高齢者の虚弱・老化症状を防ぐ

高齢になると筋力が衰え、短い距離を移動するにも一苦労します。
老化現象だと高齢者の多くが半ばあきらめていたこの症状を、日本老年医学会が「フレイル」と名称を統一し、予防の必要性を指摘する提言を5月にまとめました。
専門家は適切な運動と食事を心がければ「要介護状態に陥るのを防げる可能性がある」と対策を呼びかけています。


高齢者の虚弱・老化症状を防げ 「フレイル」命名で啓発

■フレイルとは英語で虚弱や老衰などの意味を指す「Frailty」をもとにした概念で、日本老年医学会が考案した。

■まだ医療現場では浸透しておらず、同医学会の声明では、高齢者の医療介護に携わる専門職に対して「食事や運動によるフレイルの1次、2次予防の重要性を認識すべきだ」と訴えた。

■統一名称を用いることで、予防の大切さを分かりやすく訴え、認知度を高めようという意図だ。
                                 
要介護の予備軍
■フレイルは高齢者が介護が必要になる手前の段階。
歩く速度が落ちたり、体重ががくんと減ったりして日常生活を送るのに必要な体力が衰えてしまう。
何の対策もとらずにいると、75歳以上の後期高齢者の多くがこの段階を経て、要介護状態に徐々に近づく。
 
■フレイルに似た概念では、年齢とともに筋力が落ちる「サルコペニア」や、運動機能が低下した状態になる「ロコモティブシンドローム」(運
動器症候群、ロコモ)も提唱されている。
ロコモは、内臓に脂肪が蓄積して生活習慣病の危険が高まるメタポリック
シンドローム(メタボ)に続き、世間でも徐々に知られるようになってきた。
 
■これに対し、フレイルは高齢者に対象を絞り、筋肉以外にも様々な体調不良が表れる」。
うつ症状や認知症など精神的な問題につながる恐れもあるという。
 
介護保険で要支援と認定された人と合わせれば国内で約450万人がフレイルの症状にあると推定されるという。
これらを要介護予備軍とすると、国の医療費と介護給付費の増加に直結する。
フレイルの予防や、フレイルの状態になるのをできるだけ遅らせることが
重要になる。

■国内ではまだフレイルの正式な評価法はない。
米国老年医学会の基準では
①体重減少
②歩行速度の低下
③握力の低下
④疲れやすい
⑤身体の活動の低下
これらの5項目のうち、3つが当てはまるとフレイルとなる。
(日本では、記憶力の低下なども考慮した評価法を検討中)

■この評価法は身体的な変化をみたものである。
しかし、これだけではなく記憶力の低下や社会的な環境などにも着目する必要がある。

■高齢者では、配偶者が先に亡くなった後の独居や貧困などによる生活環
境の変化が、心身ともに影響を及ぼす恐れがあるからだ。
こうした考えをもとに日本独自の評価法が策定される予定となっている。

1日5000歩目安に 
■さて、どうすればフレイルの予防につながるのか。
そのためには適度な運動と食生活の組み合わせが欠かせない。

■高齢者では、ウオーキングなど無理のない範囲で運動するのが効果的となる。

生活習慣病うつ病などの予防には1日5000歩を歩き、そのうち7分30秒は早歩きすると効果がある。
フレイル予防もこの数字を目安に考えるとよい。
 
■食生活への配慮も重要となる。
糖尿病などの持病がある人は悪化しないよう気をつけつつ、肉や魚、乳製品、大豆などの良質なたんばく質を含む食品を75歳以上になっても積極的
にとるよう心がけたい。
特に、体重が減った人は高たんばく食品を中心にしっかけ栄養をとりたい。
ビタミンやミネラルの摂取も効果的。


フレイルの主な予防法
ウオーキングなど適度な有酸素運動をする
たんぱく質やどタミンなどを豊富に含む食事をとる
。トレーナーの指導の下で適度な筋力トレーニングをする
感染症にかからないようにする
。手術後は早めにリハビリをする
。6種類以上の薬を服用する人は医師と相談する


出典 日経新聞・朝刊 2014.6.22
版権 日経新聞