蚊が運ぶ病気を防ぐ

蚊が運ぶ病気を防ごう  汗ふき取り虫よけ使用

蚊は、熱帯や亜熱帯地域を中心とする多くの国で、最も多くの感染症を媒介するやっかいな生き物だ。
そうした感染症が流行している国に旅行に行くときには、適切な蚊対策が必要なのはもちろん、万一、病気が日本に入ってきたとき、感染症を広げないためにも、蚊に対する正しい知識が必要だ。
 
ブラジルでは、蚊が媒介するウイルス感染症のジカ熱が流行、一時騒然となった。
ジカ熱は中南米や東南アジアなどで流行している。
症状はそれほど深刻ではなく、感染者の8割は症状が出ないまま治るという。

ジカ熱を媒介
ただ、知らないうちに多くの妊婦が感染。
ウイルスが原因と考えられる、脳がきちんと育たない小頭症の子供の出産例が多発した。

ブラジルは今夏オリンピックの開催国でもあり、いつウイルスが日本に持ち込まれてもおかしくない。
 
2014年には都内の公園で、日本では約70年ぶりとなるデング熱の国内感染が確認された。
媒介したのは、ヒトスジシマカというヤブ蚊の仲間だ。
東南アジアなどデング熱の流行地で感染した人の血を吸い、さらに同じ蚊が別の人も吸血したことで感染を広げたと考えられている。
 
感染症の予防のためには、蚊の生態をよく知り、渡航地域の状況に合った対策をすることが大切だ。
蚊の仲間は日本だけでも約200種類いるが、そのうち病気を媒介するのは、ヒトスジシマカアカイエカ、ハマダラカ、コガタアカイエカ
海外ではその近縁種。
 
これらの蚊の生態は大きく2つに分けることができる。
デング熱やジカ熱などを媒介するヒトスジシマカとウエストナイル熱を媒介するアカイエカは、鉢植えの水受け、古タイヤの中など、小さな水たまりで発生する。
そのため都市の公園や住宅地でもよくみられ、いわば「都会の蚊」だ。
 
対してマラリアを媒介するハマダラカ、日本脳炎を媒介するコガタアカイエカは、水田、湖沼など大きな水域で発生し、家畜が飼育されている場所などを好む「田園地帯の蚊」だ。
 
また、蚊の活動時間にも違いがある。
ヒトスジシマカは、人が活動している日中から盛んに吸血する「昼の蚊」だが、アカイエカやハマダラカなどは夕方の薄暮れ時から飛び始め、家屋の中にも好んで入ってくる「夜の蚊」だ。
 
生態を考えると、デング熱やジカ熱などが流行している地域を訪れる場合、ヒトスジシマカや近縁のネッタイシマカに刺されるのを避けるため、都市部や昼間でもしっかりとした蚊対策が必要なことが分かる。
対策としては、できるだけ肌の露出を控える。
観光地を散策するときも長袖、長ズボンが望ましい。

帰国後にも注意
手や首筋など肌の露出部には虫よけ剤を塗布したい。
蚊など血を吸う虫対策としては、ディートという成分が使われるものが効果があるとされる。
ただし、6カ月未満の乳児には使用しないほか、6カ月~2歳未満の塗布は1日1回、2~12歳未満は1日1~3回と制限がある。

今年、新たにイカリジンという成分の入った商品が発売された。
小児への使用制限がなく、赤ちゃんから大人まで使える(大日本除虫菊)。
 
蚊は汗の臭いなどを感知して寄ってくるので、汗をかいたらこまめに拭き取る。
服は白っぽいものより黒っぽいものに寄っていく傾向があるので、白っぽい服を着るのもよい。
 
海外旅行から帰国した後も配慮が必要だ。
感染しているのに気づかず入国し、国内で蚊に刺されることで、病気を広げてしまうケースが今後増えると考えられる。
帰国後1週間は蚊に刺されないようにしたい。
 
身のまわりの蚊を少なくする努力も大切だ。
例えば、庭の鉢植えの水受けに水がたまっていないか、空き缶などが散乱していないか、近隣の公園に水たまりはないかなど、都会の蚊の発生源を無くしていくことが大切だ。
 
グローバル化と温暖化が進んでおり、蚊が媒介する病気を日本に持ち込まない注意が欠かせない。
一人ひとりが刺されない、広げない蚊対策を心掛けたい。

  ◇   ◇

渡航前に感染症情報を入手
蚊が媒介する病気の中でも、デング熱やジカ熱は命にかかわる場合が比較的少ない。
しかし、世界にはマラリアや黄熱病など高リスクの病気もある。
渡航前には、
厚生労働省検疫所の「海外で健康に過ごすために」というホームページ「FORTH(フォース)」
http://www.forth.go.jp
などの情報をチェックしておきたい。
 
公開情報には、各国における地域ごとの流行情報も掲載されている。
例えば、マラリアのリスクのある森林地帯などを訪れる場合、より持続時間の長い(濃度の高い)虫よけ剤や、夜間の蚊取り線香使用、さらには予防接種や薬の服用などが推奨される場合もある。

出典
日経プラスワン 2016.4.302