過活動膀胱

トイレの回数増える過活動膀胱 薬や生活指導で改善

トイレに急に行きたくなり我慢できなくなる。
時には漏らしてしまう。
こんな場合は膀胱の尿をためる機能が低下して起こる「過活動膀胱」の可能性がある。
40歳以上の日本人の約1割がこうした症状でいやな思いをしているとみられる。
特に肌寒い冬はトイレに行く回数も増える。
薬や体操で症状改善が期待できるので、年のせいだとあきらめないようにしたい。

膀胱は300~400ミリリットルの尿をためることができる。
通常は150ミリリットルを超えるころから尿意を覚えるが、過活動膀胱の患者では100~200ミリで我慢できないと感じる「尿意切迫感」が表れる。
「突然尿意をもよおすので尿漏れを予防しようがない」と京都大学の吉村耕治准教授はこの病気の悩みを説明する。

外出控えがちに
急な尿意に何度も襲われ、トイレに駆け込む回数が増える。
「漏らしたらどうしよう」という不安感が大きくなり、外出を控えがちになることも少なくない。
就寝中にトイレに行く回数が増えると、睡眠不足に陥る場合もある。
命には直接かかわらないが生活の質の著しい低下を招く。

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この病気は中高年に多く、加齢が影響していると考えられるが原因は完全に解明されていない。
最近の研究では生活習慣病との関連も分かってきた。
京大は2008~09年に滋賀県長浜市の約9500人の住民を対象に疫学調査を実施。
男性では健常者に比べ、糖尿病の人は1.7倍、高血圧だと1.9倍、過活動膀胱になるリスクが高かった。
女性ではメタボリック症候群だとリスクは約2倍になった。

患者にみられる主な異常は次の2つだ。
一つは膀胱の「排尿筋」の異常だ。
尿は排尿筋が収縮し、尿道括約筋がゆるんで膀胱から排出される。
患者ではこの仕組みに異変が起こり、排尿筋がけいれんするようになる。
この結果、収縮してはいけないときに縮んでしまうという。
一方、膀胱の収縮を命令する神経系統のメカニズムが何らかの理由でおかしくなってしまうこともある。

過活動膀胱の症状改善には薬でこうした収縮を抑える治療が一般的。
「抗コリン薬」は排尿筋の緊張を和らげ症状を改善する。
ただ、この薬には尿を出そうとする力が弱くなる側面もある。
男性患者にはやっかいな問題を引き起こすこともある。男性は高齢になると前立腺が肥大し、尿が出にくくなりがち。
「過活動膀胱と前立腺肥大症との治療の兼ね合いが出てくる」と京大の吉村准教授は指摘する。


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昨年9月には新薬も出た。
アステラス製薬が発売した「ミラベグロン」(一般名)。排尿筋にある特定の受容体たんぱく質を刺激し膀胱をリラックスさせ、尿をためる機能を高める。
排尿筋の正常な収縮機能には影響しないため、尿が出にくくなるといった副作用は軽減が期待できる。
ただ、ラットを使った動物実験では生殖機能への影響が認められた。
このため、これから子供を持とうと考えている患者には「投与はできる限り避ける」という警告がこの薬の添付文書には記されている。

毎食後に体操
国の保険は適用されないがボツリヌス毒素を使った治療も東京女子医科大学付属青山病院(東京・港)など一部で実施している。
これは、まぶたが下がって視野が狭くなる「眼瞼けいれん」などの治療に使う毒素を膀胱に数十カ所注射する。
効果が半年から8カ月ほど続くという。
同病院では1回の治療費負担が15万7500円だ。
「高齢者になると複数の薬を飲む人が増え、飲み合わせの問題が出てくる。
この治療はそうしたややこしさから解放される利点がある。

薬以外の方法で症状をある程度改善できるケースもある。
京大の吉村准教授は投薬治療の前に「膀胱訓練」という生活指導をする。
尿意をもよおしてから10~15分、トイレに行くのを我慢する方法だ。
骨盤底筋体操を勧める専門医もいる。
お尻の穴をおなかの中に引き込むように、締めたり緩めたりする動作を繰り返す。
毎食後などに10回ずつやるのが一例だ。
座るか、寝転んだ姿勢でやると意識しやすい。
体操を実施した女性で効果を確認したデータもあるという。

おしっこのことは恥ずかしいとためらわずに、症状が表れたら専門家を訪ねてみるのがよいだろう。
                            (新井重徳)
出典 日経新聞・夕刊 2012.1.27
版権 日経新聞


<自遊時間>
各県のGDPを世界の地域に当てはめるとこうなる / 島根は「エチオピア」徳島は「ケニア
この各県別の総生産を、世界の国・地域に置き換えたユニークな地図が話題だ。それを見ると、たとえば島根県エチオピアと同レベル、徳島はケニアといった具合に、1県で1国のGDP分の生産性を持っていることがうかがえるのである。

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