今年のインフルエンザワクチン

インフル予防、ワクチン供給遅れの懸念

インフルエンザの季節が近づいてきた。
重症化などを防ぐワクチン接種も始まった。
ワクチンは専門家が流行するタイプを予測し製造しているが、別タイプがはやる可能性もある。
今年はメーカーで製造不良が発生し、ワクチン入荷が遅れている医療機関もあり、関係者は気をもんでいる。

インフルエンザのウイルスのうち、A型とB型が主に流行の原因になる。
各型のウイルス表面にある糖たんぱく質の違いにより、さらに多くの「亜型」と呼ばれるタイプに分かれる。

主流の型は不明
世界保健機関(WHO)は毎年2月、前シーズンを参考に翌シーズン向けに作るワクチンの型を決める。
昨冬はH3N2型(A香港型)やB型、2009年に登場したH1N1型の3つが流行した。
H1N1型は豚由来の新型インフルエンザと呼ばれたが、現在は通常の季節性インフルエンザになった。
今冬もこの3タイプに対応できるワクチンを用意した。

製造したワクチンと実際に流行するタイプが一致する確率は95%以上。
ただ「1990年代には年ごとに流行するタイプが変わっていた」(北里生命科学研究所の中山哲夫教授)。
予測が必ず当たるとはいえない。
国立感染症研究所の岡部信彦・感染症情報センター長も「今冬も昨シーズンと同じ3タイプの組み合わせで流行すると思うが、どれが主流になるかは分からない」と話す。
流行の規模がどの程度になるかの予測も難しいという。
<私的コメント>
「95%以上の確率で、ワクチンと実際に流行するタイプが一致」ということが書かれていますが、国民は勿論ワクチンを接種するわれわれ医療側にもシーズン後に「タイプが一致」したかどうかということが公表されません。
これって一体どうなっているのでしょうか。
例年いつも不思議に思っていましたが、考えるのも馬鹿らしくなったので今は粛々と何も考えずに予防接種をしています。
誰も問題にしないのが実に不可解です。

また型や亜型が同じウイルスでも毎年少しずつ変異を起こす。
ワクチンを作っても実際のウイルスとは抗原性が完全には一致しない。
変異の可能性が指摘されるのがH1N1型だ。
このウイルスは約50年前に流行したタイプと似ていたため、高齢者はかかりにくかった。
大きく変異すればワクチンの効き目が下がる。

インフルエンザのワクチンは鶏の有精卵にウイルスを植え付けて作る。
この手法はウイルスが効率よく増えるが短所もある。
鶏卵確保の問題から、大流行が起きてから急いでワクチンを増産するのは難しい。
また鶏卵の中で増殖させる途中でウイルス表面の糖たんぱく質が変化し、ワクチンの性能が下がってしまうこともある。
<私的コメント>
孟夏の年は有精卵が出来にくいと聞いたことがあります。
鶏は暑さに弱いのでしょうか。

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製造過程で異変
今冬向けのワクチン製造では異変が起きた。
第一三共は478万本のワクチンの供給を計画していたが、グループ会社が製造する過程で別のウイルスが混入し、236万本を出荷できなくなったと発表した。
同社は最大120万本を追加生産し、最終的に362万本を供給する予定。
出荷は年明けになる見通しだ。
<私的コメント>
「年明け」にワクチンを接種する人はほとんどいません。

厚生労働省が示した予測によれば、今冬の需要量は2800万本弱。
一方、現時点の供給予定量は2850万本程度と需要を上回っており「全国的には十分確保できる」(結核感染症課)とみている。
ただ「局地的にワクチンが不足することはありえる」と同課の担当者は認める。
中山北里大教授も「流行の時期次第だが、ピークに間に合わない可能性もある」と危惧する。

医療現場では混乱も一部で起きている。
けいゆう病院(横浜市)小児科の菅谷憲夫医師は「特定の医薬品卸から集中してワクチンを買っていた病院では、例年の半分程度のワクチンしか確保できていないとの話もある」と明かす。
別の病院でもワクチンの入荷時期が遅れているという。
ただ感染研の岡部センター長は「12月の本格的なワクチン接種の時期に入るまでに他メーカーの増産などで供給に余裕が出る可能性もある」と指摘する。

厚労省は医薬品卸間で十分調整するよう勧告したほか、医療機関による買い占めや在庫の偏りが生じないよう在庫量の把握などを都道府県に要請した。
過剰発注で流行期が終わった後に大量返品した医療機関名の公表も検討中だ。

各メーカーは鶏卵を使わずにワクチンを作る技術の開発や生産体制の整備も進めている。
培養細胞や昆虫細胞などを使う方法で臨時の増産に対応しやすい。
国は鳥由来の高病原性インフルエンザの流行などに備え、4メーカーに交付金支給を決めた。

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不摂生は避ける
ワクチンを受ける側はどうしたらよいか。
不安に駆られて病院などに殺到すると混乱に拍車をかけてしまう。
まずは冷静に病院や自治体などの対応を見守り、「身近に乳児や高齢者がいる人などは例年通り必要に応じて接種を受けるといい」(岡部センター長)。
ワクチンは大人は1回、13歳未満は2回接種すればかかりにくくなったり、感染しても重症化を防いだりできる。

今シーズンから少し変わったのは13歳未満への対応。
接種量がWHOの基準に合わせ若干増えた。
かつて使っていたワクチンに比べて発熱の副作用のおそれが少ないワクチンが普及したことなどが背景だ。
また、1回目と2回目の接種間隔も従来は1~4週間としていたが、2~4週間になった。
間隔が短いと免疫を付けるのが難しいとの判断からだ。
<私的コメント>
13歳以上は従来通り1~4週間となっています。

効果は免疫力に比例するため人により差が出るが、一般的には成人で効果が高い。
ただ接種後も「過労や睡眠不足など不摂生な生活をすれば免疫力は下がってしまう」(感染研)ので注意したい。

インフルエンザ予防の基本は、規則正しい生活を送ること。
手洗いなども忘れないよう心がけたい。
マスクでウイルスを完全に防げるわけではないが、ある程度の効果は期待できる。
かかってしまっても外出する際はマスクを使い、せきやくしゃみでウイルスをまき散らすリスクを減らすことも大切だ。
インフルエンザかなと思ったら、早めに医療機関を受診しよう。     (草塩拓郎)

出典 日経新聞・夕刊 2011.10.14