手術で治る高血圧

高血圧、手術で治る型も 薬の服用から解放

高血圧は運動不足や塩分の多い食事など生活習慣が積み重なって発症する例が多く、主に薬で治療する。
ただ、中にはホルモンの分泌異常などで起こるタイプの高血圧もある。
手術など適切な治療で改善するので、詳しい医師を訪れ、検査を受けることが重要だ。

手術で血圧が正常値に
高血圧は遺伝的な要因や生活習慣などで起こるのが一般的。ただ、慢性の腎臓病やホルモンの分泌異常なども原因になる。

高血圧の治療は通常、カルシウム拮抗(きっこう)薬、アンジオテンシン2受容体拮抗薬、利尿剤などを使う。
医師から処方された3種類の薬剤を十分な量服用しても血圧が下がらない「治療抵抗性」と呼ばれるタイプの患者は国内に約100万人いると推定される。
原発性アルドステロン症」もその中の一つだ。
 
アルドステロンは血圧のバランスを保つホルモン。
腎臓の上にある臓器「副腎」に小さな腫瘍ができると、このホルモンが過剰に作られてしまい、バランスが崩れて高血圧を招く。
血圧を下げる薬が効きにくい例もある。
半面、手術でこの腫瘍を取り除けば異常なホルモン分泌がなくなり、血圧も正常値に戻る。
 
薬が効かないタイプの患者の5人に1人が原発性アルドステロン症という報告もある。

この病気の患者のうち、手術の対象になるのは片方の副腎に腫瘍があるケース。
腹部に小さな穴を開ける腹腔鏡手術などで腫瘍を摘出した翌日に早くも血圧が正常になる患者もいる。
ただ、両方の副腎に腫瘍がある患者は、手術ではなくアルドステロンの分泌を抑える薬やカルシウム拮抗薬などを組み合わせて治療をする。

正確な診断が重要
この病気で重要なのは正確な診断だ。
患者かどうか判定するには血液検査でホルモン濃度を測定し、コンピューター断層撮影装置(CT)などで調べるだけでは不十分。
血管からカテーテル(細い管)を入れて副腎の静脈の血液を直接採り、アルドステロン量を調べる検査も必要だ。

しかし、この検査ができる医療機関はあまり多くない。
1回の検査に2~3時間かかり、専門医でなければ病気の特定も難しいという。
病院では少なくとも通常の血液検査を実施し、アルドステロンの量を調べてたい。

また、薬が効いて血圧が下がるタイプの原発性アルドステロン症でも治療を続ける必要がある。
アルドステロンの過剰分泌が続くと、心不全脳梗塞、腎不全、不整脈などを起こす可能性が高まるからだ。
 
一方、治療抵抗性で原因も特定できない高血圧の治療法研究も活発になっている。
注目を集めているのが「腎交感神経アブレーション」だ。
腎臓の周りにあり、血圧を高める役割を持つ交感神経の働きを抑え、血圧を下げる。
手術では脚の付け根の血管からカテーテルを入れ、交感神経を所々焼く。
海外では約6000例が実施されている。患者の血圧は15~30%下がり、今のところ大きな副作用の報告もないという。
 
国内でも大阪大学兵庫医科大学が研究の一環として取り組んでいる。
対象となるのは薬を3種類服用しても血圧が160以上と非常に高い患者。腎臓の機能が悪かったり、ホルモンの影響で高血圧になったりした患者は対象外だ。
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医大では今年2月、70代の男性にこの手術を実施し、平均で約160あった血圧が130程度まで下がったという。
高血圧で何回も救急車を呼ぶような患者が治療対象。
現時点では、長期の安全性を確認して対象を広げる段階だ。

ただ、この治療が国内で普及するには時間がかかる見通し。治療に使う専用機器の臨床試験(治験)は始まっておらず、治療効果などの詳しいデータも十分そろっていない。
 
厚生労働省の調査によると、約4000万人が高血圧と推定される。
このうち治療を受けているのは約半数にとどまる。
高血圧の治療はまず医療機関を受診し、処方された薬をきちんと服用することかた始まる。

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出典
日経新聞・夕刊 2012.5.18(一部改変)