免疫活用、がん細胞攻撃

免疫活用、がん細胞攻撃 慶大や京大が治療法研

さまざまな免疫の仕組みを活用し、がん細胞を攻撃する治療法の研究が進んでいる。
慶応義塾大学などはがん細胞が免疫の働きを抑える機構を解除する技術を開発し、腫瘍をたたく効果を動物実験で確認した。
京都大学は免疫反応の司令塔役である「ヘルパーT細胞」の働きを示す細胞をiPS細胞から作る技術を開発した。
いずれも基礎研究だが、多様な働きを持つ免疫システムにのっとる形で効果的にがんをたたけると期待される。
 
研究成果は8日から名古屋市で始まる日本癌学会で発表する。
がん免疫療法は体内でよそモノを排除しようとする免疫の仕組みを利用し、がん細胞を攻撃する。
ただ、がん細胞も免疫を抑える機能を持っており、治療効果をどう高めるかが課題の一つだ。
 
慶大とファーマフーズ京都市)の研究チームは、がん細胞が免疫の働きを抑える仕組みを解除する手法を見つけた。
がん細胞が放出し、免疫細胞の働きを抑える「FSTL1」というたんぱく質の機能を防ぐ抗体を使った。免疫細胞の働きを高めてがん細胞を攻撃する。
 
実験で、がん細胞を皮下に移植したマウス5匹に投与したところ、2匹でがん細胞が消えた。がんが骨へ転移するのを防ぐ効果もあった。
 
FSTL1は、制御性T細胞などの免疫にかかわるさまざまな細胞を介して攻撃を受けないようにする働きがある。
研究チームは「がんの転移などを防ぐ薬になる可能性がある」と期待する。
ファーマフーズはヒト細胞や動物で安全性を確認する試験を近く始める計画。
製薬企業と協力して実用化を目指す。
 
がん細胞が免疫の働きにブレーキをかける機能を解除し腫瘍をたたく薬は「免疫チェックポイント阻害剤」と呼ばれ、近年注目されている。
このタイプの薬では、小野薬品工業悪性黒色腫(メラノーマ)向けの薬を昨秋に発売した。
京大の本庶佑名誉教授らが発見した、免疫細胞の表面にあるたんぱく質に「PD―1」が、がん細胞とくっつくのを妨げる。
 
京大iPS細胞研究所の金子新准教授らは、健康な人の血液細胞からさまざまな細胞に育つiPS細胞を作製。
さらにリンパ球の一種であるヘルパーT細胞の働きを示す細胞を作った。
 
この細胞は別の免疫細胞を介して、がんをたたくキラーT細胞の攻撃力を高めたり、細胞を長寿命化したりできる。
試験管の実験で、血液のがんである白血病細胞を攻撃する能力が高いキラーT細胞を、通常の数倍増やすことができた。
 
体内にもともとあるキラーT細胞は、がん細胞によって無力化されやすい。
無限に増やせるiPS細胞を使うため、免疫細胞を大量に作り供給しやすい。
キラーT細胞を補充する手法やがんワクチン療法などと併用すれば、がんへの攻撃力が高まると見込む。
研究チームは今後、細胞の性質を詳しく解析しマウスで治療効果を確かめ、臨床研究につなげたい考えだ。
 
iPS細胞から免疫細胞を作る試みは他でも進んでいる。
理化学研究所などは自らがんを攻撃するとともにキラーT細胞などを活性化するNKT細胞を作製。
もともと体内にあるNKT細胞と同等以上にがんに対する攻撃力を持つと確認できた。
3~4年後に鼻やのどのがんが再発し、治療が難しい患者を対象に臨床研究を目指す。
 
熊本大学の千住覚准教授らは免疫細胞のマクロファージを大量に作る技術を開発した。
iPS細胞に2種類の遺伝子を導入して作った。
マクロファージはがん細胞を攻撃するほか、別の遺伝子も追加し抗がん物質を分泌する機能も持たせた。
2017年度に医師主導の臨床試験(治験)を実施する計画だ。

阪大特別教授 坂口志文氏「免疫療法を標準治療に」
がん細胞が免疫にブレーキをかける仕組みを標的にした研究で注目されている「制御性T細胞」は坂口志文・大阪大学特別教授が発見した。
がんの盾として働いていることが分かっている。
ノーベル生理学・医学賞の有力候補とされる同特別教授に、がん免疫療法の今後について聞いた。

――免疫療法は以前からありますが、効果がよく分からないという指摘もありました。
「がん治療の基本である手術、抗がん剤放射線照射に並ぶ標準治療の一つになり得る。免疫の仕組みに基づいて、制御性T細胞を減らすとともに、がんワクチン療法なども組み合わせれば、がんの3割程度は将来、免疫療法だけで治るようになるかもしれない」

――現在の課題は何ですか。
「副作用の問題だ。米国で開発された別の薬でも当初、(免疫が暴走する)自己免疫疾患などの副作用が出た。ただその後はステロイド剤の投与など対処法ができた」

「技術のブレークスルーも必要だ。一般に抗体医薬は高価で医療財政の負担も大きい。経口投与でき安価な分子などを開発しないと、広く普及させるのは難しいだろう」

 ――日本の競争力は。
「日本は決してリードしてない。がん分野は欧米の製薬大手が、市場を押さえてきた。日本企業もリスクを取る必要があるが、全世界で治験をするには多額の資金も必要になる」

 
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参考・引用
日経新聞・朝刊 2015.10.5