ウイルス原因のB型肝炎

ウイルス原因のB型肝炎、成人の性感染広がる ワクチン接種で「母子感染」は激減

ウイルスが血液や体液を介して感染するB型肝炎。感染しても無症状な人が多いが、発熱や黄疸などが現れ、肝硬変や肝がんを患うことがある。
ワクチン接種で乳幼児の感染は著しく減ったが、成人の間では性感染で広がるケースが増えている。

都内在住の太田容子さん(仮名、56)は32年前、第1子を出産したときに医師から「B型肝炎ウイルス陽性です」と告げられた。
発熱やだるさ、黄疸といった症状はなかった。健康診断でも問題はなかったので通院せずそのまま日常生活を送った。


国内感染者110万人
初めて発症したのは13年後の37歳のとき。
38度の熱と黄疸が約1週間続き入院した。
いわゆる急性肝炎だ。
その後も同様の症状が2度起こり入院を繰り返した。
最近は2カ月に1度、病院で検査している。
入院時のような症状はみられないので特別な治療は受けておらず、仕事もしながら普通に暮らしている。

ただ、ここ2~3年はウイルスの量が増えた。
「肝がんになるのではないか心配」と太田さんは不安そうな顔で話す。

 国内でB型肝炎の原因ウイルスに感染している人は推定で110万人ほどいる。
ウイルスは血液や体液を介して感染する。主な感染経路は妊娠中や出産の際に母から子にうつる「母子感染」と考えられてきた。
乳幼児期に感染すると大抵は、ウイルスが体内に生涯居続ける「キャリアー」という状態になる。

一時的に発症すると、発熱や黄疸が現れるが1カ月ほどで治まる。
感染している人は自覚症状がないことが多いが、太田さんは「肝炎を発症した後は、症状がなくても疲れやすかったり集中力が落ちたりする」と説明する。

ウイルスに感染していることが分かる機会は様々だ。
太田さんのように出産時の検査で判明する場合もあれば、献血や健康診断などの際に分かることもあるという。

現時点ではウイルスを完全に死滅させる薬はない。
治療の目的はウイルスの駆逐ではなく、ウイルスを抑えて肝硬変や肝がんに悪化するのを防ぐこと。
キャリアーの1~2割ほどが肝硬変や肝がんになるとみられているが、そこまで悪化するのを防ぐことができれば、キャリアーでも普通に暮らせる。

まず、定期的に病院へ通い肝臓の働きを示す検査値「ALT」やウイルス量、ウイルスに対する抗体などを測り様子をみる。
30歳くらいまでに肝炎を発症する場合は、体の働きでウイルスを抑えられるケースも多い。
発症するとALTは一時的に急増するが、その後抗体が増えてウイルスを抑える。

この状態が続くと、治療をしなくても終生、肝がんや肝硬変にならないことが多い。
「キャリアーの約7割が該当する」と東京大学の四柳宏・准教授は説明する。
ただ、何度も肝炎を繰り返す場合は肝がんになりやすく、20歳代で進行するケースも多いという。
手術などでなるべく早期にがんを取り除く。

また、体内にウイルスが多いと、肝硬変や肝がんになりやすいことが分かっている。
その場合は、ウイルスを減らすために「インターフェロン」や「核酸アナログ製剤」を使うことがある。

国内ではこれまで主要な感染経路が母子感染だったため、国は1986年から母親がキャリアーの場合は生まれた子にワクチンを接種して感染を予防する対策を進めた。
その結果、乳幼児の感染者は激減した。

現在は「年間500人ほどの乳幼児が新たに感染している」と済生会横浜市東部病院の藤沢知雄・専門部長は説明する。
ワクチン接種に来なかったり、キャリアーの父親などから唾液や涙を介してウイルスがうつったりしていると考えられる。

ジェノタイプA流行
さらに最近は、成人で感染してキャリアーになるケースが増えている。
欧米で流行している「ジェノタイプA」と呼ぶウイルスが原因で、性感染で広まる。

ジェノタイプAに感染した人の1割ほどがキャリアーになるといわれている。
国立病院機構の研究チームが実施した調査では、2009年にB型肝炎ウイルスが原因で急性肝炎を起こした患者の4割以上がジェノタイプAに感染していた。

このウイルスに感染すると、1~6カ月ほどは無症状だが、2~3割の患者が発症。発熱や黄疸、だるさなどが1カ月ほど続く。
発症から3カ月間ほどはウイルスが多く、ほかの人へうつす可能性が高い。

症状が治まれば一見、健康そうなので、「退院して感染を広げるケースもあるようだ」と四柳准教授は推察する。
国立感染症研究所の調査では、性感染によるとみられるB型肝炎の患者は、99年ではB型患者全体の42.7%だったが、08年には66.3%に増えている。

