骨折予防に骨質改善 コラーゲンが鉄筋の役割

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= 乳製品など摂取でしなやかに = 
骨折の原因に骨密度(骨量)が関係していることは知られている。
実は最近、骨の質「骨質」の劣化も骨折の原因になっていることが明らかになってきた。
骨質の状況を調べ、骨折予防に役立てようという取り組みも始まっている。(鈴木久美子

 
東京都練馬区の会社員男性(60)は昨年九月、右足のくるぶしの痛みに悩まされた。
腰痛や臀部(でんぶ)痛も出てきたため、東京慈恵会医科大付属病院の骨代謝専門外来を受診したところ、くるぶしには異常はなかったが腰椎圧迫骨折、仙骨脆弱(ぜいじゃく)性骨折と診断され一カ月入院した。

「骨密度は同年齢の人並みの値だった。なぜ骨折を」と男性はいぶかる。

「骨質劣化型の骨粗しょう症だ」と主治医の斎藤充医師は説明する。

骨質とは、骨の材質の良しあしのこと。
骨の強度を決める要因の七割は、カルシウムなどのミネラル量(骨量)だが、残り三割が骨質によって左右される。
国立衛生研究所が二〇〇〇年に新たに定義づけを行って登場した考え方だ。

骨の体積の約半分がコラーゲン(タンパク質)、残りはミネラル。
コラーゲンの構造が骨質を決めることが斎藤医師らの研究で明らかになってきた。

「コラーゲンは、橋りょうの骨組み(架橋構造)のようにその分子同士がつながる構造をしている」と斎藤医師。
つながって束になった分子は繊維状になっている。
骨構造を鉄筋コンクリート柱に例えると、コラーゲン繊維は鉄筋、ミネラルがコンクリートの役割を果たす=イラスト。



 分子のつながり方には二種類ある。つながりがしっかりして丈夫な“鉄筋”で、骨はしなやかで粘り強くなる構造と、つながり方が不安定で、“鉄筋”は硬くもろくなり、骨折しやすくなる構造だ。斎藤医師らは前者を「善玉架橋」、後者を「悪玉架橋」と呼ぶ。悪玉の構造が増えすぎると、骨質は低下する。

 骨折リスクを、骨密度が高く骨質の良い人と比べると▽骨密度が高く骨質が悪い「骨質劣化型」は一・五倍▽骨密度が低く骨質が良い「低骨密度型」は三・六倍▽骨密度が低く骨質も悪い「低骨密度+骨質劣化型」は七・二倍-にもなる。

 骨質は血液や尿検査で調べる。「血中のホモシステインというアミノ酸か、血中や尿中のペントシジンという物質の濃度で調べられる」と斎藤医師。ホモシステインは悪玉の構造を増やすアミノ酸、ペントシジンは悪玉をつくっている物質だ。前出の男性もこれらの数値が正常値を上回っていた。

 検査費用は一部の疾患を除き健康保険が適用されない。ただ、現在は検査を実施する医療機関が研究費として負担している。

生活習慣病対策も必要

 骨質向上には、善玉と悪玉のバランスが大事。悪玉の構造は加齢で増えるので、増え過ぎないようにする。「悪玉を増加させる要因は老化以外に糖尿病、動脈硬化などの生活習慣病などで、これらへの対策が必要」。食品では、乳製品は善玉を増やし、納豆や緑黄色野菜は悪玉を減らす効果がある。

 骨粗しょう症治療薬のなかにも骨質を改善する薬剤がある。骨質が分かれば、薬剤の使い分けで治療効果向上が期待される。

 斎藤医師は「骨粗しょう症治療は骨量しか念頭にないため、現在は、薬剤による骨折防止効果は五割程度しかない。骨質改善にも着目することで、患者本人に合わせた治療が可能になる」と話す。

 骨質検査は、国立長寿医療センター(愛知県大府市)、東京女子医大病院産婦人科(東京都)、順天堂大医学部付属順天堂医院整形外科(同)などで受けることができる。