カロリー制限と寿命

少し体重多めが長生き

2世紀ごろ、ローマの皇帝の侍医で、医師としても多くの著作を残したガレヌスは「摂食を制限すると長生きできる」と述べた。
1914年にロックフェラー大学のウイルス学者、ペイトン・ラウス(発がん性ウイルスの発見で1966年にノーベル医学生理学賞受賞)は「食べさせないようにした動物ではがんの発生が遅れ、長生きする」と報告した。

その後多くの研究者がカロリー制限は寿命を延ばすという研究結果を報告している。

マウスのカロリー制限と寿命
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は米国ウィスコンシン大学のワインドラック教授のデータだ。
マウスを食事制限なしで育てると、28週くらいの寿命だ。
離乳後、カロリーを25%減らすと平均の寿命は36週になる。さらに離乳後に55%に減らしタンパク質も減らすと、寿命は47週になる。

こうしたデータはマウスだけでなく、ショウジョウバエ、線虫など、さまざまな動物でも得られる。
面白いのはハエを摂食制限すると寿命は延びるが、その時に死亡していくハエの数を累計していくと、死んでいくハエの数が次第に多くなる曲線が得られる。
一方、制限のない時の、死亡したハエの累計の線も得られ、両者は平行して増加していく。
この途中で摂食制限をやめると、死亡数の曲線が制限されていない時の曲線の方に急に近づくのだ。

腫瘍についてだが、カロリー制限しないマウスでは58・3%に腫瘍が見られたのに、制限したマウスは12%だった。
明らかに腫瘍を防ぐ効果がありそうだ。

これらは下等動物で得られた結果だ。
では、霊長類であるサルやヒトではどうだろうか。
サルの場合は残念ながら、摂食制限に寿命を延ばす効果があるかどうかは分かっていない。

動物は自然に生きている。
けがもするし、微生物に感染もする。
こうした場合、エネルギーの補給がないと、抵抗力が得られない。そのため飢餓状態になった動物は死亡しやすい。

厚労省の研究班などが何度調べても、少し体重が多めの人がもっとも健康で、長生きという結果が得られている。
多くの研究は、体格指数(BMI=体重kg割る身長mの2乗)が25か26くらいがもっとも健康に良いとしている。

動物実験で得られた研究結果が、人にそのまま当てはまらないという例の1つだろう。
(浜松医科大名誉教授・高田明和)

出典 中日新聞・朝刊 2012.1.26
版権 中日新聞社


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