脳内に煙状の血管広がる「もやもや病」

脳内に煙状の血管広がるもやもや病

手足マヒ・言語障害再発リスクも 生活支援へ専門外来
脳内の血液が思うように流れなくなり手足のマヒや言語障害などが出る「もやもや病」で、国内の医療機関が専門外来を開設する動きが相次いでいる。
国内の患者数が1万~2万人の難病で、病気の原因は分かっていないうえ完全な治療法はまだない。
治療を受けても日常生活の一部に支障が出たり再発したりすることもあり、一生涯にわたり患者に対する総合的な支援が欠かせないと専門家は指摘する。

もやもや病は脳内の血液が十分に流れず手足がマヒしたり言語などに障害が出たりする病気だ。
 
「内頸動脈」という太い血管が細くなり脳内の血液が足りなくなると、血液不足を補うため、太い血管から枝分かれして通常はみられない細い血管ができる。
 
脳血管の様子をMRIなどで診ると、細い血管がモヤモヤと立ち上る煙のようにみえることから「もやもや病」と呼ばれる。
1960年代後半に東北大学の鈴木二郎教授(当時)が命名したとされる。
 
細い血管が詰まって血液が不足したり出血したりする恐れがあり、脳卒中を起こす危険性が高い。
東アジア地域に患者が多く、厚生労働省の「指定難病」だ。
国内の登録患者は約1万6千人で女性が多い。
 
患者は少しずつ増えているが、発症が増加傾向にあるわけではなく、病気が知られて診断を受ける人が増えているとみられる。
家族内で同じ病気を発症する患者からは病気に関連する遺伝子が見つかったという報告もあるが、原因はまだ分かっていない。
 
自覚症状がないまま生活を続ける人もいる。
長年治療に携わる京都大学医学部の宮本享教授は「早期に発見することが大切だ」と説明する。
最近は、薬による治療だけでなく血管を新たに補うバイパス手術などを受ければ、日常生活を支障なく送れるようになるという。
 
治療を受けても再発するときがあるが、バイパス手術を受けた場合は再発する確率は低くなるとの調査もある。
 
宮本教授らは今年1月に京大病院(京都市)に「もやもや病支援センター」を発足した。
主に治療に当たる脳神経外科医に加えて、産婦人科医、精神神経科医などが協力して患者の治療に取り組む。
 
患者には子どもや若い女性、妊婦なども多い。
妊婦では出産時に過呼吸による脳内出血を起こす恐れもある。
宮本教授は「複数の専門医が連携して治療に携わることによって患者の総合的な支援ができるようになる」と強調する。
同センターでは外来の時間を設けて診察を受け付けている。
 
もやもや病では失語症や記憶力の低下などが出ることも多く、「高次脳機能障害」と呼ばれる。
関西地方に住む20代の男性は大学生時代にもやもや病を患い、考えていることが思うように伝えられなくなった。
治療を受けながら就職活動を続けている。

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治療を受けても日常生活や就職などに支障が出るケースも少なくない。
患者がどれくらい高次脳機能障害を抱えているかを調査した結果がある。
 
九州地方の患者約160人から回答を得たところ、約9割の患者はほかの人から支援を受けなくても食事や入浴などの日常生活では自立していた。
ただ全体の半数は「すぐに忘れ新しいことが覚えられない」といった記憶や「言葉が出ない、言い間違えが多い」という言語などに問題を抱えていた。
 
生活上の問題に応じたサポートやリハビリテーションが必要となる。
病気にもかかわらず周囲の理解が不十分で、学習や就職の機会を失うこともある。
 
都道府県ごとに高次脳機能障害の支援拠点があり、問題を抱えている場合には相談することも大切だ。
福岡山王病院(福岡県)も3月に「もやもや病特別外来」を設け、患者がQOL(生活の質)を保てるよう総合的な支援に力を入れる。
 
専門外来の開設が相次ぐ背景には2015年から政府による難病患者の支援制度が変わったこともある。
 
患者が安心して生活するには医療費も含めた総合的な支援が欠かせないが、患者らでつくる「もやもや病の患者と家族の会」(大阪府池田市)事務局によると、「これまで支援を受けられた患者が対象から外されたこともある」という。
制度の変更に伴って診断の目安などが見直されたためとみられる。
厚生労働省に制度の改善を求める動きもある。


まとめ
・国内の推定患者数は1万~2万人
・脳の太い血管が詰まり、通常はみられない細い血管が枝分かれして広がる
脳梗塞を起こしたり血管が破れて出血したりすることもある
・患者は東アジア地域に多い
・子どもで発症して見つかるケースも多い
・家族内の患者から病気に関連する遺伝子が見つかったという研究報告もある


主な脳機能の障害
⬛︎ すぐに忘れ新しいことが覚えられない
⬛︎ 物や人の名前を思い出せない
⬛︎ 2つのことを同時にできず混乱する
⬛︎ 言いたいことの要点をまとめられない
⬛︎ 気分の波や気分のむらがある


参考
日経新聞・朝刊 2016.5.29