百日ぜき、乳児は重症化注意

百日ぜき、乳児は重症化注意 家族はワクチン追加接種を

2~3カ月間せきが続く「百日ぜき」。
昨年から始まった患者の全数報告の結果、小中学生に患者が多く、大人にも感染者がいることが明らかになった。
乳児はかかると重症化しやすい。
兄や姉、親など周りの人がワクチンを接種し、予防することが大切だ。

2016年4月、宮崎市の原綾子さん(37)は、当時生後1カ月だった長女環寧(たまね)ちゃん(3)の具合が気になった。熱はないが、数日前から母乳をあまり飲まず、ぐったりしていた。最初は、風邪薬のせいだろうか、母乳の飲ませすぎだろうかと考えたが「やっぱりおかしい」と思った。
 同市の夜間急病センターを受診。体温は35度台と低いのに、心拍数は180台と高かった。医師からすぐに隣接する宮崎県立宮崎病院に行くように言われた。

環寧ちゃんを抱きかかえて小児科へ。
着いた時には、自発呼吸もなく、一時、心停止状態になっていた。すぐに人工呼吸を開始。
検査の結果、後日、百日ぜきと診断された。
 
百日ぜきは、菌を含んだせきやくしゃみなどでうつる。
1~2週間の潜伏期間を経て、せきが出始める。
さらに1~2週間後、発作性のせきに変わる。
短いせきが連続的に続いた後、息を吸うときに狭くなった声帯部分で笛の音のような「ヒュー」という音が鳴る。
これを繰り返す。
息をつめてせきをするため、肋骨が折れたり、眼球が内出血したりすることもある。
一方、生後6ヵ月未満の乳児は百日ぜきに特徴的なせきがなく、気付きにくいうえ、重症化しやすい。
息を止めるような無呼吸発作から、血液中の酸素が不足して皮膚が青紫色になり、けいれん、呼吸停止に至り、亡くなる恐れもある。
 
環寧ちゃんは人工呼吸器で呼吸を管理し、抗生物質などで回復。
20日後、後遺症もなく退院した。
「百日ぜきは知っていたが、まさかこんなに症状が重くなるとは思わなかった」と綾子さんは振り返る。
 
ワクチンの定期接種は生後3ヵ月以降だが、環寧ちゃんのように定期接種の前にかかることもある。
主治医の山村佳子医師(37)は「乳児の感染を防ぐには家族や医療従事者など周りの人がワクチン接種で予防することが大切」と話す。
周りにせきが続く人がいる場合は、その情報も医師に伝えると、早期診断の手がかりになるという。

ワクチン 家族は追加接種を
昨年の国内の累計患者1万1190人(暫定値)のうち、生後6ヵ月未満の乳児は530人。
兄弟姉妹(42%)や両親(31%)からの感染が多かった。
詳細が確認できた391人をみると約7割が入院していた。

百日ぜきのワクチンは計4回定期接種する。
標準では生後3~12カ月に3回、6ヵ月以上間隔をおいてもう1回受ける。
しかし、効果は4~12年で弱まり、定期接種を受けていても感染
することがある。
 
ほかの先進国でも、ワクチンの効果が切れた青年、成人から未接種の乳児に感染し、重症化することが問題になった。
対策として、母から子に胎盤を介して抗体が移り、生まれながら免
疫ができるように、アメリカやイギリス、韓国などは妊婦にワクチンを打つ。
 
日本でも感染経路を明らかにして、予防に役立てようと、昨年、患者報告の仕組みが変わった。
全国約3千ヵ所の小児科からのみ報告を受けてきたのを、すべ
ての医療機関に報告を義務づけた。
その結果、定期接種をすべて受けていても、30~40代の子育て世代に一定数の患者がいることが分かった。
小中学生も予想以上に多かった。
 
日本小児科学会は昨年から、定期接種以外に就学前と11~12歳に百日ぜきのワクチンを含んだ混合ワクチンの接種を勧めている。
全額自費だが受診料を含め4千~5千円程度という。
同学会予防接種・感染症対策委員会の岡田賢司委員長は「赤ちゃんの兄や姉が小中学生の場合も多い。定期接種以外の追加接種も受けてほしい。赤ちゃんがいる家庭の大人も検討すべきだ」と話す。 

参考・引用一部改変
朝日新聞・朝刊 2019.5.8


参考
百日咳の検査診断(ドクター用)
https://www.niid.go.jp/niid/ja/allarticles/surveillance/2404-iasr/related-articles/related-articles-444/7081-444r06.html
・百日咳の検査診断には患者病日に合わせた適用時期があり、正確な診断にはこれら検査法の使い分けが重要となる。
・世界的に抗百日咳毒素抗体(抗PT IgG)が測定されている。
抗PT IgGを用いた血清診断では患者のワクチン歴を考慮する必要があり、世界保健機関(WHO)では免疫系が十分に発達していない乳児および百日せきワクチン接種後1年未満の患者には適用できないとしている。

百日咳抗体測定キット「ノバグノスト 百日咳/IgM」「ノバグノスト 百日咳/IgA」(ドクター用)
https://www.siemens-healthineers.com/jp/press-room/press-releases/pr-20161021-novagnost.html