人工肛門でも普通の生活を

人工肛門でも普通の生活を

装具の性能向上/対応トイレ普及… 患者の高齢化、新たな課題に
大腸がんの増加などに伴って人工肛門をつける患者が増えている。
その数は20万人ともいわれる。
装具の改良などで日常生活に大きな支障はなくなってきているが、社会的な認知や理解が進んでいるとは言い難い。
患者の高齢化という新たな課題も生じている。

「普通の人と同じように生活している」。
神戸市のSさん(30)は21歳のときに受けた横紋筋肉腫というがんの切除手術の際、直腸を摘出しなければならなくなり、人工肛門をつくった。
 
当初は「自分の体に何が起こっているのか分からなかった」というが、今では定期的に装具を交換しないといけないのが面倒という程度。
会社勤めも始め、同じ境遇の人の支えになろうと人工肛門の患者団体、日本オストミー協会の支部で幹事も務めている。

大腸がん多く
Sさんの場合は特殊ながんがきっかけで人工肛門をつくることになったが、一般的には大腸がんが原因になることが多い。
中でも肛門近くの直腸がんになると、肛門も一緒に切除しなければならなくなるケースが少なくない。
本来の肛門が機能しなくなるので、おなかに腸とつながった排せつ口を設けなければならない。
これが人工肛門だ。
 
医療現場や患者の間では「ストーマ」と呼ばれる。
ストーマを持つ人を「オストメイト」という。
ストーマには筋肉がないので、排せつをコントロールできない。
このため、ストーマから出る排せつ物を受け止める袋状の装具をおなかに貼り付ける。
 
排せつ物がたまればトイレで捨て、装具も定期的に取り換える仕組みだ。
最近では排せつ物の処理や装具の取り換えがしやすい設備があるオストメイト対応トイレを公共施設などでも見かけるようになってきた。

給付金支給も
ストーマがある患者は、障害者手帳の対象になることもある。
その場合は装具購入費用として、自治体によっても異なるが、月8千円程度の給付金が出る。
 
装具の性能は向上しており、破れたり、ずれたりすることはなくなってきた。
皮膚・排せつケア認定看護師のMさんは「旅行も海水浴も共同浴場も大丈夫。制約はほとんどない」と説明する。
 
とはいえ、大汗をかいたりしたときなど、排せつ物が漏れるなどのトラブルがまったくないわけではない。緊急時に駆け込める対応トイレの一層の普及や、職場での理解なども必要になりそうだ。
 
製品のさらなる改良も進む。
デンマークが発祥の装具メーカー「コロプラスト」(東京)は、皮膚への密着性を高めつつも、皮膚にやさしい装具や付属製品などを開発する。
ただ高機能化するほど価格も高くなりがち。将来は障害者向け給付金の範囲では一部製品が購入しにくいといった課題が出てくる可能性もある。
 
今後の大きな問題とされているのが患者の高齢化だ。
政府は医療費抑制のため、高齢患者もできるだけ在宅で療養してもらう方針を掲げる。
入院したとしても在院期間の短縮が進んでいる。ストーマをつくった高齢患者も例外ではない。
 
短い入院期間では、日常の手入れ方法を完全に覚えることができないまま家に戻ったり、一人ではうまく手入れができないといったケースが増えつつある。
患者が認知症になったときなどはさらに深刻だ。
 
対応策としては、専門知識を持った訪問看護師の活用が考えられるが、費用面などから無制限に利用できるわけではない。
在宅療養を支える体制整備はこれからだ。
 
若くても年をとっていてもストーマが必要と聞けば、多くの人は精神的に落ち込む。
一人で悩まず、日本オストミー協会などに相談したい。

肛門温存手術も登場 医師と相談し長・短所理解を
直腸がんなどで従来なら肛門を切除していたようなケースでも肛門を温存したままがんを摘出する手術法が登場している。
この場合は一時的に人工肛門ストーマ)をつくるが、半年ほど後に閉じ、肛門から排せつできるようになる。
  
ただ肛門の機能は完全に戻るわけではなく、便漏れが起こる場合などもある。
また一時的ストーマは造設場所の関係から排せつ物が水っぽく、ずっと使い続けるには漏れなどの課題が強まりかねない。
この手術に詳しい東邦大学医療センター大森病院のある教授は「年齢など患者の背景によっては、永久ストーマをつくった方がQOL(生活の質)は高くなるとの報告もある」という。
 
同教授は「患者は肛門を残したいという一心になりがちだが、手術後の姿を理解したうえで医師とよく相談し手術法を選んでほしい」と語る。

 
イメージ 1


参考・引用
日経新聞・夕刊 217.10.12