ネット診療

ネット診療 待ち時間ゼロ、働き盛りに拡大

スマートフォンタブレットなどの動画画面を通して、自宅や職場にいながら医師の診察を受けられる手軽なオンラインでの遠隔診療が都会を中心に広まりつつある。
処方箋も自宅に郵送で届けてもらえ、通院の手間や待ち時間が省けるため、子育てや仕事などで通院時間がとりづらい人たちの新しい受診方法として注目される。

東京・神保町にある「お茶の水内科」では2015年秋から、通常の対面での診療に加え、インターネット動画を活用したオンラインでの遠隔診療を始めた。
 
都心でオフィス街の立地から、患者は、企業などで忙しく働く人が多い。
働き盛りは仕事や家事に追われて通院が後回しになりがちだ。
循環器内科が専門の I 院長(32)は、通院中断で高血圧や脂質異常症などが放置された結果、心筋梗塞脳卒中で救急に担ぎ込まれる患者を診てきた。

私的コメント
同じ内科開業医として、この若さでの開業にはちょっとびっくりします。
臨床経験年数が多くないからです。
 
「薬をきちんと飲んでいれば防げた人も多かったはず。通院継続を助ける手段としてITが役立つと考えたんです」。
既存技術を使って自分でシステムを作り、ネット診療を模索した。
 
初診は必ず対面で行い、病状とネット利用に適性があるか見極めた上、希望者にネット診療を案内する。
患者はスマホタブレット、パソコンなどネット環境があればいい。
予約制で待ち時間もない。別枠の宅配サービスで、薬は自宅などに届けてもらえる。
 
現在、ネットの患者は約200人。
高血圧や脂質異常症などの生活習慣病関連の慢性患者が中心だ。
同クリニックの場合、保険診療の患者負担額は、対面とほぼ同じか、疾患によってはネットの方が数百円安いこともあるという。
「経営的にやっていけないほどではないし、なにより患者さんの利便性が高まることで病気予防につながるメリットは大きいです」と話す。

徐々に規制緩和、企業相次ぎ参入
医師法では、患者を診るのは直接の対面診療が原則とされ、従来、患者本人をビデオ画像などで診るのは違法とされてきた。
 
だが1997年、医師の不足などを背景に厚生省(当時)は、離島やへき地など医療環境が整いづらい場所で遠隔医療を事実上、「解禁」。
ネット環境や機器の進歩と、国の規制改革の流れを受けて、その後も段階的に遠隔診療の対象が明文化され、広がった。
 
2015年8月の通知で、場所や対象の条件が事実上、取り払われたのが転機になり、スマホのアプリを活用したネット診療のシステムを提供する企業が相次いで登場した。
今後も成長が見込まれる「スマホ診療市場」には現在、少なくとも10社が参入する。

多様な医療模索、原則は対面診療
医療情報の提供や医療・介護分野の求人サービスを行う「メドレー」(本社・東京都港区)は、オンライン診療アプリのサービスを東京を中心とした全国500以上の医療機関に提供。
画質で差別化をはかる医療人材紹介会社のMRT(本社・東京都渋谷区)も、東京を中心に約350機関にサービスを提供する。
生活習慣病や、花粉症、うつ病、小児科領域など、多様な病気でネット診療が始まっている。
 
活況の一翼を担うのは30~40代の医師たちだ。
参入企業の経営に参画し、現場と患者が抱える課題を理解した上で新しい仕組みづくりに取り組む。
 
医師で、「メドレー」代表取締役のTさん(33)は、「自分が企業で働いてみて、日中働く人に『平日に病院に来て』というのは医者のエゴだと感じました。
ネットを活用することで、患者と医療との関わり方が多様化し、もっとカジュアルに変わる部分があってもいいと思います」と話す。
 
ただ、普及の一方で、「遠隔診療は、あくまでも対面診療の補完だという原則が置き去りにされているような場面がある」と関連学会で遠隔診療のモデル研究会を率いる京都府医大のK特任助教(36)は懸念する。
実際、ルールの範囲内だが、処方薬のネット販売が目的かのような遠隔診療に特化した診療所も登場している。
 
ただ、対面診療だけでは医療を受ける機会が限られる人がいるのは事実。
遠隔診療は、そこを解決するために医師が持つ新しい『引き出し』の一つだという理解が正しく広まとよい。
 
厚生労働省は今月、本人確認などの条件を満たせば、メールやソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)での遠隔診療も認める趣旨の通知を出した。
一層、身近になりそうな遠隔診療。
対面と並び、質をどう高められるかが今後の課題だ。

 
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参考・引用
朝日新聞・朝刊 2017.7.29