高齢者の心臓手術

高齢者も手術を選べるようになってきた。
体力的に難しかった心臓手術を、80歳以上で受けることも珍しくない。
体への負担を軽くする手法が進歩してきたことが背景にある。
ただ、若者に比べれば臓器や血管は衰えている。
リスクを理解したうえで判断する必要がある。

92歳、手術できた

カテーテル大動脈弁治療(TAVI)は高齢者にも行なうことが出来る手術の代表。
心臓の大動脈弁が開きにくくなる大動脈弁狭窄症を治す手術。
この病気は動脈硬化などが原因で、高齢者に多い。
これを含む心臓弁膜症の患者数は、推定で200万~300万人。
血流が妨げられ、息切れや胸痛、失神が起きる。

一般的な手術では、胸を縦に切り開き、心臓の大動脈弁を人工弁に置き換える。
手術中は心臓の拍動をいったん止め、人工心肺装置を使う。
体への負担が大きいため、高齢者の多くには難しかった。

しかし、このTAVIは、足の付け根や肋骨の間からカテーテル(細い管)を入れ、人工弁を心臓まで運ぶ。開胸しないので、人工心肺装置を使わず、小さな傷で済む。
手術には400万円以上かかるが、昨年10月に公的医療保険の対象になった。
高額療養費制度を使えば、70歳以上の多くは自己負担が4~5万円となる。

大阪大病院では臨床研究としてスタートした2009年以降、約150人に実施した。
80歳以上がほとんどで、90代もいるという。

TAVIができるのは全国で25施設。
対象は、開胸手術に耐えられない患者に限られている。

狭くなった心臓の冠動脈に別の血管をつなぐ冠動脈バイパス手術も、体への負担を減らすために進化している。
最近は心臓の動きを止めずに行なう「オフポンプ手術」が普及して来た。

国内で冠動脈バイパス手術を受ける患者の5割は70歳以上で、80歳以上も1割を超えている。
オフポンプの比率は1997年には約10%だったが、2007年以降は65%前後に増えた。

専門医は、条件が合えば90歳ぐらいまで十分に可能だという。
ある医療施設では、約15%が80歳以上という。

早期のリハビリ重視
麻酔やリハビリ、手術前後の管理も、高齢者の手術を支える。

麻酔薬は体内に長時間残らないものをできるだけ選び、手術後の痛みも薬を使ってコントロールしていくのが一般的になった。
早く起き上がることで、リハビリに進むことができる。

寝たままでは筋肉が弱り、認知機能も落ちていく恐れがある。
手術前の絶食期間を短くし、点滴のチューブで体の動きが制限されないようにするなど、術後の回復を重視する取り組みが浸透してきた。

高齢者は糖尿病や腎不全、低栄養になっていることが多く、手術のリスクが高い。
手術前に1週間から数週間入院し、低栄養などを改善して体調のいい状態で手術に臨む工夫をしている施設もある。

認知症の人は術後合併症を起こしやすく、特に注意が必要になる。

個人の差大きく、生きがいもカギ
高齢者が手術を受けるのかを判断するとき、注意すべきことがある。

足腰の骨折など、放置すれば寝たきりになってしまう場合は手術を選ぶべきだ。
心臓などの手術では、望む生活がどれだけ実現できるかを考えたい。

臓器の機能は個人差が大きく、手術の適否は年齢で決まるわけではない。
高齢者では手術後の生活を支える視点も求められる。

手術直後は合併症がなかった人でも、6カ月以内に自立能力が低下してくるケースがあるという。

           
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出典 朝日新聞・朝刊 2014.4.1 ( 一部改変 )
版権 朝日新聞社


           
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                 京都・哲学の道 2014.4.6