夏はご用心  脚のむくみ

= 体内の水分循環にトラブル =
'''こまめに横に 医療用靴下も有効'''
朝はすっきりとしていた脚も夕方には張った感じがして、靴も心なしかきつい。
程度の差はあれ、女性の多くが、だるさなどの不快感を訴えるその正体は
「むくみ」。
体の中で水分がうまく循環せず一カ所に滞る現象で、実は真に多いという。
仕組みを知って適度な筋肉運動を行えば、むくみによる疲労知らずで夏を乗り切れる
かもしれない。

むくみは皮膚の下に余分な水がたまった状態とされる。
血管からしみ出た血液の血しょう成分が細胞と細胞の間に入り込み、再び血管に戻れ
なくなっている。
むくみの目安は、ひざ下7センチぐらいの向こうずねを押した時に、白い圧迫のあと
がつくことだ。

= 症状の大半脚に =
深酒をした翌日などに顔がむくんだ経験のある人も多いかもしれないが、症状の大半は
脚に出る。
「むくみは人間が2足歩行を始めた時からの宿命」と話すのは、リンパ浮腫の治療に
長年取り組む広田内科クリニック(東京・世田谷)の広田彰男院長。
立つ姿勢になったことで上半身に血液を戻すためにより大きな力が必要になったと考えら
れるからだ。

宇宙飛行では地上とは逆で、飛行士の顔が「ムーンフェース」と呼ばれるように、むくみ
やすくなることが知られる。
普段は重力に逆らって血液を流そうと脚の筋肉が収縮して静脈に圧力をかけたり、静脈中の
弁が逆戻りを防いだりしているが「重力から解放されても、脚に血液をためないようにする
力は働き続ける」
(筑波宇宙センターで飛行士の健康を管理する村井正健康増進室長)ため、上半身に血液が
集まる。
 
= 静脈に戻せない =
むくみは筋肉が少なくなったり、皮膚が弱かったりする女性や高齢者に自立つ。
血管を横から押して血流を上に向かわせたり、細胞から血管内に血しょうを戻す力が弱まっ
たりすることで、細胞にしみ出た水分が静脈に戻れなくなるためだ。
 
特に夏は、体温を下げようとして血管が拡張し、血しょうが多くしみ出すこともむくみを
促進する。
「夏に『脚がパンパンに張る』と訴える20~50代の女性が多い」と話すのは、東洋医学
観点から不定愁訴の治療に取り組む目黒西口クリニック(東京・品川)の南雲久美子院長。
東洋医学ではむくみを『水毒』と呼び、水分が体の中で偏在することが原因」とみる。
 
では、どうすればむくみを避け、一度むくんでしまった脚をケアできるのだろか。

= 15センチ上げ15分 =
「健康な人なら、こまめに横になって休息したり、脚の筋肉を鍛えたりするのが効果的」と
話すのは、東海病院(名古屋市千種区)の平井正下肢静脈瘤リンパ浮腫・血管センター長。
20代の女性について、どんな運動がむくみ対策として有効か調べた。
 
最も効果的だったのは、つま先とかかとを床から交互に上げ下げする運動で、次は足首回し、
指先運動の順だった。
ふくらはぎの筋肉を使うことで水分が静脈に再吸収され、血流が上に流れやすくなるとみら
れる。
つま先とかかとを動かす運動では、指先運動より2倍押し上げる力が強くなり、血流の
速さも5倍に。
また、脚を15センチほど上げテ15分横になると、10分歩いてもとれなかったむくみ
がほとんどなくなった。
  
広田内科クリニックの広国彰勇院長は「立ち仕事の人には、締め付け圧力が一般のものより
高めの医療用ストッキングを着用するとよい」とアドバイスする。
ドラッグストアなど一般の店頭でも血流をうながす靴や、ソックスが売られている。
例えばワコールでは理学療法士と共同で、下肢の筋肉に働きかけるサポート機能がついた
ハイソックスの新商品「リセットバランス」を4月に発売した。
 
さらに目黒西口クリニックの南雲院長は「食べ物や洋服に気をつけて体を冷やさないことと、
リラックスが大事」とアドバイスする。
夏場に冷えたビールを冷房の効いた場所で飲み過ぎたり、体の汗をふかない状態のまま放置し、
気化させて体温を奪ったりしてしまうのはよくないという。
体内で温度の高い部分と低い部分ができて血流が悪くなり、むくみが助長されるのを防ぐ
ためだ。
 
何となく放置しがちなむくみ。
思わぬ病気の原因になるかもしれないとの考えから、4月、東海病院の平井正文センター長らは
「足のむくみ予防研究会」を発足させた。
8月には東京でシンポジウムを開き、注意喚起を呼びかけるという。


普段と違う症状、病気かも
気をつけねばならないのは、むくみが病気のサインで
ある場合。足が硬く腫れ上がり、歩行も困難になってしまうリンパ浮腫などが隠れている場合
がある。

リンパ浮腫に詳しい広田内科クリニックの広田彰男院長は、「乳がんなどの治療でリンパ節を
切った経験があり、右足と左足でむくみ方に差がある場合、リンパ浮腫の疑いがある」と
指摘する。
ふつうのむ みは柔らかいが、リンパ浮腫では、本来ならリンパ管を通って処理されるはずの
たんぱく質などが皮下組織に蓄積され、堅くなって全体が「バーン」とふくれる。

腎臓機能の低下による水分の排出や再吸収の異常が隠れていることもありえる。
目安は「いつもと違うむくみ」(広田院長)。
これまでむくみが出たことがないのに手がむくむとか、一晩寝たのにむくみが取れないといった
症状に注
意が必要だ。

出典 日経新聞・朝刊 2008.6.14
版権 日経新聞