無痛分娩

増える無痛分娩 安全に実施するには

お産の痛みを麻酔で和らげる無痛分娩を選ぶ妊婦が増えている。
一方、無痛分娩をした妊産婦や子どもが亡くなる事例も複数報告されている。
麻酔の知識と技術に習熟した医師が立ち会うことが欠かせないが、日本では体制の整備が欧米に比べて遅れている。

長所短所、理解して選択を
ある女性(35)は10月17日、都内の産婦人科で、第3子となる次男を無痛分娩で出産した。
第1子と第2子は自然分娩だったが、今回は出産後に子育てにすぐ復帰できるよう、体力を温存したいという理由から無痛分娩を選んだ。
 
女性は「自然分娩と比べて痛みは一番強い時でも3割弱くらいだった。冷静に出産を迎えられたのは貴重な経験だった」と話す。
 
無痛分娩は一般的に硬膜外鎮痛という方法で痛みを抑える。
脊髄の外側にある「硬膜外腔」に針を入れ、その中に細い管を通す。
針を抜いて管だけを残した状態で、麻酔薬を注入する。
薬が神経に直接作用することで痛みを緩和し、出産の疲労を少なくすることができる。
心臓の持病や高血圧がある妊婦には、心臓の負担を軽くしたり血圧の上昇を抑えたりするメリットもある。
 
一方、まれに管が血管に入ってしまったり、硬膜を突き抜けて「脊髄くも膜下腔」に達してしまったりする場合もある。
そのまま麻酔薬を入れると、麻酔が効きすぎて血圧が急激に下がったり、呼吸ができなくなったりするなど、命に関わる合併症のリスクもある。
 
妊婦によっては背骨が曲がったりするなど、命に関わる合併症のリスクもある。
 
背骨が曲がっているなど針を正確に入れるのが難しい場合があり、経験を積んだ医師でも管が間違って入ってしまうことはあり得る。
ただ、麻酔が効きすぎれば心拍や呼吸などに変化が現れる。
医師らが見逃さずに適切に対処すれば、事故は防げる可能性が商い。
出産前に妊婦に麻酔のリスクのほか、吸引分娩の割合が自然分娩より増えることなどの説明を受け、無痛分娩のメリットとデメリットを理解し承知しておく必要がある。

半数以上が診療所で実施
日本産婦人科医会が今年6月、全国の無痛分娩の実施状況を調べた。
14年度が4.6%だった無痛分娩の割合が、15年度は5.5%、16年度には6.1%と年々増えていた。
 
無痛分娩の53%が20床未満の診療所で行われていることもわかった。
多くの診療所では麻酔科医が常勤しておらず、産科医が1人で麻酔も実施している。
一方、無痛分娩が全体の約6割を占める米国、8割を占めるフランスでは、複数の麻酔科医が常駐する大病院にお産が集約されている。
 
無痛分娩を巡る事故が報告されたことを受け、厚働省研究班が8月に発足し、安全策について検討を始めた。

無痛分娩を安全に実施するための指針や、医師の認定制度が必要かなどを議論し、今年度中に結論を出す。
 
診療所と病院とでは、医師の人数や急変時の対応に差がある。
無痛分娩は麻酔科医のいる病院にある程度集約すべきだというのが、麻酔科医の多くの考えだ。
一方、産科医療施設が分散し、どこでも産める日本のシステムの良さも守っていかないといけない。
 
日本ではお産に24時間対応できる施設は限られるため、無痛分娩は計画出産となることが多い。
その場合、陣痛誘発剤を使う可能性が高くなり、出血のリスクが高まる。
出血への対処を熟知している産科医が麻酔の技術を向上させることも必要だとなる。

参考・引用
朝日新聞・2017.11.8


<関連サイト>
無痛分娩とは?費用は?デメリットやリスクはある?
https://192abc.com/23477


無痛分娩、本当に大丈夫?~後悔しないために知るべきこと~
https://www.jiji.com/jc/v4?id=mtu1810001

「無痛分娩」で妊婦や家族が知らない重大リスク
http://ascii.jp/elem/000/001/504/1504237/

無痛分娩の麻酔、担当医に要件…厚労省が安全対策
https://yomidr.yomiuri.co.jp/article/20180213-OYTET50002/
出産の痛みを麻酔で和らげる無痛 分娩を巡る事故が相次いで判明したことを受け、厚労省研究班は12日、望ましい安全対策をまとめた。
麻酔を担当する医師の要件や、緊急時の体制などを示した。
 
研究班が示した対策では、麻酔の担当医について、麻酔科専門医などのほか、産婦人科専門医にも認めた。定期的な講習への参加を求めたほか、産婦人科専門医には、麻酔科での研修実績、無痛分娩の経験を情報公開するなどの要件を加えた。
 
このほか、緊急時に麻酔の担当医がすぐに駆けつけたり、妊婦をきめ細かに観察したりする体制や、酸素ボンベなど蘇生に必要な医療機器が使える状態で備えてあることなども求めた。

無痛分娩
増え5.2% 厚労省研究班、安全対策検討へ 16年度
https://mainichi.jp/articles/20171123/k00/00m/040/035000c
出産の痛みを麻酔で和らげる「無痛分娩」について、2016年度の実施率は5.2%で、診療所(医院)が約6割を占めることが、日本産婦人科医会の初の全国調査で分かった。
関西の医院などで無痛分娩による出産の際に重大事故が相次いでおり、厚生労働省の研究班は調査結果を基に安全対策を検討する。

