口のケアで全身健やか

口のケアで、全身健やか

■「唾液力」高め、病気防ごう 

健康長寿の秘訣に口周りの状態が関係している・・・。

そんな考え方に注目が集まっている。

 

目を開けて片足立ちが40秒以上できるかどうかを調べたところ、歯が20本以上ある人はまったくない人に比べてで出来る割合が高く、統計学的に意味のある差が出た。

片足立ちができないと転倒のリスクが高まり、健康長寿に影響する。

 

歯があって、「かめる」ことはとても大切だ。

よくかめる人のほうが、よく外出するという調査結果もある。

カニズムははっきりしていないが、80歳以上では歯が多くあるほうが視力もよかったという報告もある。

 

こうした報告をみると、歯があることが生活の質を高めていると言えそうだ。

入れ歯でも効果はあり、歯がない場合には入れ歯を入れるとよい。

 

歯がなくなる大きな原因は歯周病だ。

歯周病は現在、全身疾患に影響を及ぼすことがわかっている。

口の中をきれいにすることは全身の病気を防ぐことにつながる。

 

動物実験だが、歯周病認知症を進めるという研究結果がある。

口の中の細菌が大腸がんの細胞の中に入り込み、がん細胞を活性化させる例があることもわかってきた。

心筋梗塞のリスクが高まったり、膠原病を悪化させたりすることも知られている。

 

歯を守る基本は、やはり歯磨きだ。

とくに寝る前は大切だ。

唾液は口の中を洗い流す作用があるが、睡眠中には唾液が減りる。

細菌が増えやすくなり、口の中が汚れる。

寝る前の歯磨きが大切なのはそのためだ。

 

唾液の量は加齢に伴って減る。

虫歯になりやすくなり、口の汚れから口臭がひどくなる。

唾液はかむ力にもかかわるので食べにくくなる。

 

脳機能を守る力が弱まるとも言われている。

唾液腺でつくられる物質に「BNDF」というものがある。

脳神経の細胞を活性化する、とても重要な物質だが、加齢に伴って唾液中のBNDFが減ります。

 

唾液の量や質を維持することがいかに重要かがわかる。

「唾液力を高めることは健康長寿の第一歩」と言える。

 

「唾液力」を高めるには、どうすればいいのか。

ひとつは、よくかんで食べることだ。

そのためには歯ごたえのある食材を選ぶとよい。

咀嚼することで唾液が出る。

野菜や果物などの抗酸化食品は、唾液の量を増やす。

梅干しや昆布茶などでも唾液は増えるが、これらの場合、塩分のとりすぎに注意が必要だ。

 

唾液腺を刺激するマッサージもおすすめだ。

耳の前のあたりに指を3~4本置き、10回ぐらいゆっくりと回す。

唾液力を意識してぜひ、生活してみて欲しい。

  

■ 日々鍛えて のみ込む力を

口から食べ、のみ込むためのリハビリ「摂食嚥下リハビリテーション」というのがある。

 

脳卒中の麻痺が残る高齢の患者さんの口の中には、ベッタリと食べ残したものがはりついていることがある。

そういった方には口のリハビリが必要だ。

 

健康な人は話すときなどに自然と唾液が循環し、自浄作用で口の中をきれいに洗い流してくれる。

一方、脳卒中の後遺症によるまひは手足だけでなく、口にも残る。

はりついても感じないし、すりつぶせない、のみ込めない。

唾液が循環せず、虫歯が一気に広がる。

 

舌にコケが生えている場合も多い。

このコケは「細菌の巣」ですが、これを誤って気管にのみこんでしまうと、誤嚥性肺炎につながり、命を落としかねない。

 

口の中は見えにくく、リハビリの必要性が認識されて来なかった。

しかし手足と同じように、口の機能を保つためのリハビリが必要だ。

 

もちろん、こうしたリハビリによって、麻痺が残り車椅子を使うようになった方が、立って帰れるようになるわけではない。

しかし、健康とは「病気がない」ということではない。

快適で愉快な時間を積み重ねていくことが大事で、病気や障害があっても、人は健康に暮らすことができる。

 

そのためには、「体の声」をしっかり聞く、ということが大切だ。

頭痛があるから、と頭痛薬をのめば、痛みは和らぐかもしれない。

しかし根本的な原因を取り除いてくれたわけではない。

「休んで。無理がたたっている」という体からの声だととらえたい。

医療任せにせず、自分の最大の主治医は自分自身なんだと考えたほうがよい。

 

ご自身でできることは・・・。

 

たとえば「うつぶせ寝」は腹筋や背筋のトレーニングにもなり、咀嚼や嚥下にいい影響がある。

1日30秒~1分でいいのでやるとよい。

 

仰向けの状態で頭を上げ、つま先のほうを見る。

のど仏に力を入れ5~10カウント。

これを2~3回繰り返すと、のど仏の周囲の筋力強化につながる。

年とともにむせやすくなった方には特におすすめだ。

 

唇を「ウー」とすぼめ、「イー」と横に広げる。

ほおを膨らます、すぼめる、舌を出して動かす。

「口ストレッチ」は口の機能を維持するのに役立つ。

歯磨きのついでに、鏡を見ながらやってみよう。

 

「健康」とは「感じること」。

気持ちいい、さっぱりした、うれしい。こうした感性を積み重ねていくことが健康であり、幸せにつながっていくのではないだろうか。

 

検査値や薬ではなく、自分自身の感性、体の声を信じて日々を健康に過ごしたい。

 

■パネルディスカッション 大きめ食材、ゆっくりかんで

―― 唾液の質はどうしたら高められるか?

唾液は、緊張すると交感神経が活性化されてネバネバになり、リラックスするとサラサラになる。

サラサラが増えたほうが口の中は快適だ。

ストレスをできるだけ受けないようにするのが大切だ。

 

―― 朝起きると口の中が渇くという悩みは多いです。

睡眠中は口やのどが動かず、唾液が出ない。

起床時にはネバネバした唾液になり、口臭も強くなる。

これは誰にも共通の生理的なものだ。

口を機能させることがどれだけ重要か、わかってもらえると思う。

口の中の細菌はゼロにはできない。

朝はとくに多くなる。

細菌が増えれば口臭も出る。

朝起きた後に歯磨きなどでケアすれば、改善すると思います。気になる場合は、歯科を受診してください。

 

――入れ歯をしている人が注意することはありますか。

よくかむことができれば、唾液が出てくる。

歯がない場合、入れ歯はとても大切だ。

 

入れ歯は使いづらく、かえってかめないという人は無理はせず、なくてもおいしく食べられるならば、食材を工夫するなどしていただくやり方でもいいす。

 

―― 誤嚥を防ぐにはゆっくりかむことが大切と聞きます。ゆっくりかむコツを教えてください。

少し大きめに野菜などの食材を切って料理するとよい。

小さく切ると、どうしても急いでのみ込んでしまう。

食べることに感謝したい。

肉も魚も野菜もすべて命だ。

あっさりと食べたら失礼だ。

そう考えると、自然とかむ回数も味わい方も変わってくるのではないだろうか。

 

参考・引用一部改変

朝日新聞・朝刊 2020.3.10