糖尿病での他の病気の死亡リスク

「論文オタク」と自称する、山形さくら町病院精神科・早稲田大学大学院客員教授の坪野吉孝先生が書かれた記事で勉強しました。
糖尿病をちょっと変わった切り口で解説しています。


糖尿病で、多数の病気の死亡リスクが上昇

北米と欧州中心の追跡調査を分析したところ、糖尿病の人は、糖尿病でない人と比べて、血管疾患による死亡リスクが高いだけではなく、がんなど多数の病気による死亡リスクも高かった。
論文はニューイングランド医学誌に3月掲載された。

糖尿病のおもな合併症として、血管疾患がある。
小さな血管の障害として網膜症や腎症が生じ、大きな血管の障害として心臓病や脳卒中が生ずる。
今回の研究では、こうした血管疾患以外の病気の死亡リスクが、糖尿病によって高まるかどうかを調べた。

北米と欧州中心の追跡調査97件に参加する男女820,900人(平均55歳)の個人別データを集めて分析し、確認できた123,205人の死亡例を調べた。
内訳は、血管疾患が44,407人、がんが41,320人、27,661人が他の死因、9,817人が死因不明または不詳だった。

亡くなった人が糖尿病だったかどうかで調べた結果、糖尿病の人は、糖尿病でない人と比べて、すべての死因を合わせた総死亡率が1.80倍高かった。
血管疾患による死亡率は2.32倍高く、がんによる死亡率は1.25倍高く、その他の死因による死亡率は1.73倍高かった。

<私的コメント>
人間の死亡率は本来100%です。
誰でも最後は死ぬからです。
この論文でいう死亡率の比較はどういう意味なのでしょうか。
ちょっと考えてしまいますね。


がんについてさらにくわしく見ると、糖尿病の人は、糖尿病でない人と比べて、肝臓、膵臓、卵巣、大腸、肺、膀胱、乳房のがんによる死亡リスクが高かった。
また、その他の死因についてさらにくわしく見ると、腎臓病、肝臓病、肝臓以外の消化器病、肺炎、肺炎以外の感染症精神疾患、事故などの外因死、自傷、神経疾患、肺疾患(慢性閉塞性肺疾患)による死亡リスクが高かった。

こうした結果を寿命の差に換算すると、50歳の糖尿病の人は、糖尿病でない人より平均で6年早く死亡すると推計された。
しかも、6年分の寿命を短縮する原因の40%は、血管疾患以外の死因によるものと推定された。

糖尿病の人の死因ごとの死亡率
(糖尿病でない人を1とした場合)

イメージ 1



これらの結果から著者らは、糖尿病の影響を調べる際には、これまでの血管疾患以外の病気にも調査を広げることの必要性を指摘している。

今回の研究の意義は、97件もの追跡調査の個人データを合わせた大規模な集団で、糖尿病により血管疾患以外の多くの病気での死亡リスクが高くなる可能性を示した点にあるだろう。

一方、調査対象者の94%が欧州と北米の集団なので、アジア人にどこまで結果が当てはまるか分からない点が、研究の限界だろう。

いずれにしても、糖尿病の治療をしっかりと行う大切さと、血管疾患以外のリスク上昇にも目を向けて、例えば糖尿病患者が定期的にがん検診を受けることの重要性をうかがわせる研究と言える。






読んでいただいて有難うございます。
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