心臓が突然、止まる!

久しぶりに心臓病の話題をとりあげてみました。
私自身、専門分野が循環器の内科医ですので他のブログでこの分野を多く取り上げています。
したがって、このブログではかえって取り上げることの少なかった分野です。

以下は、2011年4月17日放送のNHKのTV番組、「ためしてガッテン」がソースです。

心臓が突然、止まる!200万人に潜む異常音

心臓が巨大化してしまう怖い心臓病。
ひとたび発作がおこると数分で死に至ることもあります。
しかも、やっかいなことに、なんと自覚症状がありません。
さらに見た目では心臓は大きくなっていないにもかかわらず大手術が必要な場合もあるんです。

その病気とは、「心臓弁膜症」。
なぜ心臓は大きくなってしまうのか、そのポイントがわかれば早期発見が可能です。
人類と共通の祖先を持つ海洋生物と、幸せいっぱいな女性と鍛え抜かれたアスリートの体の不思議から、その秘密を解き明かします。
そして、驚くべき超簡単な発見法と対策をお伝えします。


番組ディレクターから
弁がときめく?
心臓の「ドックンドックン」という音は、弁が閉まるときに出る音だって知っていましたか?

弁の異常でおこる心臓弁膜症は、その音にも異常が現われます。
つまり、なんと心臓の音が「ドックンドックン」といわなくなってしまうんです。

心臓の弁なんて、ふだん意識することはまずありません。
でも、厚さ1mmに満たない弁にひとたび異常がおこると、心臓は巨大化し、命の危険にすらさらされます。
そして、胸ときめいたときの「ドックンドックン」という心臓の音は、「心雑音」と呼ばれる別の音に変わってしまうのです。

弁は一見地味ですが、やはり私たちに欠かせない大切な存在なのです。


突然死を招く心臓巨大化のナゾ
ウォーキングやテニス、登山までするほど健康自慢で病気知らずだった人にも、突然襲いかかるのが心臓の異常。
それまで自覚症状はなかったのに、運動中に突然、息苦しさを覚え、意識を失ってしまいます。

そして病院での精密検査で、「心肥大」という思ってもみなかった結果を目の当たりにします。
しかし、自分の心臓の画像を正常な人と比べても、心臓は大きくなっているようには見えませんでした。

にもかかわらず、4時間に及ぶ大手術を受けなければなりません。

自覚症状もない。大きさも変わらない。
なのに突然、襲ってくる「心肥大」。

一体どういうことなのでしょうか?


巨大心臓!ハッと驚く持ち主とは?
どんな人の心臓が巨大化するのか、心臓専門病院の医師にたずねると、ある一定の条件があるとのこと。

実はその条件の1つは妊婦さん。
おなかに赤ちゃんがいると体重は10kgほど増え、その分血液も必要となります。
特に赤ちゃんを育む子宮は大量の血液を必要とします。
そのため血液はおよそ40%も増え、血液をどんどん運ぶため心臓も大きくなるんです。
心臓は妊娠9か月目くらいをピークに大きくなり、出産後ほどなくして元に戻ります。
なんと心臓は病気以外でも大きくなるんです。

さらにもう1つのタイプがカヌー選手などに見られる「スポーツ心臓」と呼ばれるもの。
カヌーやマラソンなどの一流選手は一度にたくさんの血液を全身に送ろうとして心臓が大きくなります。

通常、競技をやめれば自然にもとに戻っていくと考えられています。
心臓は状況に応じて大きさを変えるのです。


なんと○○だった!心臓巨大化の原因
突然死を招くナゾの心臓巨大化の病気。
その原因は生命の進化の中に隠れています。

大学の研究施設で目にしたのは、心臓病の原因に迫る上で鍵となる生き物です。
その生き物とは、ホヤです。

ホヤは人間と共通の祖先から派生していて、系統学的には人間と意外なほど近いんです。

ホヤの心臓が人間の心臓と決定的に違うのは、ある部分がないこと。
実はそれこそが心臓内部にある弁なのです。
弁は生物進化の過程上ホヤにはなく、魚から現われてきます。

弁がなければ、心臓はいくら筋肉が血液を吸い込み押し出そうとしても逆流してしまいます。
つまり、心臓の本質は実は、弁なのです。
弁があることで、全身に効率的に血液が送られ活発に動けるのです。

恐ろしいナゾの心臓病は、この弁の異常が原因だったのです。

<私的コメント>
心臓が大きい、ということは医学的には2つの意味があります。
1つ目は心臓の筋肉(心筋)が分厚くなって心臓の重さ(心筋重量)が重くなる場合。
2つ目は、重くならない(心臓の壁が厚くならない)のに膨らんで大きくなる場合。
前者を「心肥大」、後者を「心拡大」。
いずれも必要に迫られての心臓自体の「適応」なのです。
ここまで読み進んで来て、両者がごっちゃになっていることが気になりました。
しかし、さすがNHKさん。
この後で両者の説明が入ります。
惜しむらくは最初に説明があると混乱も避けられます。
最初に「心臓が巨大化」とか「巨大心臓」とかいわれると誰でもビビってしまいます。


なぜ大きくなる?心臓巨大化のヒミツ
弁に異常が起きると、どうして心臓巨大化がおこるのでしょうか?

