多発性筋炎・皮膚筋炎

多発性筋炎や皮膚筋炎 ステロイドで症状緩和

全身に倦怠感・・・つらい日常生活 感染症には注意
肩や太ももなどの筋肉に炎症が起こる多発性筋炎や皮膚筋炎は、筋力が弱って日常生活に支障をきたす。
炎症を抑える薬で症状が治まっても薬を飲み続ける必要がある。
厚生労働省の難病研究班が立ち上がり、病気の実態調査や新たな治療法の開発が始まっている。

多発性筋炎や皮膚筋炎は「膠原病」と呼ぶ病気の一種で、関節リウマチや全身性エリテマトーデスなどの仲間だ。
はっきりした原因はわかっていないが、ウイルスや細菌などと戦う免疫が自分の体を攻撃してしまう自己免疫疾患と考えられている。
慢性化するため症状を抑える薬の投与を続けなければならない。
 
多発性筋炎は筋肉に強い炎症が起こる。
筋炎とともに、まぶたや指の関節部分の皮膚が赤くなる特有の皮膚症状を併発すれば皮膚筋炎となる。
遺伝的ななりやすさに加えて、感染症や日光、たばこなどの環境要因が加わって発症したり症状がひどくなったりするとみられている。
筋力の衰えのほか筋肉や関節の痛み、発熱などが主な症状だ。

患者は中年の女性が多く、男性よりも発症しやすい。
他の膠原病を併発する例もある。
患者数は全国で推計約2万人と、さほど多くない。
電車で立っているのがつらい、疲れやすいといった症状から異変に気づく場合がある。

全身のだるさなどから肝炎などと誤診されたり半年以上診断がつかないまま病院を転々としたりする例もある。
現在は血液で病気特有のたんぱく質を調べる検査法が確立し、診断にそれほど時間がかからなくなったという。
 
厚労省の難病研究班では、患者数や治療内容などの調査をもとに14年に診断基準を改訂し、15年末には治療指針を作った。新たな診断技術や治療法の研究も進めている。
 
患者には口の周りやのどの筋肉が衰えて飲み込みにくさを感じたり、うまく話せない違和感を覚えたりする人もいる。
まぶたや手の甲などの皮膚が赤くなる症状が出るときもある。
 
ステロイド剤で症状緩和 感染症には注意
治療は炎症や免疫を抑えるステロイド剤が基本だ。
数カ月の入院が必要なケースもあるが、8割の患者は炎症が治まる。
ステロイド剤は筋力低下や血圧上昇といった副作用が懸念される。
このため退院までに徐々にステロイド剤を減らす。
ステロイド剤が効きにくい患者は免疫抑制剤を合わせて飲むこともある。
 
退院後の生活は症状のぶり返しや感染症に注意しながら、無理せず過ごすことが大切だ。
ステロイド剤と免疫抑制剤で多くの場合は筋炎の症状を抑え込めるようになった。
ただ少し無理をすると体のだるさや筋肉痛、関節痛などに苦しめられる。
疲れて頻繁に横になる人も多い。
免疫力の低下で感染症にかかるのではないか、いずれ症状をぶり返すのではないかと心配しすぎてしまう人もいるという。
出歩くと疲れやすいので、途中で一休みできるように時間に余裕をもって行動する。
家事や仕事も周囲の人に助けてもらう。
また日光を浴びると皮膚症状が現れることがあるので避ける。
薬の作用で免疫力が低下し、風邪やインフルエンザなどにもかかりやすくなるので、マスクを着用するなどして感染予防にも心がける。

多発性筋炎や皮膚筋炎は命を落とすことは少ないが、重篤な病気を合併するケースがあり注意が必要だ。
代表的な合併症は間質性肺炎という特殊な肺炎で、患者の約半数にみられる。
また皮膚筋炎とがんを併発するときもある。
 
患者の多くは筋力低下や筋肉痛、倦怠感のためにそれまでの日常生活を送れなくなるが、外見は健康に見えるので周囲からの配慮が得られずつらいと訴える声も多い。
 
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衰えた筋力を回復 アミノ酸製剤を服用、リハビリも効果的
多発性筋炎や皮膚筋炎は筋肉に起こる炎症で筋力が低下する。
炎症を抑えるステロイド剤の副作用による筋力低下も深刻だ。
厚生労働省の研究班の調査では、患者の約半数で低下した筋力が回復しない問題が明らかになった。
東京医科歯科大学を中心に全国の病院で、初めて発症した患者にアミノ酸製剤を飲んでもらって筋力回復を目指す医師主導の臨床試験(治験)を実施中だ。
 
治験に使うアミノ酸製剤は既に肝硬変の治療のために薬剤として実用化している。
ある研究では、多発性筋炎のモデルマウスにアミノ酸製剤を与えると筋力回復効果があった。
 
有効成分はスポーツ選手向けに販売する食品にも含まれているが含有量が少ない。
 
治験ではアミノ酸製剤そのものを飲む。
「大量に服用しても副作用はほとんどないと思われる」と専門家は説明する。
 
ステロイド剤を長期間服用すると、筋力が回復しにくい。
治験はステロイドの治療を始める前の患者に限った。
筋力の回復にはリハビリテーションも効果的だ。

<日常生活の負担を滅らす工夫>
●疲れやすくなるので時間に余裕をもって行動する
●マスクなどで感染予防を心がける
●体調がよくても、疲れを感じたら安静にする
●家事や仕事で無理をしない
患者会などを通じて病気の理解を深める

 
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出典
日経新聞・朝刊 2016.4.17