「ゲノム医療」で探る治療法

「ゲノム医療」で探る治療法 遺伝子を解析、がん原因特定に有効

■がんといま
患者の遺伝情報(ゲノム)を網羅的に調べて最適な治療法を探る「ゲノム医療」が、がん治療にとりいれられ始めた。
国も本腰を入れて推進しようとする。
ただし研究段階の部分も多く、臨床の現場に広めるには費用面や検査の質の確保が課題になる。

■まだ研究段階、検査は限定的
70代のある女性は昨年、国立がん研究センター中央病院(東京)で、がん細胞にどんな遺伝子の異常が起こっているかを調べる検査を受け、抗がん剤治療の臨床試験(治験)に参加している。
 
「CT検査でがんが小さくなっていると言われ、効果が続くか見ていきたい」と女性は話す。
 
6年前に膀胱がんと診断され、手術を受けた。
肺への転移が昨年見つかり、中央病院で治療を始めた。
抗がん剤の治験に参加した当初は効果があったが、次第に耐性ができて効かなくなった。
そこで様々な遺伝子を調べる検査を受け、別の抗がん剤の治験にも参加するようになった。
 
がんは遺伝子の働きの異常で細胞増殖が止まらなくなる病気だが、異常になる遺伝子は患者ごとに違う。一方、特定の遺伝子の異常な働きを抑える抗がん剤が次々と開発されている。
 
さらに多くの遺伝子を網羅的に調べて治療に役立てる手法(クリニカルシーケンス)を導入するための研究も始まった。
 
中央病院は2013年、114種類の遺伝子を調べて治療や研究に役立てるTOP―GEAR(トップ・ギア)プロジェクトを開始。
女性が受けたのもこの検査だ。
これまでに約200人が受け、65%にどの治療がよいかの判断に有用な情報が得られ、15%が遺伝子異常に合った治療薬の選択につながった。
検査で使う薬剤費だけで約30万円かかるが、現在は研究費で賄われている。

保険外、費用は高額
米国で実用化されている検査を、国内で先駆けて実施する施設もある。
 
横浜市立大病院は昨年、400以上の遺伝子を調べることができる「がん遺伝子検査外来」を始めた。
ニューヨークのメモリアルスローンケタリングがんセンターが開発したもので、手術で取ったがんとその周囲の正常な組織を米国に送ると、がんの原因とみられる異常な遺伝子と候補となる治療法が示される。
「患者が望めば、米国で受けられる検査を日本でも受けられるようにしたかった」と担当の医師は話す。
 
ただし推奨の治療法が見つからないこともある。
示される治療法は、基本的に保険適応外の薬を使うもの。
検査費用は自費診療となり60万円ほどかかる。
 
京都大病院はオンコプライムという検査を15年以降、実施する。
標準的な治療がうまくいかなかった人やまれながん、原因不明のがんなどの患者が対象だ。
 
ある患者は脳や甲状腺、頸椎、肺にがんがあったが、どこからがんが発生したかわからず、治療方針が決まらなかった。
この検査でEGFRという遺伝子の異常が見つかり、抗がん剤タルセバ(一般名・エルロチニブ)を使うと効果がみられたという。
 
検査だけで自己負担は約88万円。15年から2年間で155人が検査を受け、約9割の患者の解析に成功。
うち122人に候補となる治療薬が見つかった。
ただし実際に治療をしたのは18人。主な理由は、全身状態の悪化や医療費が払えないだったという。
 
「高額だからとあきらめる人がいる。将来、保険適用されるなどで費用面のハードルが低くなれば、早い段階で検査を受けて治療につながる人が多くなる」と武藤学教授は話す。

体制拡大・質確保、国も本腰
今夏できる国の第3期がん対策推進基本計画にゲノム医療は、全国どこでも受けられる「個別化医療」として、推進していく方針が盛り込まれる見込みだ。
 
有識者でつくる厚生労働省の「がんゲノム医療推進コンソーシアム懇談会」は6月、中核拠点病院を整備することなどを提案する報告書をまとめた。
厚労省は今年度中に7施設ほどを中核拠点に指定する見通しだ。将来の保険適用を視野に、当面は先進医療として実施するという。
 
厚労省研究班が最近まとめた報告書によると、ゲノム医療の対象になる患者は、1年間に新たにがんと診断される約100万人の患者(推計値)のうち、最大40万人を見込む。
そのうち、有効な薬が見つかるなど治療につながるのは15万人と推計。
研究班は、全国各地に20施設程度の拠点病院を置き、地域のゲノム医療を担う体制を提案する。
 
体制の拡大には検査の品質管理が重要だ。
米国には検査の信頼性や安全性を確保するための認証制度があるが日本にはない。
遺伝子解析後にデータを分析し、治療の選択を判断するスタッフの質も求められる。
 
研究班班長は「体制は一挙には整わない。医師主導治験や先進医療を含む開発型の臨床試験を主導できる施設を中心に整備していくことになるだろう」と話している。
 
また多数の遺伝子を調べる検査をすると、家族性のがんやほかの病気に関する遺伝子の異常も見つかる可能性がある。
同センターの遺伝子診療部門長は「こうした情報は、数%の割合で見つかるという報告もある。検査前に患者に説明し、知りたいかどうか考えてもらうことが必要だ。責任をもって対処するには、がん以外の医療関係者や行政との連携も欠かせない」と指摘している。

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参考・引用
朝日新聞・朝刊 2017.7.25


<関連サイト>
がん遺伝子検査外来のご案内
~がん細胞が持つ遺伝子異常を詳細に解析し、新たな治療法の選択肢を見出す~
http://www.yokohama-cu.ac.jp/fukuhp/section/depts/ganidensikensa20161209.html

がん遺伝子検査外来に関してよくあるご質問 (最終更新日2017年3月14日)
http://www.yokohama-cu.ac.jp/fukuhp/section/depts/ganidensikensa_qa.html

遺伝子解析 最適薬ずばり
http://ycu-hepabiligi.jp/archives/20170731yomiuri.pdf