ヘルスリテラシー

ヘルスリテラシー

からだや病気のことについて、ネットや本で調べたことがある人は多いのではないだろうか。
このように健康や医療に関する情報を入手、理解、評価、活用するための能力を「ヘルスリテラシー」という。
実は日本人のヘルスリテラシーは低いとされている。
こう聞いて驚いた人もいるかもしれない。

日本人のヘルスリテラシーは諸外国と比べて低い
ヘルスリテラシーは、健康的な生活をおくるために役立つ能力の一つだ。
身に付けておいて損はない。

健康情報を入手・理解・評価・活用するための知識
では、ヘルスリテラシーとは何なのだろうか? 
さまざまな定義を整理してまとめた論文では、次のように定めている。

「健康情報を入手し、理解し、評価し、活用するための知識、意欲、能力であり、それによって、日常生活におけるヘルスケア、疾病予防、ヘルスプロモーションについて判断したり意思決定をしたりして、生涯を通じて生活の質を維持・向上させることができるもの」

もともと、「リテラシー」とは文字の読み書き能力を表す言葉だ。
そこに、健康を意味する「ヘルス」がつくことで、ヘルスリテラシーとは健康に関する情報について「入手」「理解」「評価」「活用」する能力ということにる。
 
近年、ヘルスリテラシーは「ヘルスケア(病気や症状があるとき、医療の利用場面など)」「疾病予防(予防接種や検診受診、疾病予防行動など)」「ヘルスプロモーション(生活環境を評価したり健康のための活動に参加したりすること)」の場面で重要とされ国際的にも注目されている。
 
そのため、ヘルスリテラシーに関するさまざまな測定方法の開発が進められた。
最近では国際的な共通の測定尺度で、国別の比較も行われている。
そして日本人のヘルスリテラシーのスコアが諸外国に比べて低いことが明らかとなった。

日本人のヘルスリテラシーEUやアジアの諸外国と比べると低いことが一目瞭然だ。

ヘルスリテラシーを身につけるためのサイト「健康を決める力」を制作・運営している聖路加国際大学看護情報学のNさんによると、日本でヘルスリテラシーが低いと考えられる背景として「プライマリー・ケア(身近にあって何でも相談できるケア)の不十分さ」「インターネットを含めた情報の入手先の問題」「子供のころからの健康教育体制」などが挙げられている。
http://www.healthliteracy.jp/

情報を「入手」するときの注意点
2017年に東京都が行った「健康と保健医療に関する世論調査」によると、情報の入手方法は、「テレビ」が78%、「インターネット」と「SNS」を合わせて50%となっている。
 
過去の調査と比較するとインターネットから情報を入手している人が年々増加してきている。
インターネットからの情報収集は便利な半面、情報の内容は玉石混交なのが現状だ。
さらに膨大な情報の中から自分にとって必要な情報を入手する手間や時間も無視できない状況がある。
 
対策としては「正確な情報が掲載されているサイトを利用する」などがある。

「正確な情報」を入手するには
https://www.asahi.com/articles/SDI201710175544.html

情報を「理解」するときの注意点
情報を入手したあと、その内容を正確に理解しなければならない。
もちろん、ほとんどの人が、書かれている文字や数字を読むことはできると思う。
しかし、情報の提示のされ方によって受け取る印象が変わってくるときがある。
 
例えば、人がもともと持っている心理効果を使って情報の見せ方を工夫することで、本来よりも数字を大きく認識させたり逆に小さく認識させたりすることができたりする。

さらに人は感情によっても情報の認知がゆがめられてしまうことがある。
特に「不安」「恐怖」「怒り」などの感情に振り回されているときには情報を正確に理解できない場合があることに注意が必要だ。

「感情」が認知に及ぼす影響
https://www.asahi.com/articles/SDI201711076905.html

情報を理解する上でのコツやポイントはほかにもたくさんあるかもしれないが、「『人の頭はだまされやすい』ことを常に意識しておく」という点が一番重要ではないかと個人的には考える。

情報を「評価」するときの注意点
入手した情報の内容を正確に理解したあと、その情報が本当に信頼できるものか評価する必要がある。
情報の信頼性をはかる方法の一つが、その情報がどのような方法で導き出されたものかを調べることだ。

医療での世界共通認識として、ある治療法が病気の予防や治療に「効く」と主張するためには、研究対象となる人を無作為(ランダム)に二つの集団に分けて比べる「ランダム化比較試験」によって有効性が証明されていることが必要だ。

しかし、最も信頼性の高い情報に基づく予防法や治療法であっても、効果が100%というわけではない。
残念ながら効果のある人とない人が出てくるのが現実だ。
これを「医療の不確実性」という。

医療の不確実性について考える
https://www.asahi.com/articles/SDI201710094974.html

情報を「活用」するときの注意点
正確で信頼できる情報を入手したあとは、その情報をもとに行動を起こすか起こさないかの意思決定をおこなう必要がある。
 
ヘルスリテラシーの最終目標は「生涯を通じて生活の質を維持・向上させる」ことだから、そのための決断・行動の意思決定は重要だ。
だが、病気の予防や健康の維持・増進に関して、諸外国と比べて日本人は情報の「活用」に苦手意識を持っている人が多いようだ。
 
例えば「メディア(新聞、ちらし、インターネット、その他のメディア)から得た情報をもとに、病気から身を守る方法を決めるのは?」「健康と充実感に影響を与えている生活環境(飲酒、食生活、運動など)を変えるのは?」という質問に対して「とても難しい」「やや難しい」と回答している人の割合は50%を超えている。

「医療の不確実性」に耐え 意思決定を
では、この苦手意識を克服するためにはどうしたらいいのだろうか?
 
筆者しては「医療の不確実性に耐えること」が情報を活用する際のポイントになるのではないかと考えている。
 
正確で信頼できる情報でも必ず医療の不確実性が伴う。
つまり、正確で信頼できる情報を入手して、その情報通りに行動しても、効果が確実に保証されているわけではない。
 
しかし、人間誰しも、将来が不確実だと決断・行動の意思決定はできにくいものだ。
また、せっかく行動に移しても望む結果が得られなかったという失敗は避けたいと考えるだろう。
 
ここに落とし穴がある。
 
不確実性のあることはいやだと放棄したり、過度に失敗を恐れたりすることは、「◯◯するだけで病気知らず」「運動しなくても◯◯だけ飲めばダイエット成功」といった不正確で信頼性の低い情報に惑わされてしまうことにつながりかね ない。
 
これでは、せっかく情報を「入手」「理解」「評価」する能力を身に着けても元の木阿弥(もくあみ)だ。
 
だから、ヘルスリテラシーの最後の関門である情報の「活用」能力を鍛えるためには、正確な健康情報には必ず不確実性が伴うことを知り、その不確実性に耐えつつ、決断・行動の意思決定をすることが重要になってくるのではないだろうか。

参考・引用一部改変
朝日デジタル 2019.5.9




 
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2019.5.1 撮影