黄色靭帯骨化症

手足のしびれや歩行困難 背骨つなぐ靭帯「骨化」が原因?

背骨をつなぐ靱帯が骨のように硬くなると、中枢神経の脊髄を圧迫する。
手足などにしびれが出て、やがて歩きにくくなる。
「黄色靱帯骨化症」もその一種だ。
手術である程度の改善が見込めるが、異変を感じたら早めに対処したい。

脊髄は脳と体の各部分との間の情報の伝達経路で、神経の束でできている。
背骨の真ん中にある空間に保護されるようにして存在している。
縦に並ぶ骨は靱帯で補強されており、背骨の前側の椎体と呼ぶ部分には「後縦靱帯」が、後ろ側の椎弓には「黄色靱帯」が存在し、適度な骨の動きと安定性をもたらしている。
 
しかし何らかの原因で、これらの靱帯が分厚くなり骨のように硬くなってしまうことがある。
骨化という現象で、脊髄が圧迫される。

発症の仕組み不明
靱帯の骨化はレントゲン写真を見ただけでは見つけにくい。
足のしびれや歩きにくいといった症状は脊柱管狭窄症に似ており、専門の医師でないと見分けがつきにくいという。
CTや磁気共鳴画像装置(MRI)を使い、靱帯が骨化し脊髄を圧迫する様子を捉えられれば、診断がつきやすい。
 
後縦靱帯と黄色靱帯に起こる骨化症は、ともに国の難病に指定されている。
手術費用などで支援を受けた患者は2012年度で、後縦靱帯が約3万人、黄色靱帯が約2千人だった。
 
靱帯骨化症ではしびれやつっぱり感、痛みが出て、歩行困難などにつながる。
例えば首に近い場所で起こると、腕のしびれが現れ、箸がうまく使えなくなったり、ボタン掛けができなくなったりする。
 
背中や腰で起こると、下半身に症状が広がるケースが多い。
進行すると力が入らなくなって歩けなくなるほか、頻尿などの排尿障害などが起こる場合もある。
このほか、まれに食道を圧迫して、飲み込みにくさなどを感じる「前縦靱帯骨化症」もある。
 
これらの病気の発症の仕組みはよくわかっていない。
厚生労働省の研究班が、別の検査で撮った300人分のCT画像を調べたところ、3割以上から黄色靱帯の骨化が見つかった。
ただ、骨化が見つかった人が必ずしびれなどの症状を訴えるわけではないという。

家族内の発症が多いため遺伝子の関連が疑われている。
研究班は患者約1000人のゲノム(全遺伝情報)を解析し、首にできる後縦靱帯骨化症の原因となる遺伝子候補を6個見つけた。
今後、発症との関係を本格的に調べる。
 
また、患部での力のかかり具合やホルモンなどが関連しているとの見方もある。
プロ野球では20~30代の選手が発症しており、体を酷使することが発症に関わっている可能性もある。
糖尿病との関連も指摘されている。

激しい動きはNG
骨化は数年~10年ほどかけてゆっくり進む。
神経は圧迫されるが、環境変化に順応しようとするため、しばらくは症状が出てこない。
神経がぎりぎりまで順応した後、限界を超えて症状が出始め、一気に悪くなる。
しびれが出るのは50代以上が多く、症状を訴えてから1~2年で歩けなくなるまでに進行する人も多い。
 
病気が判明したら激しい動きなどはしないで静かに過ごすのが基本だ。
転倒したり尻もちをついたりした際、骨化した靱帯によって脊髄が傷つき、症状が一気に悪化することもあるからだ。
この場合は治療しても回復しにくい。
 
発症を予防する手立てや進行を遅らせる薬などは今のところない。
このため治療は骨化した靱帯を手術で削り、神経の通り道を広げる。
入院期間は通常、半月~1カ月ほどだ。神経は回復しにくいため、症状が軽いうちに手術をするのが望ましい。
進行した後では手術の効果も限られ、つえをつかなくても歩ける程度まで回復するものの、しびれが残る例が多いという。
 
執刀するのは整形外科や脳外科の医師だ。
受診する病院を選ぶ際は日本脊椎脊髄病学会や日本脊髄外科学会のホームページなどが参考になる。
 
手術をする場合でも、歩行に支障を来さないよう、無理のない範囲で体を動かすことが大切だ。
ほとんど動かさずにいると、足の筋肉などが衰え、リハビリに時間がかかる。
レーニング法は、日常生活で転倒しやすくなるロコモティブシンドローム(運動器症候群)を予防するための「ロコトレ」などが参考になる。
日本整形外科学会などが公開している。
ただし、片足立ちなど不安定な姿勢をとるトレーニングは避けた方がよいという。

 
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参考
日経新聞・夕刊 2014.8.29