国立国際医療研究センター肝炎・免疫研究センターの溝上雅史・センター長は「B型肝炎のウイルスの主な感染経路は母子感染から性感染などに変わりつつある。母子感染の予防だけではB型肝炎を防ぎきれない」と訴える。
感染対策として有効なのはワクチン。
肝臓の専門医らで組織する日本肝臓学会などは、すべての国民がB型肝炎のワクチンを接種できるよう国に求めている。

イメージ 1


出典 日経新聞・夕刊 2010.7.30
版権 日経新聞



<関連記事>
B型肝炎:父子間でも感染 ウイルス解析判明、「全体の1割」指摘も
B型肝炎ウイルス(HBV)感染が父子間で起きていることを、大阪府立急性期・総合医療センターと名古屋市立大の研究チームがウイルスの遺伝子解析で突き止めた。
従来は出産時の母子感染が主な感染経路とされ、母親が感染者と分かった赤ちゃんにワクチンを接種する感染予防制度がある。
しかし、父親が感染者の場合には、こうした制度はなく、研究チームは「父親の健診強化とワクチン接種の拡大が必要だ」と指摘している。

HBVに感染すると急性肝炎や、肝がんを招く慢性肝炎になる恐れがある。
3歳ごろまでに感染すると、感染が継続しやすい。
国内の感染者は100万人以上とされる。

研究チームの田尻仁・同センター小児科部長らは、子どもが感染しており、父親以外に周囲に感染源が見当たらない5家族について、HBVの遺伝子を調べた。
その結果、子ども8人(3~14歳、男2人、女6人)のHBVとそれぞれの父親のHBVの遺伝子配列がほぼ完全に一致し、父親が感染源と確認できた。

HBVは血液や体液を介して感染する。
具体的感染経路や時期は不明だったが、傷口が触れるなどの濃厚な接触が、気付かぬうちに父子間で起きていたとみられる。

出産時は母子感染の危険が高く、母親は妊娠時にHBV検査を受けるのが一般的だ。
陽性なら、生まれた赤ちゃんにワクチン接種する。
健康保険が適用され、予防効果も95%以上と高い。
一方、父親の場合は、血液や体液が子どもに触れるような機会は少ないとされ、感染者であっても、子どもへのワクチン接種は健康保険の対象外だった。

肝炎ウイルスに関する厚生労働省研究班代表の大戸斉・福島県医大教授(輸血医学)は「HBV感染の1割程度は父子間ではないか。家族内に感染者がいる子どもへは、感染者が誰かによらず保険でワクチン接種できるようにすべきだ」と話す。

出典 毎日新聞・朝刊 2007.8.19
版権 毎日新聞社




<番外編 睡眠>
メラトニン分泌させ快適睡眠
睡眠は寝ている間の身体のメンテナンスや、記憶情報の処理、活性酸素の消去などに重要だ
このシステムの維持にメラトニンが働いている。
アミノ酸の一種を原料として合成される、睡眠に不可欠なホルモンだが、17~18歳をピークに分泌量は減少し高齢になると睡眠障害が起こりやすくなる。

幼少時にはメラトニンが引き金となって成長ホルモンの分泌が促進され、骨や筋肉が成長する。
特に睡眠中に多く分泌されるため「寝る子は育つ」のだ。
メラトニンには老化や生活習慣病の元凶ともいうべき活性酸素の消化作用がある。
メラトニンは朝、目覚めた時に太陽の光を浴び、寝る前には照明を暗くすることで分泌量が増す。 
ウオーキングやジョギング、水泳なども効果的だ。
朝、太陽の下での運動は体力づくりにもつながり一石二鳥といえる。

逆にストレスやコーヒー、緑茶などのカフェイン、アルコール、たばこなどは分泌を抑えるため寝る前は避けるべきだ。
メラトニンを多く分泌させ、得られた十分な睡眠により成長ホルモンなどを多く産生させるなど、ホルモンを利用した健康法を心がけてほしい。
            (京都府立医科大学大学院 吉川 敏一教授)

出典 日経新聞・夕刊 2010.7.30
版権 日経新聞








イメージ 2

Edgar Degas. Dancers Climbing a Stair. c.1886-1890. Oil on canvas. Musée d'Orsay, Paris, France.
http://shyshd.blogspot.com/2010/06/blog-post_9963.html




読んでいただいて有難うございます。
コメントをお待ちしています。
井蛙内科開業医/診療録(4)
http://wellfrog4.exblog.jp/
(H21.10.16~)
井蛙内科開業医/診療録(3)
http://wellfrog3.exblog.jp/
(H20.12.11~)
井蛙内科開業医/診療録(2)
http://wellfrog2.exblog.jp/
(H20.5.22~)
井蛙内科開業医/診療録 
http://wellfrog.exblog.jp/
(H19.8.3~)
(いずれも内科専門医向けのブログです)
葦の髄から循環器の世界をのぞく
http://blog.m3.com/reed/
(循環器専門医向けのブログです)
井蛙」内科メモ帖 
http://harrison-cecil.blog.so-net.ne.jp/