薬減ったら血圧下がった

#高血圧治療、2種類を一つにした配合剤
日本に高血圧の人は約4千万人いるが、治療している半数近くは目標の血圧にコントロールできていないとみられている。
食事や運動に気を配るだけでなく薬とのつきあいも大切。
最近は、2種類の薬を一つの錠剤にまとめた新タイプも登場、薬を減らせ、飲み忘れなど防げることが期待できるようになってきた。

●忘れずに服用、後押し
「上が135、下が79。うん、大丈夫ですね」
5月末、兵庫県尼崎市の勝谷医院。勝谷友宏院長に血圧の測定値を告げられると、奥野皓一さん(70)の表情が和らいだ。上は収縮期血圧、下は拡張期血圧のことだ。
 
高校教諭だった奥野さんが高血圧と指摘されたのは30代のころ。
それ以降、30年あまり薬を飲み続けてきた。
薬の種類を増やしても、血圧はなかなか落ち着かなかった。

やはり高血圧だった父親は50代で他界した。
自身も59歳で脳卒中を経験。血圧コントロールの大切さは身にしみている。毎日1万歩の散歩と減塩食を心がけている。

血管収縮を抑えるARBという種類の薬、血管を広げるカルシウム拮抗薬、余分な塩分を出させて血圧を下げようとする利尿薬、心臓が送り出す血液量を調節するβ遮断薬など、主な降圧剤を組み合わせても目標まで下がらない。

「配合剤を試してみませんか」。
昨年、勝谷院長に勧められた。
2種類の降圧剤をひとつの錠剤にまとめた薬だ。
ARBの種類や量の違う三つのタイプを試した。
いずれも少量の利尿剤が配合されている。ARBの用量が最も多いタイプを服用したら、血圧が安定してきた。

奥野さんは糖尿病も抱えているので、高齢者の一般的な治療目標よりも厳しいが、家で測ると目標値=表参照=をほぼクリアできるようになってきた。
毎朝飲む血圧関連の薬は5錠だったが、配合剤を1錠飲むことで4錠に減った。
「薬が一つでも減るのはありがたい。血圧が安定して、不安感がなくなりました」と喜んでいる。



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●2種類合計より安価
降圧剤の配合剤は2006年から続々と登場している。
09~10年には5製品が発売され、今後も増える見通しだ。

慶応義塾大保健管理センター(横浜市)の齊藤郁夫教授(循環器内科)によれば、降圧剤を飲んでいる人のうち5~6割は、2種類以上を同時に飲んでいる。
薬の種類が増えると、決められた時間や回数を守らなくなりがちだ。

齊藤さんらが440人の高血圧患者を対象に調査した。
「きちんと薬を飲まなくなる」と答えたのは、2種類飲む患者では1割、3種類以上飲む患者では2割に増えた。
「薬を一つでも減らせることは、安全で効果的に治療する上でメリットがあります」。薬が多いほど、飲み忘れや飲み間違いのリスクも高まる。

配合剤の場合、値段が元の薬の値段の合計額より2割前後安いというのも利点のひとつだ。

一方、配合剤の発売から1年以内は、1回の受診で2週間分しか処方が認められていない。
このため通院の手間がかかる。
また、その組み合わせや用量が患者の症状に最適なのかも、慎重に見極めなければならない。


「サイレント・キラー(静かな殺し屋)」

自覚症状が出にくい高血圧は、こう呼ばれている。
それだけに、治療を始めたり続けたりするのは容易ではない。
30、40代では、高血圧でも8~9割の人が治療を受けていないともいわれている。
高血圧の専門病院の患者でも、治療で目標の血圧が維持できているのは高齢者で6割、若年者だと3割ほどだという。

国立循環器病研究センター(大阪府)高血圧・腎臓科の河野雄平部長によると、降圧剤をきちんと飲んでもコントロールがうまくいっていない人や、2種類以上併用していて、薬の数を減らしたい場合は、主治医に相談したほうがよいという。

高血圧を適切に治療すれば、脳卒中心筋梗塞はもちろん、認知症を予防できる割合も高くなる、という海外の研究報告もある。

河野さんは「まずは、日頃から家庭で血圧を測り、治療の必要性を理解して、薬をきちんと飲むことが大切。早急に切り替えるべきだというわけではないが、利便性の点から配合剤も選択肢の一つです」と話している。

◆キーワード 高血圧
心臓がぎゅっと縮んで全身に血液を送り出したときに血管の壁にかかる最も高い圧力を「収縮期血圧」、次の拍動にそなえて心臓が広がり血液を吸い込んで圧力が最も低いときを「拡張期血圧」という。
診察室で測ったときに収縮期140mmHg以上、拡張期に90mmHg以上なら高血圧と診断される。
加齢や動脈硬化などで血管がもろくなっている場合、血圧の高い状態が続くと血管が破れたり詰まったりする脳卒中心筋梗塞などの致命的な病気につながる危険性が高くなる。
予防のためには早期の治療が大切だ。           (大阪本社科学医療グループ 権敬淑)

出典 朝日新聞・朝刊 2010.6.10
版権 朝日新聞社







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アルフレッド・シスレー「モレの橋」(1893年、油彩・カンバス、73.5×92.5センチ) 
(C)RMN(Musee d'Orsay)/Herve Lewandowski/distributed by AMF
http://www.nikkei.com/life/culture/article/g=96958A88889DE2E4E3E7E4EAE3E2E0E0E2E6E0E2E3E2E2E2E2E2E2E1;p=9694E0E3E2E6E0E2E3E2EBE5EBE3


Alfred Sisley (1839-99)  フランス  印象派
http://pro.tok2.com/~art/S/Sisley/Sisley.htm




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