高齢者の結核

高齢者の結核、早期発見を 入院長引けば認知症進む恐れも

かつては働き盛りの病気だった結核が、患者数の急減とともに、高齢者の病気に変わってきた。
専用の病床が減り、患者は遠方に入院しなくてはならなくなっている。
入院生活が長引くと、生活能力や認知力が衰えかねない。早期発見が、入院期間を短くする鍵を握る。

X線写真に影
50~60年前までは、結核の発症者は年間30万人を超え、国民病と呼ばれていた。
だが、検診などの普及で患者は激減。厚生労働省によると2012年の発症者は約2万1千人だった。
 
一方で、高齢者の割合は増えている。
約50年前には1割だった70歳以上の患者が、12年には半数を超えている。
高齢者の結核の場合、加齢などで免疫力が低下して新規感染しやすくなるだけでなく、若い頃にすでに体に入り込んでいた菌が、活動を再開して発症する危険も高い。
 
たんに菌が混じっている結核患者は、せきなどで周囲に感染を広げる可能性が高く、隔離入院が必要だ。
人との接触が制限され、運動量も減りがちな入院生活は、認知症の進行や足腰の衰えを招きやすい。
入院中に認知症になってしまう高齢患者は、まれではないという。
リスクが高い入院生活を出来るだけ短くするには、早期発見が重要だ。
 
ガイドラインに沿った標準治療を受け、たんから菌が消えたことが確認されたら退院できる。
早く治療を始めれば菌も早く消える。

体重の減少も
結核に早く気付くには、どうしたらよいのか。
高齢者の結核は、せきやたんなどの症状がはっきり出ないことが多い。
加えて、せき、たんが出ても、過去に患った気管支炎や長い喫煙歴などですでに肺が傷んでいる人は「いつものこと」と見過ごしがちだ。
 
ちょっとでもせきやたんが増えたようなら「結核かも」と疑って、まずはかかりつけ医に相談したい。
 
結核の兆しかもしれない変化に気付くには、日々の健康観察が欠かせない。
 
体重、体温を毎日測るのもよい。
高齢者施設では、体重の減少に気付いた職員によって、入居者の結核が見つかることも結構多い。
自覚症状がなくても年に一度は胸のX線撮影をとりたい。
 
かかりつけ医で定期的に胸のX線写真を撮っていたことが役に立つ場合も多い。

専門病床、30分の1に 遠方からの入退院困難
患者が減ったため、結核病床も減っている。
1960年代前半は20万床を上回っていた病床は、2013年は約6500床と30分の1になり、集約化も進む。高齢化と集約化が相まって、新たな問題が起きている。
 
10万人あたりの患者数(罹患率)が10人を下回った某県では現在、入院できる病院は県内で1カ所しかないという。
その病院では、100キロも離れた街からくる高齢の患者さんもいる。これでは、家族が見舞いどころか、緊急時に駆けつけることすら難しい。
 
退院も難しくなることが多い。
患者の住む街とセンターが遠すぎて医師同士が顔なじみでなく、退院後の外来診察や結核薬の処方を引き継ぐ地元の医師がなかなか探せないからだ。
入院が長引いて心身が衰え、ますます帰りにくくなる。
そんな悪循環が起きている。

厚労省の調査では、13年4月時点で結核病床を持つ病院が1カ所しかない都道府県は山形、奈良、山口、佐賀、大分の5県。2カ所のみは7県ある。
 
専門家は「専門医の退職や休床などで実質的に1、2カ所しかない地域は、ほかにもある」と話す。


結核の標準治療 
抗菌薬4剤を2カ月飲み、その後の4カ月は2剤に減らして続けるという計6カ月の治療が一般的だ。
高齢者は肝機能障害などが出る恐れがあるため、最初の2カ月は3剤で始め、その後は2剤を7カ月続ける計9カ月のコースを選択することが多い。
途中で菌が消えても、決められた期間は薬を飲み続けなければならない。

参考
朝日新聞・朝刊 2014.7.15