今年6月、全国の分娩を扱う約2400の医療機関を対象に、過去3年間の実施状況を聞いた。

回答のあった16年度の約40万件の総出産件数のうち、無痛分娩の実施は約2万1000件で5.2%に上った。
07年度に専門医らが実施した調査では2.6%で、倍増した。
14年度は3.9%、15年度は4.5%だった。
 
16年度の無痛分娩による出産のうち、病院での実施は約8850件、診療所(医院)は約1万2150件で、規模の小さい診療所が全体の58%を占めた。
 
無痛分娩をめぐっては今年に入り、大阪や神戸、京都の産婦人科医院で妊婦が死亡したり、母子に重い障害が残ったりする事故が相次いで表面化した。
医会などは4月、無痛分娩を実施する施設は、麻酔による合併症や出血などに対応できる医療態勢を整えるよう注意喚起する緊急提言を出していた。

無痛分娩、安全対策課題…産科医会が死亡例分析
https://yomidr.yomiuri.co.jp/article/20170718-OYTET50020/
出産の痛みを麻酔で和らげる無痛 分娩を巡り、日本産婦人科医会が、過去に報告された妊産婦死亡271人を分析したところ、無痛分娩は14人で、この全例で陣痛促進剤が使われ、半数で赤ちゃんを器具で引っ張る処置が行われていたことがわかった。

無痛分娩に伴いこうした医療処置が必要になれば命にかかわる大量出血のリスクも増すが、十分な対策もなく行われ死亡につながった可能性がある。
 
同医会は2010年に妊産婦死亡の報告制度を創設。事例を検証し、毎年、対策を提言している。
今年は無痛分娩も分析。4月に速報的に発表した緊急提言の際は13人とされたが、その後の精査で14人と判明した。
 
死亡原因を見ると、麻酔ミスによる中毒が1人。
羊水が血液中に入って大量出血などを引き起こす羊水塞栓10人、子宮破裂による大量出血2人、感染症1人。
 
無痛分娩は、いきみづらくて陣痛促進剤や器具を使う場合が増える。
特に国内では、24時間体制がとれない医療機関が多いため陣痛促進剤を使った計画分娩が主流。
死亡した14人も、13人が計画分娩で、自然な陣痛を待った1人も麻酔後に陣痛促進剤が使われた。
それでもお産が進まず、7人は器具で引っ張り出し、3人は帝王切開になった。
 
陣痛促進剤や器具の使用で大量出血のリスクは高まるが、多くで輸血などの対応をしきれなかった。
同医会は来月、器具を使う分娩や大量出血、麻酔のミスに適切に対応できる体制整備を求める提言を出す。
 
ただ、無痛分娩により死亡率が高まるかどうかは不明で、現在、同医会で全国の実態調査を進めている。
 
14人とは別に、同医会は最近、相次ぎ発覚した大阪、兵庫、京都の4医療機関計6例の産科麻酔を巡る事故も調査中。いずれも当初は同医会に報告がなかった。

無痛分娩 施設の情報公開促進へ 件数、麻酔の方法など
https://mainichi.jp/articles/20171123/k00/00m/040/035000c
出産の痛みを麻酔で和らげる「無痛分娩(ぶんべん)」の安全対策を議論している厚生労働省研究班は22日、無痛分娩を手掛ける各施設の年間実施件数や麻酔の方法などをネット上で比較できる仕組みを作る方針を決めた。
情報公開を進めることで、重大事故が相次いでいる無痛分娩の安全向上を目指す。

「同じ悲しみ二度と」無痛分娩の女性死亡、夫が安全対策の重要性訴え
https://yomidr.yomiuri.co.jp/article/20170711-OYTET50005/
出産の痛みを麻酔で和らげる無痛 分娩を巡り重大事故が相次ぐ中、神戸市の産婦人科診療所で麻酔後に意識不明となり、今年5月に死亡した女性の夫(32)が、東京都内で読売新聞の取材に応じた。
夫は「同じ悲しみをもう誰にも味わってほしくない」と再発防止への思いを語った。
 
この女性は2015年9月、神戸市西区のマタニティクリニックで麻酔後に体調が急変。
搬送先の大学病院で意識が戻らぬまま1年8か月後に35歳で亡くなった。
生まれた男児(1)も重い障害を負い、今も入院中だ。
 
夫によると、事故当時、医師は院長1人で、2階の分娩室で麻酔薬を入れてから外来診療のため1階に戻り、急変への対応が遅れた。
「息ができない」。
女性はか細い声で言った後、意識不明に。
麻酔の管が誤って別の場所に入ったのが原因という。
 
夫は搬送先の麻酔科医から「麻酔後、急変に備えて見守るのは当たり前」と聞かされ 愕然とした。
 
無痛分娩は、女性が希望したわけではない。
小柄で難産が予想されたため、院長から勧められた。
夫は、同僚の妻が海外で無痛分娩をした経験を聞いたことがあり反対しなかった。
「複数の医師がいる大病院で行われる海外と、日本の事情が違うという重要な事実を知らなかった」と悔やむ。
 
夫は「産院選びは、見た目のきれいさや食事のおいしさなどより、医師の技術や経験、安全対策が一番重要と伝えたい」と訴えた。