夏の脳梗塞に注意

節電の夏 脱水症状で脳梗塞に注意

原子力発電所の事故などの影響による電力不足から節電が求められている今年の夏。
冷房の使用を控えすぎたり、設定温度を高くしすぎたりすると、熱中症だけでなく、脱水症状から脳梗塞心筋梗塞になる危険が高まる。
病院や在宅医療関係者らは、暑さやのどの渇きを感じにくい高齢者や脳卒中患者らを中心に、こまめな水分補給を呼びかけている。

「1日にどのくらい水を飲めていますか」「脱水症状になると脳梗塞を招く可能性もあるので意識して水をとることが大切です」。
「ボバース記念病院」(大阪市城東区)に頭痛や吐き気を訴える、そう重くない熱中症患者が来院すると、医師や看護師が水分摂取の必要性を説明する。

主に脳卒中リハビリテーション医療を手掛ける同病院は、熱中症患者は脳梗塞の危険も大きいとみて積極的に予防に取り組んでいる。
7月下旬には「1時間おきに50~100ミリリットルの水をこまめに飲む」などと水分の取り方を書いたポスターを院内に掲示し、外来患者にも広く呼びかけた。

脳卒中の中でも、高血圧が原因で脳の血管が破れる「脳出血」は冬に増えるが、脳の血管が詰まる「脳梗塞」は夏場に起きやすい。
汗を多くかくことで血管内の水分が奪われ、血液がドロドロになったり血栓ができたりして詰まりやすくなるからだ。
心筋梗塞も同様に夏に増える傾向がある。

実際、国立循環器病研究センター(大阪府吹田市)に2008~10年に入院した脳梗塞の患者1482人のうち、夏(6~8月)の患者は386人(26%)と他の季節を上回った。

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<私的コメント>
1482人を季節の4で割ると370人です。
夏の脳梗塞は386人と16人多いだけです。
しかも、この図にはトリックがあります。
人数の縦軸の下の方がカットされており、結果として季節による差が強調されています。
学問的には統計処理をして統計学的有意差があって初めて「夏に脳梗塞が多い」ということになります。
「国立循環器病研究センター」の沽券に関わることです。
新聞記事として、そのあたりも説明して欲しいと思います。
それは、差があるかどうか微妙だからです。




「家計簿」で記録
ボバース記念病院が取り組んでいるのは、経口補水液を販売する大塚製薬工場が提唱する「水の家計簿」の手法。
飲食物に含まれる水分量と、トイレの回数などで排出した水分量を記録して「食べて1000ミリリットル、飲んで1000ミリリットル」を達成し、自然に失われる1000ミリリットルに加え1000ミリリットルの排出が目安。
十分に摂取できているか、体調不良で極端に奪われていないかを自己管理する。

同病院では7月末、地域の高齢者を対象に、熱中症脳梗塞を防ぐために水を飲む大切さを訴える講演会も開催。
M看護師(49)は「高齢者は暑さの感度が鈍るうえ、冷房を我慢しがち。節電を心がけるあまり、必要以上に無理をして体調を崩す高齢者が増えるのでは」と懸念する。

脳卒中患者が退院後に在宅でリハビリを行っている場合も注意が必要だ。
後遺症による手足のまひなどで寝たきり状態の患者も多く、自分で水分を補給することが難しい。
脳梗塞以外の脳卒中患者でも、その後、脳梗塞を発症する恐れがある。


家族のケアが鍵
在宅訪問リハビリ専門の「三軒茶屋リハビリテーションクリニック」(東京都世田谷区)では、理学療法士や医師が訪問時に食事の内容などを家族から聞き取り、水分が足りているかを確認。
十分でなければ市販の経口補水液などを勧め、飲み込めない人にはゼリータイプの補水液も紹介する。
H院長は「後遺障害が重い患者は、のどの渇きを訴えることも難しく、家族のケアが鍵」と話す。

訪問診療を受けている同区の0さん(55)は、05年にくも膜下出血で倒れ、左半身などのまひで6年間寝たきりの状態が続く。
今年は6月ごろから夏のような暑さが続き、妻のTさん(51)は特に水分補給に気をつかう。
短時間外出しただけで大量の汗をかき、水分が減って発熱したこともあったからだ。

Tさんは夫が摂取する水分量をノートに記録。
3食ごとにスープやお茶で計400ミリリットルずつ、入浴後にもお茶を飲んで200ミリリットルで1日計1.4リットルを目安にしている。

水分の“収支”の確認には、失われる水分量の把握も欠かせない。
汗など自然に失われる水分の把握は難しいが、最も多い尿のチェックは可能だ。
Tさんが目をつけたのはおむつ。
未使用のおむつの重さをあらかじめ量り、使用後の重さとの差を調べれば、おおよその量なら分かる。

水やスポーツドリンクばかりでは飽きると考え、時々ジャスミン茶やジュースなどに変える工夫も。
Tさんは「厳密にやり過ぎては長続きしない。大まかな水分量を把握するように心がけている」と話す。

国立循環器病研究センターによると、気温の高い日中だけでなく、血圧が下がる夜間は就寝中に暑くて脱水すると、血管が詰まりやすくなる。
さらに尿量が増え脱水の原因になる飲酒が重なると脳梗塞が発症しやすく、注意が必要という。

また夏の脳梗塞を防ぐには、こまめな水分補給が最も重要だが、血液が固まりやすくなる夏風邪など感染症にかからないようにするのも大切。
「体の左右どちらかが動かせない、しびれる」「ろれつが回らない」「片方の目が見えない」「足もとがふらつく」などの症状が急に出たら、すぐに受診することも勧めている。


熱中症搬送、今年も多く 子供から大人まで警戒を
脳梗塞心筋梗塞は中高年に多いとされるが、子供から大人まで全年代で注意が必要なのは熱中症だ。
総務省消防庁によると、7月4~17日に熱中症で搬送された人数(暫定値)は前年同期の約5倍にあたる11847人に達し、19人が死亡。平年より早い梅雨明けで気温が急に上昇したためとみられるが、8月も酷暑が見込まれている。

行政や医療関係者らは熱中症に対する注意に力を入れている。
自治体ではホームページで気温や湿度など熱中症に関する情報を掲載。
大阪府医師会は6月下旬、約330人の医師らを対象に「職場・学校における熱中症対策」と題した講演会を開いた。
労働現場での熱中症を防ごうと医師や専門家を招いて社員に研修をする企業も増えている。

暑さによる熱中症脳梗塞は脳の障害や手足のマヒなど後遺症が出ることもあり、重篤な場合は死に至ることもある。
節電や安易な考えで暑さを無理に我慢せず、適切な判断で夏を乗り切ることが大切だ。
(松浦奈美、八十島綾平)
出典 日経新聞・夕刊 2011.7.28(一部改変)
版権 日経新聞


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