肝臓を守れ!

NASHという病名をご存知の方も多いのではないでしょうか。
中には初めて聞いた、という方もみえるかも知れません。

このNASHとは、Non alcoholic steatohepatitisの略で、非アルコール性脂肪肝炎と日本語ではいわれるものです。
要するに、「アルコールが原因で脂肪肝や肝硬変になる」という概念とは別のものなのです。
飲酒が原因でない、こういった脂肪肝の一部に、肝実質に壊(え)死・炎症・線維化が起こり、中には肝硬変、肝細胞がんに進展する例があるということがわかってきたのです。
実は、こういった考えは昔からあったわけではなく1980年に最初に提唱されたものです。
しばらくは注目されませんでしたが、アメリカではC型慢性肝炎、アルコール性肝障害についで頻度の高い疾患であることが明らかにされました。
そういった経緯を経て、1998年になりようやくNASHの疾患概念が確立したのです。
実はアメリカでは、人口の3%がNASHにかかっているともいわれています。

その発症のメカニズムは複雑で、すべてが解明されてはいません。
肥満が原因で高インスリン血症が起こり、肝臓に中性脂肪が蓄積します。
肝細胞の30%以上が脂肪細胞で占められたものを脂肪肝と呼びます。
脂肪肝を基盤に、肝細胞に炎症や繊維化が引き起こされ、酸化ストレスが大きな役割を担っているといわれています。

「非アルコール性」といっても全くアルコールを飲まない人というわけではなく、アルコール摂取量が20g以下(瓶ビール1本または日本酒1合)の人は「非アルコール性」となるのです。

脂肪肝の原因の多くは肥満ですが、脂肪肝の約1割がNASHになるといわれています。

①肥満のある人でアルコール摂取量が1日20g以下、
②GPTがGOTより高く半年以上異常が続く
③ウイルスなど他の肝障害の原因がない人
は、脂肪肝やNASHの可能性があります。
肝生検の結果、高度の脂肪肝で炎症や線維化が見られた場合、NASHと確定診断されます。

(私的コメント;残念ながら確定診断は肝生検なのです。その覚悟がないとなかなか病院には行けませんよね。)

NASHは、予備軍1000万人ともいわれており、生活習慣病の一つということで、大いにに注目されている肝臓の病気なのです。

きょうは、最新のTV番組を紹介します。



肝臓を守れ!驚きの新常識が!

突然ですが、肝臓って何をしている臓器でしょうか?

「アルコールを分解してくれる」
正解ですが、それだけではありません。
肝臓はエネルギーをつくり、胆汁をつくり、ビタミンを合成し、解毒もしてくれます。
実に500種類の化学処理をすることから人体の『化学工場』と呼ばれるとってもありがたい臓器なんです。

ところが近年、予備軍1000万人の肝臓病が急増中!
そして、肝臓にいい、肝臓のために、と思った行動が実は肝臓病を悪化させるという新事実も!


医師もびっくり!肝臓病の意外な原因
肝臓がんと診断されたKさん(仮名)は、肝炎ウイルスに感染もしていない、アルコールもほとんど飲まない、肝臓がんになる原因が見当たらない患者さんでした。
これまで日本人の肝臓がんは肝炎ウイルスとアルコールがその原因のほとんどを占めていたため、河原さんは原因不明の肝臓がんと診断されたのです。

ところが、ある偶然がKさんの肝臓がんの原因を解き明しました。
偶然にも河原さんは27年前に同じ病院で肝臓の組織を調べる検査(肝生検)を受けていて、さらに偶然にも当時の組織が残っていたのです!

早速主治医がその組織を調べると・・・Kさんは27年前に脂肪肝だったことが分かったのです!
いったいなぜ、脂肪肝ががんになったのでしょうか?


脂肪ががんに!?細胞の中では・・・
脂肪肝が原因でがんにまで進行してしまう病気とは?
その仕組みを暴くべく、肝臓の細胞を調べてみると・・・
うわぁ!大切な役割を果たす肝臓の細胞の中には脂肪がびっしりと入り込んでいました。
その細胞の中には、ミトコンドリアがいます。
ミトコンドリア、実は、細胞が活動するためのエネルギーをつくるとっても大切な役目を果たしています。
肝臓がアルコールを分解できるのも、ミトコンドリアがエネルギーをせっせとつくってくれるおかげなんです。

ふだんのミトコンドリアは糖からエネルギーをつくっています。
ところが、脂肪肝の細胞の中では、脂肪が入り込みすぎてミトコンドリアに異常が起きます。
すると、なんとミトコンドリアは脂肪からエネルギーをつくりはじめます。
脂肪肝の細胞には糖がちゃんと入ってこないため、肝臓を動かすために脂肪さえもエネルギーにしているのです。

しかし、そんなミトコンドリアにも限界の時が訪れます。
脂肪からエネルギーをつくる過程でミトコンドリアはどんどん巨大化して、機能不全におちいります。
この状態はジャイアント・ミトコンドリアと呼ばれます。
肝臓に何が起きているのでしょうか?


