悪玉たんぱく質、重症化の一因か 体守る免疫物質を無力化
新型コロナウイルスに感染すると、多くの人が軽症ですむ一方で、深刻な肺炎や血栓を起こしてしまう人もいる。
なぜ、一部の人で重症化するのか。
原因の一つとして疑われているのが、感染した人の体内で自身によくない作用をする「悪玉たんぱく質」だ。
感染して間もないころは、せきや頭痛、味覚の異常、発熱を感じるなど軽い
症状だったのに、数日後、急に呼吸が苦しくなり、エックス線やコンピューター断層撮影(CT)で肺をみると炎症を示す白い影が映る。
さらに、全身の臓器の機能も落ち、肺や脳などの血管がつまる血栓も起きて・・・。
新型コロナで重症化する人はこうした経緯をたどることが多い。
重症化のリスクといわれる糖尿病や肥満などがなくても、重い症状に見舞われることがある。
その要因の一つではないかと考えられているのが、悪玉のたんぱく質の存在だ。
新型コロナに感染すると、体内で「抗体」と呼ばれるたんぱく質ができ、次
にウイルスがきても細胞に感染しないようにしてくれる。
これはいわば「よい抗体」だ。
ワクチンを打つのも、感染する前に同様のよい抗体を体内でつくっておくことが主な目的だ。
一方、健康を保つための体の機能をじゃましてしまう「困った抗体」もあ
る。
正式には、「自己抗体」と呼ばれている。
昨年秋、フランスや米国などの研究チームは、重い肺炎に陥った約1千人の1割ほどに、ウイルスから体を守るのにかかわる「インターフェロン」という免疫物質を無力にしてしまう自己抗体がみつかった、と発表した。
インターフェロンは、新型コロナに感染した初期のころに体内で増える。
自己抗体によりインターフェロンが不足し、ウイルスの増殖を抑えきれ
ずに重症化につながった可能性がある。
こうした自己抗体は、たくさんの種類があることもわかってきた。
米エール大の岩崎明子敦授たちのチームが調べたところ、感染した患者の血液からは作用がよくわからないものも含め約120種類の自己抗体が見つかった。
異物から体を守る免疫の働きをじゃまするものもあれば、脳や心臓、血管といった臓器や組織に結合するものもあり、臓器などの働きを損ねている可能性があるという。
感染がきっかけで、自己抗体が自分自身に悪さをす例は以前から知られてい
た。
たとえば、発疹や倦怠感、関節痛といった症状を起こす全身性エリテマトー
デス(SLE)という病気では、EBウイルスヘの感染が発症のきっかけの一つ
になると指摘されている。
新型コロナを発症してしばらくしてから重症になるのは、感染してから自己抗体が暴れ出すまで、一定の時間がかかるからではないか、との推測もある。
自己抗体が重症化のかぎだとすれば、それを調べることでより効果的な治療が生まれるかもしれない。
岩崎さんたちは、今回の研究に使った方法で、コロナに感染した患者らの血液を調べ、自己抗体のタイプに応じた治療ができないかと考えている。
たとえば、インターフェロンヘの自己抗体があれば体外から代理のインターフェエロンを補う、免疫の暴走につながる自己抗体なら、その働きをじゃまする薬を使う、といった具合だ。
血液をいったん体外に取り出して、自己抗体を取り除く方法も提案されている。
ただ、たくさんの自己抗体をすぐに見分ける手法は開発されたばかりで、日常の診療では使えない。
抗体のタイプに応じた治療の効果も臨床試験で確かめなければならない。
実用化にはまだ時聞かかかりそうだ。
参考・引用一部改変
朝日新聞・朝刊 2021.5.30