夏バテの陰に低血圧

きょうは夏バテと低血圧がテーマです。
高血圧の治療中の方でも夏場は低血圧になってしまうことがあります。
今年のように例年より暑い場合にそんなおかしなことが起こりやすいのです。
これは、昨今の降圧剤の効きがよいせいもあるでしょう。

ひるがえって若い方は概して低血圧です。
したがって血圧が低いからといって夏バテを低血圧のせいにするのも内心
どうかと思うのですが。

季節の変わり目に症状じわり・・・ 精密検査で4割該当

通り過ぎる風のなかに秋の気配を感じるころ、夏バテが忍び寄ってくる。
「体がだるい」「やる気が出ない」「朝起きられない」「常に頭が重い」といった重い
夏バテ症状を持つ人のなかに、低血圧症の人がいることが最近分かってきた。
低血圧の治療に積極的な医師に相談し、生活習慣の改善に取り組むことが大切だ。
 

低血圧というのは、最高血圧が100mmHg以下(60歳以上では110mmHg以下)になる
病気のとで、「疲れやすい」「立ちくらみがする」など様々な症状を訴える 。
しかし代表的な生活習慣病として常に話題になる高血圧と違い、医師にも患者にも低血圧
が重要な疾患であるという認識が少なかった。
きちんと診断されることなく不定愁訴自律神経失調症という病名でかたづけられ、適切
な治療が行われていないことも多いという。

うつ病と誤解も

症状は朝強く出るため、子供の不登校の原因になったり、大人では気持ちが落ち込み出社
できないため「うつ病」と誤診されたりすることも少なくない。

低血圧は季節の変わり目、特に夏の暑い時期に症状が強くなる傾向がある。
これがひどい夏バテの隠れた理由のひとつだ。
低血圧の治療に取り組んできた浜松医科大学の永田勝太郎心療内科科長は 「温暖化が進む
なか、重い症状で病院に駆け込む人が増えている」と説明した。

浜松医科大学病院で6月から8月の3カ月間、心療内科不定愁訴で受診する患者の血圧を
精密に測定したところ、4割の患者で低血圧がみられた。
突然動けなくなり救急車で担ぎ込まれたが、精密検査で異常なく、永田科長が検査したところ
低血圧であることが判明した患者もあるという。

なぜ低血圧の診断は十分に行われていないのか。
ひとつは命にかかわる重要な病気ではないと考えられてきたためだ。
しかし最近では、低血圧で血流が悪いと脳梗塞(こうそく)などの発症率が高いことも分
かってきた。

起床前に測定
また、診断の難しさも問題だ。
「血圧は、日中の活動時間に医師の前で測定すると、本来の血圧よりも20~30mmHg高く
なることが多い。
そのため普段から高血圧は発見されやすく、反対に低血圧は見逃されやすい」と永田科長。

低血圧の診断に詳しい医師は、血圧をあおむけに寝た状態で2分ごとに 3回、立ち上がった
状態で2分ごとに5回測定し診断するという。
また、自分で、低血圧かどうか調べる方法もある。
家庭用の血圧計を用い 毎朝、起床前のふとんの中で血圧(基礎血圧)を測定する。
最高血圧が100mmHg以下の状態が続く場合は、低血圧が疑われるという。
 
低血圧の患者は、医師に相談したり生活習慣を改善したりする必要がある。
「血圧は、血液を全身に送り出す心臓の力と、その血液を押し戻す末梢(まっしょう)の力
の両方で決まる。
生まれつきこれらの力が弱い体質の人もいるが、血圧をコントロールする自律神経の機能が
低下することで悪化する」と永田医師はいう。

専門家は、低血圧の治療には、三つの段階があると説明する。
最初の段階は患者自身が低血圧であることを自覚し、生活習慣を改善すること。
基本となるのは規則正しい生活だ。
人の体は眠っている間はもうひとつの自律神経である副交感神経が強く働き、血圧を低く
抑えているが、起床とともに交感神経の働きが強くなり血圧が上昇しはじめる。
毎日、決まった時間に起きるようにすることで、自律神経を切り替えるリズムが強化される
という。

冷水シャワーも
第二段階は、自律神経の強化トレーニングをすること。
例えば朝風呂に入り、途中で冷水シャワーを手足にかける温冷浴や乾布摩擦なども低血圧の
改善に役立つ。
積極的な運動や塩分不足にならない食事も症状を改善するという。
 
そして三段階目に来るのが医療である。
「交感神経の働きを強める薬物治療や症状を緩和させる漢方治療などがある」と永田科長は
いう。
夏バテは、隠れた低血圧に気づくチャンスでもある。
これを機会に生活習慣を見直すなどして、不調を乗り切ることが大切だろう。
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水中歩行・塩分摂取で対策
低血圧の治療に積極的に取り組む平野誠一郎・平野医院(東京都新宿区)院長は、低血圧の
患者に食事改善と運動をすすめる。

まず、健康のために塩分を控えめにしている人が多いが、低血圧の人の場合、塩分量が少な
すぎると症状が悪化する。
「朝食などではみそ汁に漬物、焼き魚など、しっかりとした味付けの和食をとると効果的だ」
と平野院長。
チェダーチーズに含まれるチラミンという成分に、血圧を維持する働きがあることもわかって
きたという。
運動面では、まず十分ほどの散歩を毎日続ける習慣をつけること。
体が動くようになったら、プールでの水中歩行がおすすめ。
体全体に水圧が加わり、冷水で末梢(まっしょう)の毛細血管が縮むことで血圧を高め、症状
が改善されやすいという。

最近では、地方自治体が開く健康教室やフィットネスクラブでも水中歩行のプログラムを積極的
に取り入
ているので、これに参加するのもいいだろう。

出典 日経新聞・朝刊 2008.8.16
版権 日経新聞