第3の肝臓病・NASH(ナッシュ)が急増中!
肝臓に起きた異常事態ジャイアント・ミトコンドリアミトコンドリアの死を意味し、そして細胞自体が
死んでしまうことになります。

死んだ細胞の跡地は、隙間がコラーゲンで穴埋めされて、ガチガチの繊維化状態になります。
これが肝硬変です。
がんは肝硬変になった頃に登場するのです。

脂肪肝であることから肝臓に炎症が起き肝炎に。さらに悪化すると肝硬変。
そして最悪の場合には肝臓がんへと進行することが研究で分かってきたのです。

脂肪肝を出発点にした肝臓病を非アルコール性脂肪肝炎、通称NASH(ナッシュ)といいます。

現在、日本人の1000万人が脂肪肝と考えられています。
つまり将来NASHになる可能性があるNASH予備軍が1000万人ということになります。

NASHが日本で注目され始めたのはここ10年ほどのことです。
食生活の乱れや運動不足から肥満になる人が増えたことで脂肪肝が増え、NASHの患者数も急増し、およそ200万人がNASHと考えられています。

NASHと関連する因子は・・・

肥満(メタボリックシンドローム
糖尿病
高脂血症
高血圧

といった現代人がかかえる生活習慣病と深い関係があることがわかります。
健康診断などで脂肪肝と指摘された方は注意が必要です。


たまった脂肪を燃やす技
今回実験で、誰もが毎日するあの行動が脂肪燃焼のカギであることを突き止めました!

実験に協力してもらったのは体型がほとんど同じ双子の兄弟。
異なる条件の部屋に分かれてもらいました。
弟にはおなかをすかすために、料理の番組や雑誌が用意された部屋に入ってもらいます。
おなかがすくと血糖値が下がり、蓄えられていた脂肪が燃焼されるはず、という理屈です。
もう1つの部屋に入ったお兄さんが見たのは・・・ベッド。つまり、
ただ寝てもらうという実験です。

実験から、ぐっすり寝てもらった兄の方が脂肪を燃焼している結果になりました。
なぜこのような違いが出たのでしょうか?

その違いは肝臓のある能力のおかげでした。
昼間、肝臓は活発な脳のために糖を使ってエネルギーをつくります。
ところが、夜寝ると脳はそれほどエネルギーを必要としません。
すると肝臓は脂肪をつかって心臓のためのエネルギー(ケトン体)をつくるモードに切り替わるのです。

昼夜で肝臓が異なる役割を果たしていたとは驚きです。
つまり、ちゃんと寝ないで、ムダに夜更かししていると、本来肝臓が燃やすはずの脂肪が燃えないのです。


ウコンの意外な落し穴
今ではすっかりおなじみとなった、ウコン。
ところが、ウコンに含まれている鉄分が肝臓病の患者さんにとっては症状を悪化させるという研究が報告されました。

※健康な人がウコンを通常の量のむことは全く問題はありません。また鉄分がほとんどふくまれていないウコン商品もあります。

C型肝炎に感染したAさんは熱心に治療しているのになかなか症状が回復しませんでした。
かかりつけの病院で指摘されたのは、意外な原因した。

それは肝臓によかれと思ってのんでいたウコンだったのです。
Aさんがのんでいたウコンには鉄分が多く含まれていたのです。
ウコンをとるのを止めると、Aさんの肝機能を示す値はよくなりました。

日本人には足らないとさえ言われる鉄分が、なぜ問題なのか?
実はC型肝炎やNASHの患者さんは、健康な人に比べて鉄が肝臓にたまりやすい「鉄過剰」と呼ばれる状態になることがあります。
鉄がさびるように、体内にたまった鉄分が肝臓の炎症を悪化させるのです。

三重大学医学部の研究グループでは、ウコンの他にもさまざまな健康食品について鉄分を調べました。
すると、肝臓病の患者さんにとって控えるべき鉄分が、様々な製品に含まれていることが分かったのです。
そして多くの商品には鉄の量は表示されていませんでした。

肝臓病の患者さんで心配な方は、主治医/専門医に相談の上、血液中の鉄量「フェリチン値」を調べてもらうことで、鉄を控える必要があるかどうか相談できます。


今回のお役立ち情報
急増中!予備軍1000万人の肝臓病 NASH(ナッシュ)
大量の飲酒や肝炎ウイルスが肝臓病につながることはよく知られています。
しかし近年、お酒をほとんど飲まないのにかかわらず、最悪の場合は肝臓がんへ進行する肝臓病が急増しています。
この病気は『非アルコール性脂肪肝炎(NASH(ナッシュ))』と呼ばれ、脂肪肝がきっかけで発症します。
生活習慣や食生活の変化から肥満が増えた現在、日本では1000万人が脂肪肝と推定されています。
今後NASHの予防が必要とされています。

《NASHと関連する主な因子》

メタボリックシンドローム(肥満・糖尿病・高脂血症・高血圧)
急激なダイエット
消化管手術(小腸短絡術・小腸切除・胃形成術など)
薬剤(アミオダオン、糖質コルチコイド、合成エストロゲンなど)

NASH(ナッシュ)の診断・治療方法は・・・
NASHの診断には専門医の診察が必要です。
まず脂肪肝は、
(1)血液検査(ALT(GPT)/AST(GOT)/血小板)
(2)超音波検査で診断されます。
この結果がよくない場合
(3)肝生検といって肝臓の組織を直接調べてNASHかを診断します。

NASHの治療では、食生活の改善や運動で2~3kg/1か月ペースの減量を目指します。
肥満からの脂肪肝を防ぐことが予防のカギです。


ウコンの意外な落とし穴・・・
三重大学医学部の研究から、ウコンなどの健康食品には鉄分が多く含まれているものがあることが分かりました。
健康な人にとっては大切な栄養素『鉄』は、C型肝炎やNASHなどの患者さんにとっては、『鉄過剰』と呼ばれ炎症を引き起こす危険があります。
肝臓病の患者さんは専門医に相談する必要があります。
鉄過剰の危険があるかどうかは、『フェリチン値(体内の貯蔵鉄)』を検査することでわかります。

なお、健康な人はウコンをとっても通常の量であれば問題ありません。


出典 NHK総合テレビためしてガッテン」2011.6.29(一部改変)
版権 日本放送協会

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中西 繁 サンジュルジョ・マッジョーレ(イタリア)F10