がん 治療時、収入維持難しく

治療時、収入維持難しく

がんの医療費は高いという印象を持つ人が多い。
たしかに、100万円以上かかる手術は珍しくない。
最新の分子標的薬を使うと、200万円以上かかる例もある。
しかし、がん治療の大半は健康保険が適用される。
自己負担は3割(70歳以上は所得によって1~3割)になる。

また、保険で認められた治療では「高額療養費制度」が使える。
1カ月にかかる個人負担には上限が定められている。
たとえば標準報酬月額28万~50万円の人の場合、負担額の限度は8万円あまりになる。
さらに、高額療養費として払い戻しを受けた月数が過去1年間で3カ月以上あれば、4カ月目からの限度額は4万4400円になる。
差額ベッド代は全額自己負担となるが、放射線治療では、ほとんどのケースで入院が不要なため、医療費の心配も少なくなる。
こうした制度を使うことで、がん治療に伴う実質的な負担額は平均24万円程度ですむ。
この数字を見れば、高額という印象が和らぐ。
しかし、医療費より大きな問題がある。
それは収入が減ることだ。
厚生労働省の調査によると、全がん患者の3人に1人が20~64歳の働く世代だ。
32万人が仕事をしながら通院している。
さらに、18歳未満の子供を持つがん患者は5万人を超えている。
この人たちの診断時の平均年齢は男性が46歳、女性が43歳で、子供の平均年齢は11歳と、まだまだ教育費がかかる。
一方、がんと診断された会社員のうち、30%は依願退職し、4%は解雇され、仕事を続けられたのは半数以下というデータもある。
自営業者では13%が廃業に追い込まれている。
また、がんが見つかると、平均で395万円あった年収が167万円に激減してしまう。
現役世代ががんになったら、いかに仕事を続けるか、収入を維持するかがポイントになる。
がんと診断された時点で6%の方が退職しているが、がんの通院治療が当たり前となった今、もったいない話だ。
女性が社会に進出し、定年延長で働くがん患者も増えている。
がん保険なども活用して、いざという場合に備えておく必要があるだろう。

執筆 東京大学病院准教授・中川恵一先生

参考・引用一部改変
日経新聞・夕刊 2016.3.3