「日本人」の起源

最近の私の他のブログ(循環器専門医向け)で、アジア系米国人を出身国別に疫学調査した米国の論文についてとりあげました。

アジア系米国人の心疾患リスクの研究意義
http://blog.m3.com/reed/20100308/1

この研究で日本人って一体何なんだろう、人種って、民族って何なんだろうという疑問が沸々と沸き上がってきました。

折しも冬期オリンピックがバンクーバーで行われました。
入場行進をTVでご覧になって、そんな気持ちをお持ちになった方も多いのではないでしょうか。




以下は新聞記事の紹介です。

「日本人」の起源に人骨や遺伝子などの分析から迫った研究プロジェクトの成果がまとまった。
日本列島の人類史の第一ページを人類学の見地から描き出そうと、国立科学博物館(科博)が中心となり5年にわたって取り組んだ試みだ。通説に見直しを迫り、日本人の形成をめぐる新たな仮説が浮かび上がった。


考古学で「旧石器発見」の捏造(ねつぞう)が発覚して10年。
「60万年前の石器」までが登場した背景には、研究者が「世界各地で原人が旧人→新人と進化した」という多地域進化説に立っていた事情があった。

これに対し人類学では1990年代から、アフリカ単一起源説が有力だった。
アフリカで20万~10万年ぐらい前に現代人と同じホモ・サピエンスに進化して、世界に拡散、それ以前の古い人類は姿を消した、という考えだ。
遺伝子の分析に基づいていた。

今回の研究班は、その仮説をもとに、アフリカを出た人類がどのように日本列島にたどりついたかを探り、日本人がどのように形成されたかを解明することを狙った。

30年ほど前に沖縄で発見され、縄文人の祖先と考えられてきた「港川人」。
旧石器時代の終わりごろ、約2万年前の人骨で、科博の海部陽介研究主幹らは今回、下あごを中心に再検証した。
その結果、縄文人とは異なる特徴が複数見つかった。
顔立ちや体つきは、現在の東北~東南アジアの集団よりも、オーストラリア先住民やニューギニアの集団に近いこともわかった。

港川人をもとに「縄文人のルーツは南にある」との考えが強かったが、「慎重に見直すことが必要だ」と海部さんは指摘する。
「港川人のような集団が東南アジアに広く分布していたが、その後、農耕民の広がりに押されてオーストラリアなどに限定された」という図式が描けるのではないかと海部さんは考える。

科博の坂上和弘研究官らは、縄文人の身長や顔つきなどが時期や地域により変動していたことを明らかにした。山梨大の安達登教授らは、北海道の縄文~続縄文(弥生時代の並行期)の人骨の遺伝子を分析。その結果、大陸北東部のアムール川下流域に現在住む先住民との結びつきが浮かび上がってきた。縄文人は多様だったようだ。

そうした研究を総合し、研究班代表の溝口優司・科博人類研究部長は、日本人形成のシナリオを次のように描いた=図。


イメージ 1

人類拡散の経路図(溝口優司氏の説)
記事「「日本人」起源 通説に一石 国立科学博物館」より

①アフリカでホモ・サピエンスに進化した集団の一部が6~5万年前までに東南アジアに到着
②一部は大陸を北上
③一部は東進しオーストラリア先住民などの祖先に
北アジア、日本列島や南西諸島などに拡散。日本列島に上陸した集団は縄文人の祖先に
⑤北方から移住する集団も
⑥シベリアで寒冷地適応した集団が東進南下、3千年前までに中国や朝鮮などに分布
⑦⑧縄文時代の終わりに西日本に渡来し、縄文人と融合し拡散、弥生時代以降の本土日本人の祖先に。

いくつものルートを経た集団がかかわって縄文人が誕生した、と考えるのが特徴だ。
ただし、この図は「個人的な見解」と溝口さんは強調する。
「研究班内の意見は多様で合意に至らなかった」

研究成果を報告する公開シンポジウムは2月下旬に開催された。
定員の倍の400人もが集まる盛況で、研究継続を望む声も強かった。

他方、課題も見えてきた。
考古学の立場から今村啓爾東京大教授は「人類学と考古学の再統合を」と提言する。研究手法の違いから分かれたが、狙いは同じ。石垣島で旧石器人骨が見つかるなど、土壌的に骨の残りやすい沖縄での新発見への期待も高まる。

日本人の成立を考える試みが明確な図を描き出すには、まだ時間がかかりそうだ。

出典 朝日新聞・夕刊 2010.3.11
版権 朝日新聞社



<関連サイト>
日本人
http://ja.wikipedia.org/wiki/日本人


JCウイルス 日本人起源複数説
http://blogs.yahoo.co.jp/kawakatu_1205/51843157.html




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