遺伝性のがん

遺伝性のがん 乳房、大腸… 予防や治療の選択肢広がる

がんの多くは、喫煙や飲酒、食事などの生活習慣のほか、感染症放射線などによる遺伝子異常が原因で起きるが、特定の遺伝子の変異が原因で発症しやすい体質が次の世代に引き継がれる「遺伝性のがん」もある。
親族の病気の傾向を知ることが、対策に向けた一歩につながることがある。

乳がん卵巣がん 予防切除の例も
遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)は家系内で遺伝的に引き継がれる乳がん卵巣がんで、BRCA1、BRCA2という遺伝子の変異が原因。
この変異が見つかった米女優のアンジェリーナ・ジョリーさんが2013年、がんになる前に両方の乳房を切除したと公表し、話題となった。
 
検査会社大手のファルコバイオシステムズ(京都市)によると、HBOCの遺伝子検査は国内では08年に本格的に始まり、昨年度の検査数は800件以上。
現在は全国の220以上の施設で態勢が整う。
変異があっても必ずがんになるわけではないが、今回の女性のように予防切除手術を選ぶ人もおり、卵巣は100例近く、乳房は50例以上が実施されたという。
 
家族の傾向知って対策を
遺伝性のがんはHBOCのほかにもさまざまあり、がん患者全体の1割近くとされる。
原因遺伝子の変異が両親のいずれかにあれば、基本的に子どもは性別を問わず50%の確率で受け継ぐ。
若くして発症する人が多く、がんが複数の臓器にわたったり、二つある臓器でいずれにも発症したりする傾向が共通する。
 
家族に同じがんの患者がいても、遺伝性がんとは限らない。
診断の確定には多くの場合、遺伝子検査が必要だ。検査をするかどうかは、病院で「遺伝カウンセリング」を受けて決める。

デメリットもある。
▽影響は血縁者に波及するが、知りたくない人もいる
▽本人や家族の心の負担が想像以上に大きい場合もある
▽変異がなくても、がんになることもある
などだ。

検査を受けないという判断も尊重される。
ただ、検査で変異があっても、定期的に検診を受けるなど、がんの早期発見や予防、治療の選択肢が広がることを知っておく必要がある。
 
家族性大腸腺腫症(FAP)は10代半ばから大量のポリープができ始め、60歳までに90%が大腸がんになる。
 
患者の費用負担も課題
遺伝カウンセリングは、多くの場合、臨床遺伝専門医か認定遺伝カウンセラーが対応するが、人数はそれぞれ約1300人と約180人。
年々増えてはいるが、がんの分野に精通した人材がまだ十分ではない。
都市と地方の偏りも目立つ。
 
検査や手術でかかる患者の経済的な負担も大きい。
甲状腺髄様がんの診断に使うRETなどの遺伝子検査は4月から公的医療保険が適用されているが、ほとんどの遺伝子検査は数万~数十万円かかる。
臓器の予防切除手術や、早期発見につなげる精度の高い検診も原則自費だ。
HBOCでは、患者負担の軽減につなげようと、がん研有明病院などが手術や検診の費用対効果の研究を進めている。

 
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参考
朝日新聞 ・朝刊 2016.6.29