あっ・・・「ぎっくり腰」 その直後、激痛でも動ける裏技
ある日突然、激しい痛みに襲われるぎっくり腰。
経験者は誰しも「あの痛みは二度と繰り返したくない」と思うものだ。
しかし、実際には、ぎっくり腰を二度、三度と繰り返す人や、ぎっくり腰をきっかけに腰痛が慢性化してしまう人も少なくない。
腰痛持ちにならないためには、ぎっくり腰発症直後の対応が大事だ。
腰痛には安静よりも運動が有益であり、心理的ストレスが強く影響する。
ぎっくり腰とは何か?
ぎっくり腰は、重い荷物を無防備な状態で持ち上げようとしたり、床に落としたものを拾おうとしたり、くしゃみやせきをした拍子に起こることが多い。
現代人は、長時間パソコンに向かったり、スマートフォンをチェックしたりするため、猫背や前かがみの姿勢になりがちだ。
腰椎の4番目(L4)と5番目(L5)の間にある椎間板(L4/5椎間板)には、無防備に前にかがむだけ
で200kgの物がのっかるくらいの負荷(200kg重)がかかる。
コメント;
どうしてそんな負荷がかかるか不思議といえば不思議です。
その状態で物を持ち上げたり、くしゃみで瞬間的に前かがみになると、腰にはさらに負担がかかり、椎間板の髄核が大きくずれて線維輪を傷つけてしまうことがある。
それが典型的なぎっくり腰だ。
猫背や前かがみ姿勢に伴う、主にL4/5椎間板にかかる負担を「腰痛借金」と呼ぶ専門家がいる。
借金がたまった結果の「二大事故」が「ぎっくり腰」と「椎間板ヘルニア」[注]。
[注]ぎっくり腰は髄核がずれて線維輪を傷つけてしまった状態。椎間板ヘルニアは、髄核がさらにずれて線維輪よりも外側に飛び出し、神経を刺激してしまった状態。
事故を未然に防ぐためには、姿勢を良くして借金をためないことと、たまった借金を返済することが大切だ。
前かがみの姿勢でたまった借金は、腰を後ろに反らすことで返済できる。
痛くても安静はNG
ぎっくり腰は痛みが激しいため、特に初めての時はパニックになりがちだ。
発生直後は確かに気が動転して動けなくなることもあるだろうが、落ち着けば意外と動ける場合も少なからずある。
まずは気持ちを落ち着かせ、平常心に戻ってきたら、できる範囲で「ぎっくり腰体操」と「レッグレイズ」をやってみよう。
これらを行うと痛みをやりすごすことができたり、回復が早まる可能性がある。
「ぎっくり腰体操」
(1)うつぶせになり、3分くらい深呼吸をしながらリラックス。
(2)枕やクッションがあれば、胸の下に入れて、さらに3分深呼吸。
(3)ひじから下を床につけたまま、3分深呼吸。
(4)腕の力でゆっくりとひじを伸ばしつつ、痛気持ちいいと感じるところまで少しずつ腰を反ら
す。5~10秒間キープした後、元に戻す。これを10回繰り返す。
(5)可能であれば数回だけ、息をゆっくりと吐きながら行けるところまで腰を反らしてみて、5~
10秒間キープする。
【ポイント】
・腰を反らした時に一時的に痛みを感じても、うつ伏せに戻った時に痛みが軽くなっていれば問題な
い。
ただし、お尻から太ももへ痛みが響くなら中止!
・ぎっくり腰体操だけでもいいが、できそうならレッグレイズを先に行うとより効果的。
(1)四つんばいの姿勢をとり、背筋を伸ばす。
ひざが股関節より少し前に出るように調節する。
(2)丹田を意識し、左脚を腰の高さまで上げ、10秒キープしたら元に戻す。
右脚も同様に行う。
左右交互に繰り返す。
【ポイント】
・左右どちらかに痛みがある場合は、痛い側の膝をつき、片側だけ繰り返し行う。
・できない時は無理にやらなくていいが、できる場合は、レッグレイズをやってからぎっくり腰体操
を行うと、背中の筋肉の緊張が緩んでより効果的。
・「動かしても大丈夫」と思うことが大切。
多くの人が、楽になる姿勢を探してジッとしているのが精いっぱいだったのに、この痛みの最中に体操だって? と思う人が大半のはずだ。
救急車を呼ぶなどして、すぐに病院に行ったほうがいいのではないかと思った人もいるかもしれない。
例えば、じっと動かないでいると痛くないなど、「こうすると楽だ」という姿勢がはっきりある場合[注]、あわてて病院に行くことはない。
ぎっくり腰の痛みは、例えば椎間板の髄核が後ろにずれた時にできた傷や炎症が原因となる。
「ぎっくり腰体操」はこれを元に戻すもので、動けなくなった時に、多少でも動けるようになる裏技と思ったほうがよい。
背中からお尻、脚の筋肉が緊張しないように、できるだけリラックスして行うのがコツだ。
[注]楽になる姿勢がはっきりある場合はぎっくり腰だと考えられるが、楽になる姿勢がなく、うずく時間が一定時間続く場合は、骨折やがんの転移、感染性脊椎炎など、別の病気による痛みと考えられるため、医療機関の受診を。
動いたほうが痛みが長引かず、ぎっくり腰の再発率が低い
レッグレイズにはどんな意味があるのだろうか?
