くも膜下出血に新薬「ピヴラッツ」が登場

くも膜下出血に新薬  血管収縮を阻害、脳梗塞を予防
脳血管にできたこぶ、脳動脈瘤が破裂し出血する「くも膜下出血」に約25年ぶりとなる新しい治療薬が登場した。
発症後2週間以内に起こる血管が細くなる症状を予防する。
半身まひなどの後遺症につながる脳梗塞のリスクを減らす効果が示されており、患者の命を守り、生活の質(QOL)を大きく改善するとの期待がある。

発症後に起きる脳血管の収縮を防ぐことができる唯一の治療薬で、半身まひなどを防げる。患者の生活を大きく変えられる可能性がある。

くも膜下出血は、脳内のくも膜下腔と呼ばれる部位で起こる出血で、脳血管のこぶが破裂することで起こる。

脳血管疾患は日本人の3大死因の一つとされる。
厚生労働省の調査によると、脳卒中患者は97万人ほどいる。
約8割が脳梗塞患者だ。
脳内出血は14万人、くも膜下出血は4万人を占める。

世界的にはくも膜下出血は10万人あたり6~9人が発症するとされるが、「日本では22.5人と2~3倍ほど高いとの報告もある。日本人で比較的多く発症する疾患といえる。

発症する年齢は50~70代が多いが、20~30代の若年層でも起こることがある。
最近は高齢者のくも膜下出血が増えており、男性より女性の患者が多い。

動脈瘤の大きさは数ミリ~1センチを超えるものまで様々だ。
ある程度の大きさまで成長すると、磁気共鳴画像装置(MRI)やコンピューター断層撮影装置(CT)による検査などで偶然見つかることもある。
大きいほど破裂リスクは高まるが、1ミリほどでも破裂することがある。

出血すると、突然の激しい頭痛や嘔吐といった症状が出る。
そのまま意識を失うケースもある。
死亡率は3割と高く、一命をとりとめても半数近くの患者で半身まひや言語障害などの後遺症を残すことがある。

発症早期に再出血するリスクが高いため、緊急手術を行う。
動脈瘤の根元をクリップではさむ手術(クリッピング術)のほか、こぶの内部にコイルをつめる血管内手術(コイリング術)が主流だ。

今回登場した点滴薬「ピヴラッツ」(一般名クラゾセンタンナトリウム)が効果を発揮するのは、無事手術が完了し、一命をとりとめた後だ。

出血に伴い放出された物質などの影響で、血管は収縮(脳血管れん縮)を起こしやすい。
血管の収縮が起きると、血管が細くなるため血流が低下し、脳梗塞に陥ることがある。

血管の収縮による血流の低下は発症5~14日に起こることが多い。
8~11日がピークで21日目までに消失する。
血管が収縮した患者の20~50%に脳梗塞の症状が出現する。せっかく手術で一命をとりとめても、その後に死亡や半身まひなどにつながる原因になっていた。
発症後2週間がその後の患者の人生に大きく影響する。

ピヴラッツは血管を収縮させる作用を持つエンドセリンの働きを阻害する。くも膜下出血後48時間までを目安に点滴を開始。
最大15日目まで1時間当たり10ミリグラムの点滴を続ける。
副作用としては肺水腫など体液がたまりやすくなる症状があるため、適切な術後管理が必要になる。

ピヴラッツは世界に先駆け日本で承認・発売された。
開発したのはスイスの製薬企業、イドルシア・ファーマシューティカルズだ

国内57施設で約440人の日本人患者を対象に行われた最終段階の治験では脳梗塞の発症を55%減らす効果も示された。

これまで打つ手がなかった脳血管れん縮を予防できる画期的な薬が登場し、医師の間でも非常に注目されている。

最大15日の投薬で薬価は約240万円かかる。
費用対効果など医療経済的な効果は今後検証する予定だが、半身まひなどを防ぐことでリハビリを必要とする入院期間も短くなる可能性があり、結果的に医療費抑制につながる可能性が期待される。
今後、ピヴラッツ登場で脳梗塞を回避し、健康寿命をまっとうするくも膜下出血患者の数も増える可能性がある。

参考・引用一部改変
日経新聞・朝刊 2022.8.2