。

PEGにアレルギー反応を起こす人は、塗ってかゆくなったりアレルギーが出たりする可能性が高い。

 

英国の規制庁はPEGに対するアレルギーがある人は接種を避けるよう呼びかけている。

PEGと似た化学物質は英製薬大手アストラゼネカのワクチンにも含まれているため、同じような症状が出ると考えられる。

同社の臨床試験ではワクチンを接種した約1万2000人のうち1人にアナフィラキシーとみられる反応がみられた。

 

症状は接種してからまもなく起きる。

米国では発症のタイミングは接種後30分以内がほとんど。

4分の3が15分以内、9割が30分以内だった。

万が一に備え、日本では接種から15~30分間は会場などにとどまる計画だ。

 

発症しても、早めにアドレナリンを注射すればショック症状が起きるのを避けられる。

アドレナリンは血管を収縮させ、血圧を上げる効果がある。

心臓の動きも強める。

アドレナリンは重篤な副作用はほとんどない。

早急に打つのが重要だ。

 

アナフィラキシーは命の危険もともなう。

問診をきちんととること、応急処置の準備をしっかりと整えておくことが重要だ。

 

ポリエチレングリコール 

高分子の化合物。添加物として、化粧品やシャンプー、リンス、洗剤のほか、慢性の便秘薬や軟こう、座薬など医薬品にも広く使われる。

優れた潤滑性や水に溶けやすい溶解性があるため、異なる物質が混ぜ合わせやすくなる。

化粧品の保湿効果を高めたり、医薬品の品質を保ったり飲みやすくしたり働きがある。

まれにアレルギーの原因にもなりうる。

新型コロナウイルスファイザーやモデルナが製造するワクチンにも油(脂質)の膜を安定させる目的で添加されている。

 

参考・引用一部改変

日経新聞・朝刊 2021.2.12