高血圧治療、目標辛くなる?

米国立研究所「120未満」を提唱 現行は「140未満」 指針反映には検証必要

脳卒中や心臓病のリスクが高まる高血圧は、日本人の3人に1人がかかるといわれる国民病だ。
日本高血圧学会による現行の治療ガイドラインでは最高血圧を「140未満」に抑えるべきだと治療目標を定めているが、米国立心肺血液研究所が今年9月に病気のリスクを減らすためには「120未満」を目指すべきだとする報告書をまとめた。
今後、科学的な検証が深まれば、日本を含め高血圧の目標値が変わる可能性もある。

心臓が収縮した際に血管にかかる圧力を「収縮期血圧」と呼ぶ。
血圧が最も高い状態で、一般に最高血圧(上の血圧)といわれる。
 
一方、拡張したときの圧力が拡張期血圧で、こちらは最低血圧(下の血圧)という。
この圧力の変化によって血液が全身を駆け巡る。
もともと血圧は水銀柱の高さで測定していたため、mmHg(ミリメートル水銀柱)という単位で表す。

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日本高血圧学会のガイドラインは、若年・中高年患者の治療目標を「収縮期が140mmHg未満、拡張期が90mmHg未満」と定める。
これらを上回ると「高血圧」となり、治療対象となる。
また、脳卒中などになりやすい糖尿病などの患者は「130未満、80未満」と目標は低めに設定されている。
 
米国立心肺血液研は研究を通じ、収縮期の数値を「120未満」に管理することで心臓病などのリスクが大幅に減ったとの研究報告をまとめた。研究では、50歳以上で、心臓病や腎臓病などになる恐れのある高血圧
患者ら約9400人を2つのグループに分類した。
2010年から13年まで、それぞれのグループで140未満と120未満に最高血圧を抑えるために降圧薬を併用し、経過を見た。
 
治療の結果、120未満に血圧を下げたグループは140未満に比べ、心臓発作や脳卒中の発生率は約3分の1減り、死亡リスクは約4分の1下がった。
研究は当初18年までの計画だったが、科学的な検証が進んだため、前倒しで公表した。

最高血圧が10高いと病気の発症率も10%以上高まるといわれるため、米国立心肺血液研が示した基準に従うと大きな差が出る。
「140未満」を念頭に生活していた患者はとまどう。
 
これに対し、「血圧が高いほど病気のリスクが大きいことは疫学的には分かっていた」と専門家は説明する。

私的コメント
問題はそういうことではなく、「血圧は低ければ低いほどよいか」(The lower, the better)ということです。
その点については、下がり過ぎるとよくないかもしれないという 「J カーブ理論」があります。
この理論の根拠は,頸動脈あるいは冠動脈などに狭窄がある場合,血圧を下げると灌流(血のめぐり)が悪くなり、結果として虚血や梗塞を生じるということものです。
脳卒中に関しては「The lower, the better」があてはまり、 心筋梗塞では下がり過ぎるとよくないのではないか、ともいわれています。
このように、予防したい病気によって降圧目標値を考えたほうがよいのかも知れませんが、年齢も配慮する必要があります。
(当然のことながら、高齢者での過度な降圧は好ましくありません)


健常な人を対象に、血圧別に心臓と血管の病気の発症を見る長期間の疫学研究では120未満で最も発症が少なく、血圧が上がるにつれ発症が増えることが以前から知られていた。

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ただ、ガイドラインに盛り込むには疫学研究だけでは不十分なため薬を使った介入試験で効き目を厳しく検証する必要がある。
私的コメント
このことは、実は糖尿病の治療にも当てはまる重要な考え方です。
糖尿病の患者さんに脳卒中心筋梗塞が多いのは事実として確立されたことです。
しかし、薬剤を使って治療すればこういった血管障害が予防できるかというと、別の話になります。

従来は血圧を130に下げた段階でも科学的に意味のある有意差が見いだせなかったため、140未満を治療目標に据えていた。
欧米の研究でも同じだったという。
 
米国立心肺血液研の報告は、予備解析の結果にすぎないので、ガイドラインに反映させるにはより多くの研究報告が必要となる。
報告はまだ科学誌に公表されておらず、解析も完全に終わっていない。
複数の報告がそろい、専門家の問で合意が得られれば米国だけでなく日本も含めた各国のガイドラインに反映される可能性も高い。
 
ガイドラインで120未満を推奨するようになると高血圧患者に処方される降圧薬の量が増える可能性がある。
薬が増えることを心配する患者が出るかもしれない。
これまで以上に医師のきめ細かな説明が求められる。
130前後なら生活習慣改善にとどめる可能性もあるという。
 
今でも臨床現場では、医師の判断により120未満に抑える例がある。
降圧薬の併用で最高血圧を110~120程度にとどめたところ、140未満の場合に比べ心臓発作の発症頻度が半分以下に減った、という臨床現場の声もある。

そういった場合でも、140未満を目標とするケースより処方する降圧薬の数は増えるが、深刻な副作用は確認されていない。
時々100を下回ることがあり「下がりすぎなのでは」と心配する患者も
いるが、これくらいの血圧値に抑えれば140を超えるのを防げる。

しかし、高血圧患者にとって複数の治療目標があると混乱してしまう。医学研究の積み重ねで統一基準ができるのが望ましい。

国内4300万人改善には ・・・ 減塩・脱メタボ、効果
国内では約4300万人の高血圧患者がいるといわれる。
血圧値が高いほど脳卒中心筋梗塞、慢性腎臓病などになる可能性が増し、死亡リスクも高まる。
高齢化が進むと患者数はさらに増える見込みだ。
 
血管に必要以上に圧力が加わると、内壁が傷んだり硬くなったりして動脈硬化などを招く。
そのまま放置するとさまざまな病気の引き金になる。
国内では高血圧が原因で年間約10万人が死亡しているとの推計がある。
 
降圧薬を服用する前にまず実施すべきなのが塩分の摂取量を減らすことだ。
世界保健機関(WHO)では1日あたりの適切な食塩摂取量を5グラム未満と定めている。
これに対し厚生労働省の2013年の調査では、日本人の成人1日あたりの摂取量の平均は男性11.1グラム、女性9.4グラム。
減塩が進んできているとはいえ、まだ多い。
 
内臓脂肪の蓄積にも注意が必要だ。
内臓脂肪は血管を収縮させる働きのある物質を分泌する。
メタボリックシンドローム内臓脂肪症候群)の治療が血圧の低下にもつながる。
十分な睡眠をとり、ストレスを減らすことも心がけたい。

出典
日経新聞・朝刊 2015.10.25


私的コメント
この論文は米国の論文ですが、しっかりとした検証はされていないようです。
今後多くの追跡研究が発表されて真偽が確立するものと思われます。
ここで、日本での研究結果(久山町研究)を知っておくと理解が深まると思います。
それは収縮期血圧が140mmHg未満ではそれ以上のグループと比較して脳卒中の発生頻度が低いというものです。


この図表をよく見ると収縮期血圧130 ~139mmHgと比べて収縮期血圧120mmHg未満では脳卒中の年間発症率が1.25%から0.73%と、0.52%下がっていることがわかります。
日本でも血圧は出来るだけ低いほうがよい、ということが以前からわかっていたことになります。



参考
降圧目標値はSBP120mmHg未満?
http://blog.livedoor.jp/cardiology_reed/archives/42677816.html



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      2015.10.26 撮影