人工股関節手術にナビ活用

人工股関節手術にナビ活用 カメラで最適な位置把握

股関節の軟骨がすり減って痛みなどが出る変形性股関節症は、病気が進むと手術で人工股関節に置き換える。
近年、最適な位置に人工股関節を入れる「ナビゲーション手術」が広がっている。
材料の改良も進み、若い患者でも手術を受ける人が増えている。

「脱臼のリスク減」
変形性股関節症に悩んできた主婦のAさん(63)は昨年6月、大阪大病院で両足の付け根を人工股関節に置き換える手術を受けた。
 
手術をせずに治したいと長く考えてきた。
だが同大の教授(整形外科)から「ナビゲーションを使ってきちんとした位置に入れます」と説明を受け、「受けてみよう」と決めた。
 
「足を引きずるような歩き方だったが、今は普通に生活ができる。手術に満足している」と語る。
 
変形性股関節症は、股関節の軟骨がすり減って足の付け根や太ももに痛みが出て、関節の動きが悪くなったり、足を引きずったりするようになる。
40~50代で発症することが多く、ゆっくりと進行する。
女性に多く、患者は国内に推定120万~420万人。
 
股関節は大腿骨の先の球状の骨頭が、骨盤側の受け皿にあたる「寛骨臼」にはまり込む形をしている。
この寛骨臼の形に生まれつき異常があることが原因で発症することが多い。
 
初期の治療には、痛みや炎症を抑える薬を使う。
体重の減量や股関節の筋力を鍛える運動も有効だ。
関節の傷みがひどくなければ、主に40代までを対象に、骨の一部を切って関節を温存する「骨切り術」も受けられる。
さらに骨の変形が進み、痛みが激しいと、人工股関節に置き換える。
 
人工股関節を使う際は、適切な位置に入れることが何より重要だ。
 
「ナビゲーションシステム」はそれを可能にする。
赤外線カメラで位置を把握し、医師が最適な場所に入れるのを手助けする。
 
事前にコンピューター断層撮影(CT)を使い、股関節の立体画像を作って手術計画を立てる。
手術中は人工股関節や患者の股関節を赤外線で計測。撮影した映像を医師が画面で見て、ずれを修正しながら人工股関節を入れる。
 
来法では、分度器を使ったり関節の動きをチェックしたりして角度を確認しながら入れる。
手術は通常1~2時間だが、ナビを使うと骨の位置の計測のために10分ほど長くかかる。
 
ナビゲーションは2012年度から保険適用され、導入する施設が増えている。
保険適用前は使用施設はほとんどなかったが、人工股関節に置き換える手術を実施する国内約2千医療機関のうち、約200施設でナビゲーションを使っているとみられる。
 
ずれがほとんどなく正確にでき、術後の日常生活の脱臼のリスクを減らせる。

60歳未満の患者にも広がり
人工股関節は以前は耐用年数が手術から10年程度とされていた。
擦れる部分の素材の摩耗によって出る粉が原因で骨が溶け、緩みなどが生じるためだった。
それが2000年ごろから、足を動かして擦れる部分の素材に摩耗しにくいポリエチレン素材が使われるようになった。
耐用年数が延び、再手術せずに使い続けられる割合は手術から10年で約95%、20年で約90%という。
 
人工股関節に置き換える手術は増加傾向で、60歳未満の患者にも広がる。
日本人工関節学会によると、06年度以降に初めてこの手術を受けた患者の7割は60代以上だが50代は23%、40代は5・6%いた。
 
ただし人工物を体内に入れるリスクは残る。
金属同士が触れ合うタイプの人工股関節で、周囲の組織が壊死するなどの不具合が欧米などで報告され、日本股関節学会の調査委員会が昨年、合併症の診療指針を作った。
MRIで近くの骨や筋肉の浮腫を見つけるなどしたら再手術を検討することなどを求めている。
 
人工股関節は品質が良くなり、耐用年数も30年が視野に入ってきた。
ただ、体に合わなかったり壊れたりすることもある。
定期的に検査で異常がないかチェックが必要だ。

 
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参考・引用
朝日新聞・朝刊 2017.6.21