見た目で明らかに巨大化している「心拡大」の心臓を見てみると、なんと弁がきちんと閉じず、すき間が開いているため、血液が逆流しています。

逆流が生じると全身に送り出せる血液が減ってしまいます。
そこで、心臓は大きくなって容量を増やすことで足りなくなった血液を補おうとします。
ところが、大きくなりすぎると心臓はうまく収縮できなくなってしまうのです。

では「心肥大」はどうなのでしょうか?
こちらでは血液の出口にある弁のが動きが悪くなって、血液が流れにくくなっています。

すると心臓はより強い力で血液を押し出そうとします。これが繰り返され内側の筋肉が厚くなっていきます。

しかし、分厚くなりすぎると筋肉はかえって動きにくくなってしまいます。
その結果、心臓自体の血液が足りなくなって、倒れてしまうのです。

これらのように弁の異常によっておこる病気を「心臓弁膜症」といいます。


心臓巨大化 驚きの発見法
心臓弁膜症を見分けるにはどうしたらよいのでしょうか?

なんと心臓弁膜症は他の心臓病と違って、聴診器で簡単に見分けることができます。

実は心臓の音は弁が閉じるときに出る音です。
心臓弁膜症では、狭くなった部分を血液が勢いよく流れるため弁をこする雑音がするのです。


○○に要注意!心臓弁膜症の原因
弁に異常が起きるのはどうしてなのでしょうか?
弁は長年使うとカルシウムがつき硬くなって開きにくくなるんです。

リスクを高めるのは、動脈硬化、高血圧、脂質異常症、糖尿病、メタボリックシンドローム、喫煙、男性など。
また、血液透析を受けている人はカルシウムが沈着しやすいといわれ注意が必要です。

さらに高齢もリスクの1つ。
誰にでもおこる病気といえます。

根本治療は手術しかありませんが、一度行えば再発もほとんどなく安心して暮らせます。
60歳を超えたら、内科に行ったときに一度は聴診を受けることをお勧めします。

もし心雑音があったら、ぜひ心臓超音波(心エコー)の精密検査を受けるようにしてください。


今回のお役立ち情報
心臓弁膜症ってどういう病気?
心臓に4つある弁それぞれが、「閉鎖不全」あるいは「狭窄(きょうさく)」を起こす病気の総称です。その9割は左心室の「僧帽弁閉鎖不全症」、「大動脈弁狭窄症」で占められます。
進行すると心臓の内側の筋肉が厚くなる心肥大や心臓が外側に大きくなる心拡大を生じ、息切れ、疲れ、心痛などの自覚症状が現われることもあります。

聴診で雑音(心雑音)が認められます。
根本治療は手術です。
放っておくと命に関わる病気ですが、きちんと治療すればほとんどの場合再発の危険性も少なく、治る病気ともいえます。

どういう人が検査を受けるべき?
心臓弁膜症の1つ、心肥大を招く大動脈弁狭窄症では、カルシウムがつく石灰化が原因で起こることが最近増えています。
動脈硬化、高血圧、脂質異常症、糖尿病、メタボリックシンドローム、喫煙、男性、高齢、血液透析を受けている人は大動脈弁狭窄症のリスクが高まるので注意が必要です。

60歳以上の人は一度、内科で聴診を受けることをお勧めします。
また、息切れや疲れ、心痛などの自覚症状がある人は循環器内科の専門医の診察を受けることをお勧めします。

どういう検査があるの?
まず、聴診器を使って主に心臓の音、呼吸の音(気管支、肺など)などを診察します。
心臓の音は弁が閉じるときに出る音です。
心臓弁膜症は弁の異常ですから多くの場合、聴診で見分けられます。
聴診で心雑音が認められた場合は、心臓超音波(心エコー)での精密検査を受けるようにしてください。

心臓超音波検査は心臓弁膜症の精密検査として極めて有効です。
X線検査とは異なり、人体に無害で痛みは伴いません(上半身裸になる必要があります)。
検査時間は20~30分程度です。
総合病院の循環器内科であればほぼどこでも行っていますが、保険適用での受診は医師の判断によります。
それぞれの病院にご確認ください。




イメージ 1

赤い丸屋根と白い丸屋根
http://art.pro.tok2.com/K/Klee/Klee.htm

読んでいただいて有り難うございます。
コメントをお待ちしています。

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