おへそから5cmほど下のいわゆる丹田を意識してレッグレイズを行うとインナーマッスルである腹横筋や多裂筋が働き、それに連動してアウターマッスルである脊柱起立筋が緩む。
ぎっくり腰で痛む時はアウターマッスルが緊張した状態だ。
この緊張も痛みの原因なので、レッグレイズには痛みを和らげる働きがあるのだ。
ぎっくり腰は、動かすと痛いので安静にしがちだが、「ぎっくり腰の痛みは、放置すると悪化するとか、体にとって良くないことが起こるなどの可能性は基本的にはないので、動かしても問題はない。むしろ、腰をかばって動かさずにいると、腰や背中の筋肉が緊張して血流が悪くなり、疲労物質がたまって発痛物質が増えてしまう。
ぎっくり腰の後に「安静にした場合」と、「できる範囲で動いた場合」の勤労者を比べた研究では、できる範囲で動いたほうが痛みが長引かず、ぎっくり腰の再発率が低かったという。
現在、西欧諸国や日本の腰痛の診療ガイドライン(治療指針)では、ぎっくり腰などの心配な病気のない急性の腰痛には安静が推奨されていない。
腰の痛みが激しい場合、当日、翌日くらいは仕事を休んでも仕方がないが、痛み止めの薬を飲みながら、家事などでできそうなことがあれば、普段通りにやろう。
寝たきりで安静にする必要はない。
海外のガイドラインでは、ぎっくり腰などの心配な病気のない一般的な急性の腰痛の場合、安静にして寝ているのは長くて2日までとしているものが多い。
ヘルニアや骨の変形が痛みの原因とは限らない
ぎっくり腰で整形外科に行き、X線検査を受けた後、画像を見ながら先生に、「椎間板がすり減っているね」「骨に棘(とげ)がありますよ」などと言われたことはないだろうか。
これ以上悪くなったらどうしようと不安になった人もいるだろう。
椎間板のすり減りや骨の棘は治療しなくていいのだろうか。
コメント;
レントゲン写真だけですべてを語る整形外科医(特に開業医)をみかけますが、普通のレントゲン写真には自ずから限界があります。
なぜならレントゲン写真は骨しか写らないからです。
レントゲン写真による「椎間板のすり減り」は、椎骨と椎骨の間隙(隙間、専門用語では「椎間啌」)が狭くなっていることで診断します。
これはあくまでも想定診断であって確定診断ではありません。
症状と診断の間にギャップがあるようなら腰椎MRIなど、次のステップの診断法に進むべきです。
画像診断はぎっくり腰と他の病気を鑑別するために行うが、その際、骨の変形(棘)やちょっとしたズレ、ちょっとした椎間板ヘルニアなどが見つかることはよくある。
ほとんどは加齢による変化で、白髪やシワのようなものだ。
これらは必ずしも腰痛と関連するわけではない。
ちなみに、腰痛がない人でも40~59歳の約8割、60歳以上の約9割に椎間板の異常が見られたという有名な論文さえある。[注]
[注]J Bone Joint Surg Am. 1990 Mar;72(3):403-8.
中高年にとって骨や椎間板の異常があるのは自然なこと。
あまり心配はいらない。
むしろ、心配や恐れなどのストレスは脳に影響し、腰の痛みを増幅させたり、長引かせたりする。
腰の痛みや加齢による変化を過剰に心配したり、怖がったりしすぎないことが大切だ。
冷静に「動かしても大丈夫なんだ」と思い、体操をしたり、なるべく早く日常生活に戻るようにするといい。
参考・引用一部改変
日経Gooday 2020.4.14