ホルモン補充療法 再評価の道

更年期症状の緩和  乳がんリスク検証進む 治療指針が完成

更年期の症状改善に「ホルモン補充療法(HRT)」の利点を見直そうとする機運が
高まってきた。
海外で乳がんとの関連性を指摘する研究報告があってから、慎重な医師も多かった。
日本産科婦人科学会などは2年をかけてデータを再検討し、このほど治療指針を
まとめた。

錠剤などで服用
「のぼせがひどくて人前に出るのもおっくうになってしまう」(50代後半の女性)。
特定非営利活動法人NPO法人)「メノポーズを考える会」の無料電話相談には、
更年期症状を訴える人たちからの悩みが舞い込んでくる。
会設立から12年、相談件数は2万件を超えた。
相談員らは自らの経験などもふまえながら話を聞き
場合によってはホルモン補充療法に詳しい医師を紹介する。
 
更年期症状は閉経前後の数年間に表れることが多い。
症状が重い場合を更年期障害といい、寝たきりで仕事や家事に影響が出ることもある。
日本人女性の平均的な閉経年齢はおよそ50歳で、その前後の約10年間を更年期と
呼ぶが、老年期に向けて体が変わる時期で、卵巣機能などが低下し、女性ホルモンの
エストロゲンが大幅に減少してしまう。

ホルモン補充療法は錠剤などで減少したエストロゲンを補う。
エストロゲンは約200種類の代謝に影響しているため、のぼせやめまい、動悸(どき)
などの更年期症状の改善が期待できる。

2002年、米国で乳がんの増加が懸念されるとのWHI )ウィメンズ・ヘルス・
イニシアチブ)報告」が発表され、国内でもホルモン補充療法が敬遠されるようにな
った。
「更年期世代に対し、この治療が実施される割合は、日本の場合、先進諸外国の30分の
1程度と低い」( メノポーズを考える会の三羽良枝理事長)。

日本産婦人科学会と日本更年期医学会は関連データを検証した。
WHI報告の1万6千人の臨床データを改めて見直すと、対象者の約7割が60歳以上。
太った人が多く、健康リスクをもともと抱えており、投与された薬も1種類だったこと
がわかった。
乳がんリスクも「1万人に対し8人。世界保健機関の基準でも『まれ』というレベル」
(水沼英樹・日本更年期医学会理事長)だった。

投与期間に上限
日本人女性6000人のデータの検証から乳がんリスクとホルモン補充療法とには関連性
がないとする研究報告もある。
約半数が乳がん患者だが、補充療法を受けていたの が5%、乳がん患者でない人では
10.7%とむしろ多かった。
 
調査にあたった埼玉医科大学国際医療センター乳腺腫瘍(しゅよう)科の佐伯俊昭教授は
「日本人の乳がん発症のピークは45歳と閉経前にある。ホルモン補充療法とは関係ない
とみてよい」
と話す。

2学会は「乳がんリスクよりも、更年期症状の緩和効果が高い」と判断、治療指針を
作成した。
乳がんリスクを完全に否定することはできないため、治療にあたって「患者との対話を重視
する」「投与年齢の上限はなるべく60歳まで」「投与期間は5年以内」「投与中や終了後
乳がん検診を受ける」などを条件に盛り込んだ。
 
来年から全国の病院や医師に通知し、ホルモン補充療法の正しい知識を広めていくという。

出典 日経新聞・朝刊 2008.7.22
版権 日経新聞
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<参考サイト>
更年期障害のホルモン治療に発がんの危険性
更年期障害を緩和するためのホルモン治療を受けた場合、治療終了から2年後のがん発症率が、
治療を受けていない女性より高いことが、政府調査で明らかになった。
ワシントン・ポストによると、調査は、女性ホルモン「エストロゲン」と同「プロゲステロン
を摂取するホルモン治療を平均5.6年間受けた50~79歳の女性1万5730人を対象に行われた。
同調査によると、ホルモン治療中に上昇した心臓発作、血栓脳卒中などのリスクは、治療後
にすぐ下がった。
しかし、がん発症リスクは治療が終了して平均2.4年経過しても低下しなかった。
また、ホルモン治療を受けた女性のがん発症率は、治療を受けていない女性より24%高かった。
特に乳がんは27%高かった。肺がんなど他のがん発症率も上昇していた。
ホルモン治療では、低量のホルモンの短期間摂取が医療業界の常識となりつつある。
ただし現時点では、治療終了後の発がんリスクがどの程度継続するかは明らかになっていない。
また、短期間摂取した場合や、エストロゲンのみを摂取した場合のリスクについても不明だ。

以前は、更年期障害の症状を緩和する上、心臓病を予防するなどと、ホルモン治療が推奨されて
いた。
しかし、ウーマンズ・ヘルス・イニシアチブが2002年、ホルモン治療は心臓病、脳卒中血栓
乳がんなどのリスクを上昇させるとの調査結果を発表。
当時ホルモン治療を受けていた約800万人の米国人女性の大半がすぐに治療を中断した。
今回の調査結果が出るまで、がん発症リスクが治療中断後も継続することは知られていなかった。
http://www.usfl.com/Daily/News/08/03/0305_020.asp?id=59252

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<番外編>
ヒトが声を出すとき…アンコウと同じ脳の動き
魚類のガマアンコウが鳴き声を出す際の脳の働きが、ヒトなど陸上の脊椎(せきつい)動物と
よく似ていることが、コーネル大学などのグループによる研究でわかった。
魚とヒトの共通の祖先が、発声のための脳の仕組みをもっていたようだ。これにより、ヒトの
発声能力の起源は約4億年前にさかのぼることになるという。18日付の米科学誌サイエンス
に発表した。
 
ガマアンコウは北米の浅い海に住む。
求愛行動や縄張りを守るため、浮袋を使って「グエッ、グエッ」「ブーン」などの鳴き声を出
す種類がある。
 
コーネル大のアンドリュー・バス博士らは、ガマアンコウの稚魚に麻酔をかけ、脳の神経細胞
を染めて観察した。発声に関係しているのは後脳から脊髄にかけてで、発声器官を動かす神経
細胞や、隣接する鳴き声の間隔などを調整する神経細胞の働き方が、鳴き声を出す哺乳
(ほにゅう)類、鳥、カエルなどと、使う器官は違うのによく似ていた。
 
ガマアンコウなどの浮袋をもつ硬骨魚類と、肺をもつ陸上の四肢動物はどちらも脊椎動物で、
約4億年前に祖先の魚から分かれたとされる。
このため、発声器官や使う筋肉は種ごとに別々に進化したが、発声をつかさどる脳の機能は
分かれる以前からの原始的なものと考えられるという。
http://www.asahi.com/science/update/0719/TKY200807190218.html
出典 朝日新聞・朝刊 2008.7.20
版権 朝日新聞社
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