体を守る皮膚、健康映す鏡

体を守る皮膚、健康映す鏡

病原体のような外敵や、寒さや乾燥といった刺激から体を守る、バリアー(防御壁)としての働きがある皮膚。
年齢を重ねると、その機能は衰える。変化に上手に対処するには、保湿を中心としたスキンケアが欠かせない。
皮膚の異常には重大な病気が隠れていることもあるので、こまめに観察することも大切だ。

加齢による乾燥 機能低下し炎症
ある男性(76)は毎晩、風呂上がりに、すねや腰回り、脇腹に保湿クリームを塗る。
細長い道具を使って背中にも。
頭皮には、よりさらっとした保湿ローションを塗る。
 
10年ほど前、体のあちこちがかゆくなった。
気持ちがいいので気がすむまでポリポリかいていたら、皮膚が傷つき炎症が起きた。
皮膚科を受診すると、皮膚の乾燥が原因で起こる「皮脂欠乏性湿疹」と診断された。
炎症を抑えるステロイドの塗り薬とかゆみを抑えるのみ薬で治療した。
以来、院長の指導に従い、皮膚の保湿を心がけているが、時々は湿疹ができる。
「乾燥しやすい冬、ポカポカした布団の中に入るとかゆみが生じやすく、寝ている間に無意識のうちにかいてしまう」と男性は苦笑する。
 
かくと皮膚が傷んでバリアー機能が損なわれ、炎症が起きる。
さらにかゆみが強まり悪循環だ。

かゆくならないように皮膚を保湿し、かいても重症化する前に治療して悪循環が起きないようにする。
予防と早めの治療が効果的だ。
 
健康な皮膚は、自ら分泌する皮脂が表面を覆い、水分の蒸発を防いでいる。
角質層の細胞には水分を保持するアミノ酸類などの「天然保湿因
子」があり、角質細胞同士の間にあるセラミドなどの「角質細胞間脂質」も皮膚の水分の蒸発を防ぐ。    

このような皮膚の潤いが、皮膚のバリアー機能を保つには重要だ。加齢とともに皮脂や天然保湿因子、角質細胞間脂質は減り、皮膚が乾燥して表面の皮脂膜やその下の角質層に隙間ができたりはがれた
りする。
  
するとバリアー機能が低下し、外部の刺激に弱くなり、炎症が起きる。
それが皮脂欠乏性湿疹だ。

皮脂欠乏性湿疹が一番できやすいのはすねだ。
他に太ももや腰の周辺、脇腹、背中の下のあたりにもできやすい。他の部位に比べてもともと皮脂の分泌が少ないためだ。
逆に顔や背中の上部など、ニキビのできやすい部位は皮脂の分泌が比較的多いので、乾燥による湿疹はできにくい。

保湿・洗い方にも注意
バリアー機能の衰えを補うには保湿が基本となる。
保湿剤には、ワセリンのように水分の蒸発を防ぐタイプと、水分と結合して皮膚の水分を保持する働きのあるヘパリン類似物質や尿素が入っているタイプがある。
夏でもエアコンなどにより皮膚は乾燥するので、保温は原則として一年中、必要だ。
  
泡状や液体状など保湿剤には多くの選択肢がある。
自分の皮膚との相性や、皮膚の状態をみて、使う保湿剤の種類や量を決めたい。
風呂から上がり5分以内の皮膚が湿っている聞に塗ると、より効果的という。

湯の温度と洗い方にも注意が必要になる。
湯の温度が高いと、皮膚の皮脂や角質細胞間画質が必要以上に奪われる。
冬は風呂場に暖房を入れるなど体が冷えないように工夫して湯温を38度ぐらいにとどめておくほうがいい。
 
入浴時にせっけんをつけて洗うのは原則、わきの下とまた周辺だけ。タオルは使わずに手でせっけんを泡立てて洗っているという。
  
特別に体が汚れた時を除けば、お湯で流し、手のひらで軽くこするだけで十分だ。
中高年になったら、必要以上に皮膚をこすったり皮脂をとったりするとバリアー機能が損なわれてしまう。
皮脂欠乏性湿疹と診断された患者の中には、ナイロンタオルで体を洗うのをやめたら症状が良くなる人も少なくないという。
 
ただし、皮膚のかゆみや発疹は、皮膚の乾燥だけが原因で起こるわけではない。
糖尿病や肝臓病、内臓のがんが原因となることもある。
保温をきちんとしてもかゆみが治まらない場合などは、早めに皮膚科専門医を受診したい。

病気や薬が原因の異変も
年齢を重ねると免疫の働きが乱れ、自分自身を攻撃して起こる自己免疫疾患の一種、類天疱瘡も増える。
この病気は、皮膚に水ぶくれやじんましんのような腫れが生じる。
 
治療の基本は免疫を抑えること。
だが、高齢者は免疫を抑えすぎると肺炎などになる恐れがあるので、一人ひとりに合う方法を個別に考える。
 
最近、糖尿病治療薬の一部が原因で類天疱瘡が起こるともわかってきた。
ほかの様々な薬が原因で皮膚に炎症が起きる「薬疹」も高齢者には少なくない。
高齢者は複数の薬をのんでいることが多い。
急に薬をやめると危ないので、慎重に原因を探る必要がある。
 
年をとると紫外線が皮膚に与える影響も蓄積し、皮膚がんにもなりやすい。
基底細胞がんや扁平上皮がんなど複数種あり、悪性度も異なる。
いずれも早く見つけて早く治療すれば、転移する前に治療できる。
 
急に皮膚が赤みを帯びて膨らんでくる、急に黒い点ができて不規則に広がるといった変化を見逃さないことが早期発見には欠かせない。
皮膚は、栄養状態も含めた健康状態を反映している。
がん発見のためだけでなく、自分の健康状態をチェックするためにも、時々は全身の皮膚の状態を観察したい。
自分で見えにくい部位もあるので、5年に1度ぐらいは皮膚科を受診してチェックしてもらうのも方法だ。

参考・引用一部改変
朝日新聞・朝刊 2019.1.16


関連サイト
高齢者の皮膚トラブル
https://wordpress.com/post/aobazuku.wordpress.com/221

 
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2019.4.7 撮影