iPSで血小板再生

iPSで血小板再生、コストなど課題

京都大学は(2018年8月)20日、江藤浩之教授らが計画するiPS細胞を用いた血小板再生医療の臨床研究について、同日午後3時の記者会見で概要を説明する。
患者自身の細胞を使うiPS再生医療は2014年の目の網膜に次いで2例目。
免疫拒絶の心配がほとんどなく患者にとって利点は大きいが、安全性やコストの問題は未解決で、今後も技術開発が必要だ。
 
今回の計画は、他人の血小板を免疫が排除してしまい治療が難しい患者を対象とする。
患者自身の細胞を使う「自家移植」なら免疫の型が患者と一致し、拒絶反応の心配がほとんどない。
胚性幹細胞(ES細胞)など他の細胞治療では難しい患者に対し、iPS細胞の強みを生かす計画となっている。
 
拒絶反応が起きるのは、他人の細胞を使う再生医療や臓器移植で共通の問題だ。そうした中でiPS細胞が登場した2007年ごろは、「免疫拒絶の心配がない移植医療の実現に道を開く」と期待が高まった。
体中の細胞に成長できるiPS細胞は、患者自身の細胞を使う再生医療の可能性を大幅に広げた。
従来、患者自身の細胞を活用できる例は皮膚や骨髄、脂肪などに限られていた。
 
iPS細胞の真骨頂と呼べる自家移植だが、血小板に次いですぐさま他の計画に波及する見通しは薄い。
個々の患者からオーダーメードで質を保証したiPS細胞を作製するのは高額で、時間もかかるためだ。
今回、血小板で自家移植を計画するのは、血小板が核を持たずがん化のリスクが極めて低いことも理由にある。
 
iPS細胞は皮膚や血液の細胞で複数の遺伝子を強制的に働かせて作製する。
この過程で遺伝子の一部に元の細胞の性質が残ったり、遺伝子の変異が入り込んだりする恐れがある。
 
理研が14年、目の難病患者を対象に実施した世界初の臨床研究は、患者自身のiPS細胞を使う自家移植だった。
1例目の移植を果たしたが、続く2例目は遺伝子変異が見つかり移植を断念、v細胞の扱いの難しさを痛感した。
患者1人につき約1億円ともいわれる費用も問題になった。
 
自家移植を予定していた脳などの臨床計画はいったん、他人の細胞を活用する方向に振れた。
あらかじめ備蓄し品質検査を済ませたiPS細胞を使えば、費用や時間をある程度短縮できる。
ただ他人の細胞を移植することで免疫拒絶の問題が再び浮上した。
ES細胞との違いが曖昧になり、利点がわかりにくくなっている。
 
免疫拒絶を逆手にとる考え方もある。
自家移植では細胞ががん化した場合に免疫反応が起きにくく「より危険」(免疫学者)なためだ。
大阪大学の他人のiPS細胞を用いた心臓再生の臨床研究では、移植後に数カ月で免疫抑制剤を切る計画。
仮に体内でがんが生じても他人の細胞なら免疫が排除しやすいとみる。
薬剤で拒絶反応を抑えられるケースでは当面、他人のiPS細胞の普及を目指すことになりそうだ。
 
iPS自家移植の普及には個々の患者から安く高品質なiPS細胞を作製するための基礎研究が必要だ。
他人の細胞であってもゲノム編集技術との組み合わせや免疫反応を抑える制御性T細胞を活用して免疫拒絶を回避するアイデアもある。
安全で効果の高い再生医療の普及には、多方面で技術開発を進めて組み合わせる必要がある。


追加
・臨床研究は、血液の成分が減る難病「再生不良性貧血」の中でも血小板が減る「血小板減少症」の患者1人が対象。
(既に候補者がおり患者募集はしない予定)
他人の血小板を輸血しても拒絶反応で消えてしまい効果のでない特殊な例だ。
 
・患者自身の細胞からiPS細胞を作り、血小板に育てて3回に分けて患者に輸血する。
2カ月ごとに投与量を増やし、1年の経過観察で安全性や有効性を確認する。

・研究チームはiPS細胞から血液成分の赤血球を作る研究も進めている。

・米国は先行したES細胞も並行して研究を進めており、日本との戦略の差が目立つ。

・今回の費用は患者自身の細胞からiPS細胞を作るため5000万円と高価。
血液製剤を補うには、コスト低減が欠かせない。
こうした課題の解決が国際競争を勝ち抜く鍵になる。
今回は血小板を1回で最大1000億個輸血する。
血小板には増殖しない性質があるためがん化リスクが低いが、品質の悪い細胞が紛れ込む可能性がある。
研究チームは移植前に放射線をあてることで取り除く方針だ。

・現在は、日本赤十字社が製造する血小板製剤が使われているが、使用期限が4日で備蓄できない。

・江藤教授の成果を生かして、スタートアップ企業のメガカリオン(京都市)もiPS細胞から作った血小板の企業主導治験を計画している。
19年にも米国で開始を目指す。
数種類の血小板で多くの患者に投与可能で、血小板不足を補う技術として実用化する。


<関連サイト>
「血小板輸血不応症を合併した再生不良性貧血」患者を対象とするiPS細胞由来血小板の自己輸血に関する臨床研究について
http://www.cira.kyoto-u.ac.jp/j/pressrelease/news/180820-170000.html



ヒト iPS 細胞から止血効果を持つ血小板の産生に成功
https://www.u-tokyo.ac.jp/content/400008825.pdf


<私的コメント>
実はiPS細胞から人工血小板を最初に作り出すことに成功したのは東大の中内教授です。
「お互いの競争によって」というイメージではなく山中・中内両先生のオープンマインドな研究姿勢が実を結んだ美談と考えています。
両先生は素晴らしい性格の方です。

参考
山中・中内で新会社を設立、iPS初の臨床応用目指す、人工血小板を製造
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20111020/157301/

ヒトiPS細胞由来の機能的血小板産生
http://www.ims.u-tokyo.ac.jp/imsut/jp/research/papers/ips_4.php

ヒトiPS細胞で血小板 東大、世界で初めて成功
https://ameblo.jp/regenerative-kyoto/entry-10202473865.html

iPS細胞研究は日本の「アポロ計画」だ!|世界をリードする日本の再生医療
https://courrier.jp/news/archives/99565/

第20回 | フクロウ博士の森の教室「からだを復元させる医療の話」
https://www.terumozaidan.or.jp/labo/class/20/interview01.html


<追加> 2018.19:20
iPS血小板、厚労省の了承持ち越し 京大の臨床計画
血小板をiPS細胞からつくり、血液の難病「再生不良性貧血」の患者に移植する京都大の臨床研究について、厚生労働省の部会は29日、計画の審査を始めた。
患者への説明文書に修正の必要性が指摘されるなどしたため了承はせず、来月以降の部会で審議を続けることになった。
 
厚労省によると、部会では、京大の江藤浩之教授らが臨床研究の計画を説明。出席した有識者からは「患者に説明する文書の表現がわかりにくい」などの意見が上がったという。
京大が修正などをしたうえで、改めて審議される。臨床研究の内容そのものについては、異論はなかったという。

参考・引用一部改変
2018年08月30日(木) 13:00 配信 朝日新聞デジタルアピタル) 医療 30